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第68話:特級魔導書庫最深部、魔力ゼロの執事が「特異点」と判定される

セレナをグランヴェル家の寮まで送り届けた頃には、学園の空はすっかり夜の色に沈んでいた。

「今日は、ありがとうございましたわ、アレン」

寮の入口で振り返ったセレナは、職人通りの土埃で裾を少し汚したドレスを気にすることもなく、両手を胸の前でそっと握りしめていた。公爵令嬢としては少しばかりはしたない姿かもしれない。だが、アレンからすれば、泥を嫌がらず職人の手元を真剣に見つめていたその姿の方が、よほど武人らしく見えた。

「神木烏木の加工は、数日かかるそうです。完成したら、まずは握り方から叩き直します」

「ええ。望むところですわ」

セレナは凛と顎を上げた。けれど次の瞬間、どこか嬉しそうに頬を染める。

「……私、必ずその木刀を振るうあなたの隣に立ってみせます」

「口だけなら誰でも言えますよ、お嬢様。明日からの足腰の鍛錬で、まずはその覚悟を見せてもらいましょう」

「うっ……。お、お手柔らかに」

「手柔らかに鍛えて強くなるなら、世の中に弱者はいません」

「そこは少しくらい甘くしてくださいまし!?」

いつものように情けない声を上げるセレナを見送り、アレンは小さく息を吐いた。

その腰にある和泉守兼定の下げ緒には、リナの手作りのお守りが揺れている。職人に預けた神木烏木は、数日後には新しい木刀となる。セレナは武の隣を望み、リナは心の近くから追いかけてくる。

そして今、エレノアからは「特級魔導書庫最深部で研究を手伝え」と呼び出しが来ている。

「……やれやれ。休みの日ってのは、どこの世界でも長続きしねえな」

ぼそりと零したその声に、背後の茂みがぴくりと揺れた。

「誰が休みの日まで貴方を監視しているサボりメイドですか」

「そこまでは言ってねえよ」

振り返るまでもない。私服姿のフェリスが、まだ尾行の続行を諦めていなかった。先ほど果実の串焼きを口に押し込まれてから、妙に距離が近いのが気に食わない。

アレンが一瞥すると、フェリスはすぐに冷徹なメイドの顔を取り戻し、胸を張った。

「ルシアン様より、貴方の動向に不審がないか確認する任務を受けています」

「若旦那はそんな細けえ命令は出してねえはずだが」

「私が必要と判断しました」

「勝手な任務が多い家だな、ロベルト家ってのは」

「貴方にだけは言われたくありません」

フェリスは無表情のまま、だが目だけは妙に悔しそうに細めている。アレンはそれ以上からかうのをやめ、夜の校舎の奥へ視線を向けた。

「行くぞ。教授が待ってる」

「……やはりエレノア教授の元へ?」

「特級魔導書庫最深部だそうだ。面白い特異点を見つけた、とよ」

その言葉を聞いた瞬間、フェリスの琥珀色の瞳がわずかに鋭くなった。

「特異点。つまり、貴方のことですね」

「決めつけが早えな」

「貴方以外に、この学園で禁忌扱いされるほど意味不明な存在はいません」

「褒め言葉として受け取っておく」

「褒めていません」

言い合いながらも、二人の足取りは速かった。アレンは音もなく、フェリスも影のように、夜の学園をすり抜ける。白亜の回廊、魔導灯の淡い光、誰もいない講義棟。昼間の華やかな学園とは違い、夜の校舎は古い城の腹の中のように冷たく静まり返っていた。

やがて二人は、特級魔導書庫の管理室へたどり着いた。

扉を開けると、そこには清潔な空間が広がっている。数日前まで本と紙と衣服の山に埋もれていたとは思えないほど、机も棚も完璧に整えられていた。

ただ一箇所だけ、ソファーの上に脱ぎ捨てられた深紅のショールが雑に丸まっている。

アレンはそれを無言で拾い上げ、畳み、背もたれへ整えて掛けた。

「……アレン。あなた、入って最初に私の部屋の乱れを直すの、もう癖になってない?」

奥の机から顔を上げたエレノアが、苦笑交じりに言った。

「癖にさせたのは教授でしょう」

「返す言葉もないわね」

エレノア・フォン・ローゼンバーグは、今夜も深紅のドレスを纏っていた。だが、いつもの気だるげな色気の奥に、明らかな緊張がある。机の上には分厚い古代魔導書と、複雑な魔法陣が描かれた羊皮紙がいくつも広げられていた。

「それで、特異点とは何ですか」

アレンが切り出すと、エレノアは楽しげに目を細めた。

「せっかちね。まずはお茶を淹れてからでも」

「用件がそれだけなら帰ります」

「冗談よ。半分くらいは」

「半分は本気なのですね」

フェリスが冷たい声を挟んだ。エレノアは肩をすくめる。

「ロベルト家の子も来たのね。ちょうどいいわ。あなたも証人になりなさい。今夜見るものは、学園の機密になる」

「機密に該当するなら、なおさらこの男を近づけるべきではありません」

「あら。その男が機密そのものなのよ」

エレノアは机上の羊皮紙を一枚取り、アレンの前へ滑らせた。

そこには、いくつもの項目が記されていた。

魔力値、ゼロ。

魔力の器、検出不可。

魔力殻形成能力、検出不可。

外部術式への干渉反応、異常。

従魔名付け痕、反応あり。

肉体強度、人類基準外。

魔力殻破壊反応、確認済み。

気魄圧による禁書残留思念の屈服、確認済み。

フェリスが横から覗き込み、無表情のまま固まった。

「……項目が、全部おかしい」

「でしょう?」

エレノアは嬉しそうに笑う。

「普通、魔力がない人間は魔法体系の外側にいるだけ。弱い、使えない、測る意味がない。それで終わりよ。でもアレン、あなたは違う。魔力がないのに魔力殻を斬る。魔力がないのに従魔へ名付けを行った痕跡がある。魔力がないのに禁書の残留思念があなたを恐れて閉じた」

エレノアの声が、研究者の冷たさを帯びていく。

「あなたは魔力がないんじゃない。魔力の体系が、あなたを測れないのよ」

アレンは羊皮紙から目を上げた。

「測れねえなら、測れる形に引きずり出せ。俺も自分の懐に何を飼ってるか、知らねえまま戦う趣味はない」

その言葉に、エレノアの瞳がぎらりと輝いた。

「そう言うと思ったわ」

彼女は立ち上がり、管理室の奥にある書架へ手をかざした。深紅の魔法陣が幾重にも浮かび、壁そのものが低く唸りながら左右へ開いていく。

その向こうには、下へ続く螺旋階段があった。

冷たい風が、地下から這い上がってくる。紙と石と古い血のような、奇妙な匂いを含んだ風だった。

「特級魔導書庫最深部。禁忌術式、古代魔導具、学園が表に出せない失敗作を封じた場所よ。今夜はそこで、あなたを測る」

「……やはり危険です」

フェリスが短刀を隠した袖に指を添える。

「エレノア教授。この男が暴走した場合、止められる保証は?」

「ないわ」

あまりにもあっさりとした答えだった。

フェリスの眉がぴくりと動く。

「ないのですか」

「ええ。でも、観測しない方がもっと危険よ。黒の円卓が学園にまで手を伸ばしている以上、未知の札を未知のまま放置する余裕はない。アレンが何であるかを、私たちは少しでも知る必要がある」

エレノアはアレンを見た。

「もちろん、嫌なら断っていいわ。研究者としては泣くほど惜しいけれど、あなたを無理やり実験台にする趣味はないもの」

アレンは静かに腰の兼定へ触れた。リナのお守りが、下げ緒でかすかに揺れる。

名付け。アルク。金剛丹。赤黒い炎。魔力殻を斬る手応え。神木烏木。

己の内側にあるものが何であれ、それが仲間を守る刃になるなら利用する。逆に仲間を害するものなら、己ごと斬る。

それだけの話だった。

「行きましょう、教授」

アレンは迷わず階段へ足を向けた。

「俺の中に火種があるなら、早いうちに正体を見ておいた方がいい」

フェリスが小さく息を呑む。

エレノアは満足げに微笑み、先導するように階段を下り始めた。

特級魔導書庫最深部は、図書館というよりも墓所に近かった。

黒い石で組まれた広大な円形空間。壁には鎖で縛られた魔導書が並び、床には幾重もの封印陣が刻まれている。天井から吊るされた水晶灯は淡く青い光を放ち、空間全体を水底のように照らしていた。

中央には、巨大な測定陣が描かれていた。

円環、三角、古代文字、魔力回路。そのどれもが複雑に絡み合い、まるで獲物を待つ蜘蛛の巣のように静かに光っている。

「古代術式【根源照覧の環】。魔力の器、魔力殻、魔力流路、契約痕、魂の残響まで可視化すると言われているわ」

「魂まで覗くとは、ずいぶん悪趣味な術ですね」

「否定はしないわ。だから禁忌扱いなのよ」

エレノアは苦笑し、周囲の封印柱へ魔力を流し込んだ。

「ただし、今夜は魂の直接観測まではしない。見るのは、名付け痕と外部術式干渉反応だけ。あなたがアルクに名付けをした時、魔力ゼロのはずの体から何が支払われたのか。それを確認したい」

「アルクに害は?」

「出ないようにする。誓うわ」

エレノアの声に、普段の軽さはなかった。アレンは一度だけ頷き、測定陣の中央へ立った。

フェリスは円の外で短刀を握りしめ、アレンから目を離さない。

(この男、平然と禁忌術式の中心に立った……。恐怖心がないのですか。いいえ、違う。恐怖を理解した上で、必要なら踏み込む覚悟がある。ますます危険です。危険なのに──)

フェリスは奥歯を噛む。

(ルシアン様の盾としては、あまりにも有用すぎる……!)

「始めるわ」

エレノアが杖を掲げる。

測定陣が光を帯びた。淡い青の光がアレンの足元から立ち上がり、膝、腰、胸、喉元へと這い上がっていく。

最初は、何も起きなかった。

「……魔力の器、反応なし。魔力流路、反応なし。魔力殻形成痕、反応なし」

エレノアが冷静に読み上げる。

「本当に、空っぽね。普通ならここで終わり」

「普通ではないから、呼んだのでしょう」

「ええ」

エレノアが術式を一段深く沈めた。

その瞬間、測定陣の色が変わった。

青ではない。黒に近い、鈍い赤。まるで乾いた血が水に滲むような色が、アレンの足元からじわりと広がっていく。

フェリスが反射的に身構えた。

「エレノア教授」

「分かってる。これは魔力じゃない」

エレノアの声が震えていた。恐怖ではなく、興奮で。

「契約痕……違う。名付けの残響は確かにある。でも、それだけじゃない。これは、何……?」

アレンは己の胸の奥で、かすかな軋みを感じていた。

痛みではない。金剛丹の時のような肉体の破壊でもない。ただ、自分の内側にある見えない深井戸へ、誰かが松明を投げ込んだような感覚だった。

火が落ちる。だが底に届かない。

どこまでも暗い。

「教授。何が見えている」

「……穴よ」

エレノアが呟いた。

「器じゃない。流路でもない。あなたの中心に、魔力を蓄える器の代わりに、何かを吸い込む穴がある。魔法体系があなたを測れない理由は、空っぽだからじゃない。術式が、あなたの内側に落ちるのよ」

その言葉が終わる前に、測定陣が悲鳴を上げた。

ギィィィィンッ!!!

床の古代文字が一斉に赤く染まる。円環が歪み、魔力回路が逆流し、封印柱の水晶がひび割れた。

「まずい、術式が自分の測定結果を処理できていない! アレン、そこから離れて!」

エレノアが叫ぶ。

だが、遅い。

測定陣から黒い鎖のような術式が噴き上がり、アレンの手首、足首、喉元へ殺到した。魔力殻を幾重にも重ねた拘束術式。解析対象を逃がさないための古代の安全装置が、暴走して牙を剥いたのだ。

フェリスが影を蹴る。

「【紫煙の傀儡毒】!」

紫の針が黒い鎖へ突き刺さる。だが、魔力循環を麻痺させる彼女の毒は、術式そのものの外殻を鈍らせるに留まった。

「くっ……! 生物ではない術式相手では、効果が薄い……!」

「十分だ」

アレンの声が、ひどく静かに響いた。

彼は逃げなかった。迫る鎖を、まるで敵兵の槍衾でも眺めるように見据えていた。

魔力殻。薬莢。殻の中に込められた力。ならば見るべきは、光でも熱でもない。

継ぎ目だ。

「なるほどな。お前らも結局は、殻で形を保っているだけか」

アレンの右手が、兼定の柄に触れる。

だが、刃は抜かない。ここは書庫だ。禁忌の魔導書と封印術式が密集している。むやみに斬れば、何を巻き込むか分からない。

代わりに、左手が鞘を握った。

金剛丹で作り替えられた筋肉が、音もなく収束する。足裏が床の歪みを読み、腰が沈み、呼吸が消える。

幕末の路地裏で、斬る前に相手の重心を読むように。箱館の硝煙の中で、弾の光から射手の位置を割り出したように。アレンは黒い鎖の魔力殻、そのほんのわずかな接合部を見切った。

「そこだ」

カン、と乾いた音がした。

兼定の鞘の先端が、黒い鎖の横腹を叩く。

ただそれだけだった。

だが、次の瞬間、拘束術式の一本が内側から砕け散った。

「なっ……!?」

フェリスの目が見開かれる。

アレンはすでに次の一歩へ移っていた。瞬歩ではない。もっと小さい。半歩にも満たない重心移動。けれど、その半歩で、彼は術式の死角へ滑り込んでいた。

カン。カン。カン。

三つの音が連続する。

迫っていた黒い鎖が、次々と形を失って霧散した。魔力そのものを消したのではない。魔力を形にしていた殻だけを割ったのだ。

「エレノア教授!」

フェリスが叫ぶ。

「分かっているわ!」

エレノアが両手を広げ、暴走した測定陣へ再封印の術式を重ねる。深紅の魔法陣が床を覆い、割れかけた封印柱の水晶に光が戻る。

だが、測定陣の中心にはまだ核が残っていた。

黒い眼球のような魔力の塊。それがアレンの胸元を見つめ、ぎょろりと蠢く。

その瞬間、アレンの脳裏に、聞こえるはずのない声が響いた。

──器なし。

──流路なし。

──されど契約あり。

──されど肉体あり。

──されど死の残響あり。

──分類不能。

──異物。

──虚孔。

アレンの唇が、ひどく冷たく歪んだ。

「勝手に人の腹の中を覗いて、勝手に名前まで付けやがるとはな」

黒い眼球が震える。

アレンは鞘を腰へ戻し、今度こそ兼定の鯉口をわずかに切った。

抜かない。

ただ、殺気だけを流す。

京都の夜。血の匂い。会津への報告書。隊士の処断。鳥羽伏見の硝煙。箱館の冷たい風。近藤の首。沖田の咳。散っていった者たちの背中。

そのすべてを背負った鬼の気魄が、最深部の空気を押し潰した。

ピキィィィン……ッ。

黒い眼球に、亀裂が入った。

「俺を測りたきゃ、死線の一つでも越えてから出直してこい」

低い声と同時に、アレンの鞘が最後の一点を打った。

バキンッ!!!

測定陣の核が砕ける。

暴走していた赤黒い光が一気に萎み、床の古代文字が青白い残光へ戻っていく。封印柱の水晶も静かに沈黙し、最深部には、三人の呼吸音だけが残された。

長い沈黙。

最初に口を開いたのは、フェリスだった。

「……この男、やはり危険です」

その声は、いつもの冷徹さを装っていたが、ほんの少し震えていた。

「ですが」

フェリスはアレンを見つめる。

「ルシアン様の盾としては……あまりにも有用です」

「今さら気づいたか、サボりメイド」

「サボっていません。あと、少し見直しただけです。決して信用したわけではありません」

「はいはい」

「子供扱いしないでください」

いつものやり取りを始めた二人を見て、エレノアはようやく詰めていた息を吐いた。額には薄く汗が滲んでいる。それでも、その瞳はこれ以上ないほど輝いていた。

「虚孔……。古代術式がそう呼んだわね」

「何だ、それは」

アレンが問うと、エレノアは砕けた測定核の残骸を見つめながら答えた。

「仮説だけれど。あなたは魔力を蓄える器を持たない代わりに、外部の魔力や術式の形を吸い寄せ、歪ませる穴のようなものを持っているのかもしれない。だから魔力殻の継ぎ目が見える。だから名付けの時、魔力以外の何かを支払えた。だから禁書や測定陣が、あなたを『空白』ではなく『落ちる先』として恐れた」

「物騒な話だな」

「ええ。とても物騒で、とても面白い」

エレノアは妖艶に笑った。だがその笑みの奥には、研究者としての狂熱だけでなく、確かな警戒もある。

「今夜の実験はここまで。これ以上は危険よ。次は、神木烏木の木刀が完成してからにしましょう。魔力を叩き斬る性質を持つあの木なら、あなたの虚孔反応を外へ逃がす安全弁になるかもしれない」

「つまり、あの木刀ができたら、また俺を測る気か」

「嫌?」

「いいや」

アレンは兼定の鯉口を静かに戻した。

「使えるものは使う。俺の中の穴だろうが、魔法の理だろうが、神木だろうがな。ルシアン様に牙を向く連中を斬れるなら、何だって構わねえ」

その言葉に、フェリスの表情がわずかに揺れた。

エレノアは一瞬だけ黙り、それから柔らかく笑った。

「本当に、あなたは危ういくらい真っ直ぐね」

「曲がってるつもりですがね」

「曲がり方まで真っ直ぐなのよ」

エレノアは踵を返し、最深部の出口へ向かった。

「さあ、戻りましょう。私、今夜はとびきり濃いお茶が飲みたい気分だわ」

「ご自分でどうぞ」

「助手でしょう?」

「助手と家政夫は違います」

「細かいことを言わないの」

「細かいことを放置した結果が、あのゴミ屋敷でしょう」

「うっ」

痛いところを突かれたエレノアが黙り込む。その横で、フェリスが小さく口を開いた。

「……お茶なら、私が淹れます」

アレンとエレノアの視線が、同時にフェリスへ向いた。

フェリスは無表情のまま、ほんのわずかに頬を赤くする。

「勘違いしないでください。貴方の淹れ方を観察し、ロベルト家の技術として吸収するためです」

「そうか。なら湯の温度からやり直しだな」

「くっ……! 望むところです」

三人は特級魔導書庫最深部を後にした。

背後で、砕けた測定核の欠片が、かすかに赤黒く明滅する。

誰にも気づかれぬほど小さな光。

だがその残響は、確かに一つの名を刻んでいた。

──虚孔。

魔力なき執事アレン。その内側に眠る、世界の理を測れぬ穴。

黒の円卓が、もしこの特異点に目をつけたなら。

学園の深部に沈んでいた禁忌の歯車は、静かに、しかし確実に回り始めていた。

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