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第7話:数字の牙城と剣の芽

第7話をお読みいただきありがとうございます!

ルシアンの屋敷で暮らし始めたアレン。今回は、元・新選組副長としての「恐るべき実務能力」と、後に特務隊の主軸となるセレナとの大事な出会いの回です。

アレンの冷徹な「鬼の目」が、屋敷に潜む不穏な影を捉えます――!

ルシアンの屋敷に身を寄せて数週間。

主であるルシアンは、執務室で山積みの書類を前に、驚愕で目を丸くしていた。


「……アレン、君の文字の上達は早すぎますよ。この世界の読み書きを覚えるだけで、普通は数年はかかるものなのですが……正直、驚きました」


土方は手元の陳述書から目を離さず、淡々と返した。


「文字は単なる道具だ。使い方がわかれば、馴染むのに時間はかからん」


前世において、巨大な武闘派組織の副長として、隊士たちの不祥事や上申書を毎日のように裁き続けてきた土方だ。報告書を読み解き、その要旨を整理するなど、彼にとっては呼吸をするのと同義であった。


ルシアンは父から後継者教育の一環として実務の一部を任されていたが、今やその多くは土方が要約し、完璧な判断の助けを出している。


「さて、仕事はこのくらいにしましょうか。今日も魔法の勉強の時間ですよ」


ルシアンが年相応の明るい笑顔で立ち上がる。土方もまた、羽ペンを置き、腰を上げた。


「……もうそんな時間か。よかろう、付き合ってやる」


その時、扉の隙間から、ルシアンの妹であるセレナがこちらを覗いているのに気づいた。

だが、目が合うと、セレナは慌てて小動物のように逃げ出していく。


(……馴染めていないのは、俺の顔が怖いからか。まあ、時間はいくらでもある。放っておくのが一番だろう)


土方はそう判断し、あえて追うことはしなかった。


■ 少女の剣、鬼の目


数日後。屋敷の片隅にある古びた訓練場を通りかかった土方は、ふと足を止めた。


そこでは、セレナが一人、汗まみれになりながら必死に木刀を振るっていた。


(……ほう)


土方の目が細まる。

魔法の才能がないと周囲から揶揄されている少女の振る撃ちには、不思議な「理」が宿っていた。

無駄のない足捌き、そして線の細い筋力に頼らず、遠心力を綺麗に乗せる軌道。


(……驚いたな。あの子、剣の才だけなら、その辺のふんぞり返っている騎士より余程上だぞ)


土方が無造作に訓練場へ足を踏み入れると、セレナは驚き、怯えたようにぺこぺこと頭を下げて後退りした。


「……待て。逃げる必要はない」


土方は歩み寄り、怯える彼女の視線に合わせて、すっと腰を落とした。


「ずっとここで振っていたのか」


「……はい。お兄様のような魔法の才能がないので……せめて、何か一つでもと思って……」


「セレナ、自分を卑下するな。お前には剣の才能がある。それも、並外れたものだ」


セレナが、弾かれたように顔を上げた。

その瞳には、生まれて初めて自分を肯定された戸惑いと、隠しきれない純粋な喜びが混じり合っている。


「……でも、魔法が使えないと、この世界では……」


「剣術も魔法に匹敵する。俺がこれまで戦ってきた奴らは皆、魔法という便利な力に頼りすぎて隙だらけであった。戦い方次第で、世界のことわりなどいくらでも断てる」


土方の言葉には、数々の修羅場を潜り抜けてきた本物の武士もののふだけが持つ、圧倒的な重みがあった。


「暇がある時に見てやろう。俺の流儀は厳しいが……ついてこれるか?」


「はい……! お願いします、アレン様!」


少女の顔に、見違えるような強い活力が灯った。


■ 嘘を吐く帳簿


セレナと別れた後、いつの間にか背後に立っていたルシアンが感心したように話しかけてきた。


「セレナがあんなに喜ぶ姿は初めて見ました。ありがとうございます、アレン」


「当たり前のことを言ったまでだ。あの子の筋はいい。放っておくのは組織の損失だな」


「ふふ、本当に君は僕と同じ子供なのですか? 時々、人生を何周もした賢者に見えますよ」


「……老け顔だと言っただろう。行くぞ、坊主」


執務室に戻った土方は、ルシアンが魔法の教本を開いている傍らで、一冊の古い帳簿を手に取った。

パラパラと頁をめくっていた土方の指が、ある一箇所でピタリと止まる。


(……合わんな)


数字が不自然に踊っている。

魔法師や並の役人が見れば「ただの誤差」で済ませるような、極めて微細な不整合。

だが、土方の脳内にある、かつて新選組の勘定方(会計)とシビアに渡り合ってきた鋭い嗅覚が、その奥に潜む「悪臭」を逃さなかった。


(……ただの書き間違いではない。巧妙に、だが確実に数字を操作し、金を抜き取っている。……なるほど、どこにでもいるわけだ。誠の道から外れ、己の懐を肥やす泥棒猫どもが)


土方は冷徹な眼差しで、嘘を吐く帳簿をじっと見つめた。


「横領、か」


新選組副長として、組織の規律を乱す腐敗を最も嫌った男の瞳に、静かで苛烈な「鬼」が宿る。

法を犯した鼠には、それ相応の報いを受けてもらわねばならない。


「……さて、どう料理するか」

文字の上達が早すぎるアレン(中身:土方歳三)、さすがです(笑)。

そしてセレナの隠された才能を見抜いたアレンですが、今度は屋敷の闇(横領)を見つけてしまいました。新選組副長を怒らせたネズミたちの運命やいかに……!


次回の展開が気になる!面白い!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや、広告下の【☆☆☆☆☆】の評価(カクヨムなら★)で応援していただけると大変励みになります!


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