第67話:神木烏木と、泥にまみれるお嬢様。特務隊局長の休日、波乱の予感
いつも最高の応援と熱い評価をいただき、本当にありがとうございます!
第67話をお届けします。
『魔獣狩り合同演習』の翌日。襲撃を企てたレナードには、特務隊の手によって正式に『停学処分』の厳罰が下されました。
裏での害虫駆除の報酬として、アレンが学園長から賜ったのは、魔力を叩き斬るという漆黒の銘木『神木烏木』。普段の訓練や手加減用の「最強の木刀」の素材を手に入れたアレンは、街の職人の元へ向かおうとします。
そこへ現れたのは、ルシアン様の妹君であるセレナお嬢様。
「ドレスが雑巾になっても文句は言うなよ」というアレンの言葉にも怯まず、彼の『弟子』として泥にまみれる覚悟で同行を志願します。
職人通りでの甘酸っぱいお茶会(?)の裏側では、私服姿のフェリスが凄まじい殺気でストーカー尾行を開始。しかし、鬼の副長の『瞬歩』による熱々おやつカウンターを食らい、耳まで真っ赤にして完全フリーズすることに……!?
ヒロインたちの熱い視線が交錯する中、ラストにはエレノア教授から「魔導書庫の最深部で“特異点”を見つけた」という不穏な緊急連絡が入り――。
『魔獣狩り合同演習』が幕を閉じた翌日。アレンはルシアンには秘密で、エレノア教授を介して再び学園長室へと呼び出されていた。
重厚な革張りの椅子に深く腰掛けたヴァルター学園長は、デスクの上で両手の指を組み、眼鏡の奥の鋭い目をアレンへと向けた。
「──演習場での害虫駆除、見事だったよ。襲撃を企てたレナードには、特務隊の手により正式に『停学処分』を下した」
「そいつは重畳。若旦那の邪魔者が消えて清々しましたよ」 アレンは執事としての仮面を半分外し、特務隊局長としてのぶっきらぼうな笑みを浮かべた。
「事前に渡した秘薬【金剛丹】は馴染んだかね?」 学園長が探るような視線を向けると、アレンは不敵に口元を緩めた。
「ええ。非常に嬉しい報酬を頂けております。全盛期以上のキレを維持できていますよ」 (手鏡を純粋な握力だけで粉砕できるようになったとは、わざわざ教えてやる必要もねえな)
アレンの底知れなさに、学園長は内心で畏怖を覚えながらも満足げに頷いた。
「では、約束通り『特級魔導書庫』の閲覧権限を引き上げよう。それと、もう一つ報酬がある」
デスクの下から取り出されたのは、漆黒に輝く金属のような銘木だった。
「『神木烏木』だ。魔力を叩き斬る性質を持つ。君なら、この木が持つ本来の力を引き出せると思ってね」
アレンの三白眼が、その黒い木塊に釘付けになった。 (ほう……魔力を叩き斬る神木か。兼定を滅多に抜けないこの世界じゃ、普段の訓練や手加減用の『木刀』として、これ以上の素材はねえな)
「ありがたく頂戴いたします、学園長」 アレンは黒い木塊を抱え、満足のいく笑みを浮かべて部屋を後にした。
◇
その日の午後。男子寮のアレンの自室にて。 アレンは私服に着替え、抱え込んできた『神木烏木』を布に包んでいた。これを街の職人の元へ持ち込み、手に馴染む「木刀」へと加工してもらうためだ。
「よし、出かけるか」 アレンがドアを開けた、その時だった。
「──お待ちになって、アレン」
廊下に佇んでいたのは、洗練された気品を纏う金髪の美少女──ルシアンの妹であり、グランヴェル公爵家の令嬢、セレナ・ド・グランヴェルだった。
「これはセレナ様。どうかされましたか」 「兄様の用事ではありませんわ。その包み、学園長から賜った報酬ですわね? 街の職人に木刀へ加工してもらいに行くのでしょう? ……私を連れて行きなさい。貴方が新しく手にする『武具』が作られる工程、この目でしかと見届けたいのです」
魔法至上主義のグランヴェル家で「落ちこぼれ」と冷遇されてきた彼女。しかしアレンだけは、彼女に秘められた「卓越した剣の才能」を見抜き、肯定してくれた。魔力を持たないまま大物たちをねじ伏せていくアレンの背中は、彼女にとっての希望の光そのものなのだ。
「職人通りは泥や油で汚れます。公爵令嬢のドレスが台無しになりますよ」 アレンが突き放すと、セレナは顔を真っ赤にしながらも、グッと胸を張って言い返した。
「臭いくらい、汚れるくらい平気ですわ! 私は……貴方の弟子として、その背中を追いかけると決めたのですから!」
普段の高飛車な令嬢としてのプライドと、アレンの前で見せる可愛いポンコツさが同居した背伸び。だが、手の皮が剥けても絶対に音を上げない彼女のハングリー精神を、アレンはよく知っていた。
アレンはふっと表情を緩め、特務隊局長としての獰猛で、しかしどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。
「……へっ、言ってくれるじゃねえか。なら、そのドレスが雑巾になっても文句は言うなよ、お嬢様。──ルシアンに一言断ってから行くぞ」 「ええ……っ! 望むところですわ!」
◇
数十分後、聖アイビスの城下町──職人通り。 周囲の職人たちが「なぜ公爵家のご令嬢がこんなむさ苦しい場所に……」と目を丸くする中、二人は並んで歩いていた。
セレナは、鉄を打つ職人たちの力強い手元や、並べられた武具の鋭い重心を真剣に見つめている。その時、露店から立ち上る甘い香りが二人の鼻をかすめた。この街で人気の、焼き果実のシロップ漬けだ。セレナが珍しそうに視線を止めた。
「……美味しそうな香りですわね。……ええと、アレン」
アレンが露店へと歩み寄り、二つ串を買って戻ってくる。アレンがそれを差し出すと、セレナは「ありがとうございます!」と嬉しそうに受け取った。一口食べてその美味しさに目を丸くした直後、彼女はふと立ち止まり、申し訳なさそうにハンドバッグへ手を伸ばした。
「あ……あの、おいくらでしたか? 今、お支払いいたしますわ」
公爵令嬢としての矜持か、自分だけが奢られることへの戸惑いか。セレナは財布を探そうとするが、アレンはそれを優しく、しかし毅然とした動作で制した。
「お嬢様。人目のある場所で、ご主人様に財布を出させる執事がどこにいますか」
アレンは周囲を見回し、少しだけ声を潜めて、執事としての完璧な敬語で微笑んだ。
「ここは私の顔を立てていただけませんか、お嬢様。グランヴェル家の令嬢と並んで歩くのですから、これくらいのおもてなしをさせてください。……ええ、そうしていただくのが、私の執事としての『面子』に関わりますので」
その言葉に、セレナはポッと頬を染め、「……う、ううっ。分かりましたわ。では、その……ご厚意に甘えます」と、小さく串をかじった。
◇
アレンは歩きながら、ふと鋭い視線を後ろの「木陰」へと滑らせた。
(……おいおい。尾行するなら、もう少し殺気を消せってんだ。サボりメイド)
彼らの背後、街路樹の陰から、私服姿のフェリスが凄まじい眼光で二人をマークしていた。
(フェリスの脳内パニック:休日だからと油断しません! アレンがセレナ様と二人きりでデートなど不届き千万! 公爵家の影として監視するのは任務です! なぜあの平民執事は、私にはあんなに意地悪で、セレナ様にはあんなに特別な空気で……!)
アレンは溜息をこらえながら、セレナに「ちょっと待っていろ」と言い残し、次の瞬間、予備動作ゼロの『瞬歩』で影からフェリスの背後に現れた。
「サボりメイド。休日まで熱心なこったな」 「ひゃあっ!?」
フェリスが振り返ると、アレンは街の出店で買った熱々の「果実の串焼き」を、彼女の口元へポンと放り込んだ。
「むぐっ!? ……ん、んんっ……!」 「美味いから黙って食ってろ。それと、殺気がダダ漏れだ。特務隊の偵察なら、今の一瞬で首が飛んでるぞ」
頭をぽんぽんと叩かれ、口いっぱいに広がる甘さと、アレンの距離感のせいで、フェリスは耳まで真っ赤にして完全にフリーズしてしまった。
◇
夕暮れ時、街からの帰り道。セレナはアレンの隣を歩きながら、ふと、昨日までの演習で見たアレンの圧倒的な背中を思い出していた。
(リナ……貴方は兄様の幼馴染として、アレンの『心』の近くにいるかもしれないけれど。アレンの『武』の隣に立つのは、天然理心流を学ぶこの私ですわ……!)
アレンはその心中の熱い決意を察しつつ、不敵に口元を歪めた。 (さて、木刀の加工も職人に頼んだし、次はお嬢様に地獄の基礎訓練を叩き込むとしますか)
──と、その時だった。 アレンの脳裏に、学園長から閲覧権限を得た『特級魔導書庫』に眠る膨大な知識が浮かぶ。そこへ、エレノア教授からの伝言が託された魔導通信機が震えた。
『アレン君、今の演習の結果を踏まえて、至急、魔導書庫の最深部で私の研究の手伝いをしてほしいの。……少し面白い“特異点”を見つけてしまってね』
アレンの三白眼が、鋭く光る。
「……研究の手伝い、ですか。特務隊の局長としても、無視できねえ案件だな」
セレナを寮へ送り届ける道すがら、アレンは己の行く末に新たな『戦場』の気配を感じ取っていた。最強の木刀を手にした今、学園の深部で彼を待ち受けるのは、単なる学問ではない。さらなる騒乱の始まりを予感させながら、彼らは夜の学園へと消えていった。
第67話をご覧いただき、ありがとうございました!
アレンさん、裏で『鬼の副長』として恐れられてるくせに、表でのたらしスキルのキレ味が鋭すぎませんか……!?(笑)
前半、レナードがしっかり停学処分になったのを確認しつつ、最強の木刀の素材『神木烏木』を手に入れるアレン。魔力を叩き斬る木刀なんて、魔法使いお断りのアレンにとってはこれ以上ない最強の相棒(訓練用)ですね。
そして中盤からの休日デート(※本人は職人探しと監視だと思っています)が最高にニヤニヤしました!
ドレスを泥で汚してでもアレンの『弟子』として背中を追うセレナお嬢様、めちゃくちゃ健気で可愛いです。買い食いしたシロップ漬けの支払いに戸惑うお嬢様に対し、「人目の前で主人に財布を出させる執事がどこにいますか。私の執事としての『面子』に関わります」と、完璧な敬語と大人の余裕でエスコートするアレン……これは惚れない方が無理というものです。
さらに最高だったのが、物陰から凄まじい脳内パニックを起こしながら尾行していたフェリスちゃん(笑)。
殺気がダダ漏れなのを『瞬歩』で一瞬で背後に取られ、口に熱々の串焼きを突っ込まれて頭ポンポンされるという、暗殺メイドのプライド完全粉砕カウンター!耳まで真っ赤にしてフリーズしている姿、ご馳走様でした。
リナへの対抗心を燃やすセレナお嬢様の「アレンの『武』の隣に立つのは私」という熱い決意も尊いですが、ラストにはエレノア教授から不穏な一報が。
特級魔導書庫の最深部で見つかった『特異点』。特務隊局長としての顔を持つアレンの前に、早くも新たな戦場の気配が漂い始めました。
職人に預けた神木烏木の木刀が完成する時、一体どんな騒乱が幕を開けるのか!?
68話からの新章・書庫最深部編もどうぞお楽しみに!
【作者からのお願い】
「アレンのお嬢様への『面子に関わります』のエスコートが格好良すぎた!」「串焼きを口に放り込まれて頭ポンポンされてフリーズするフェリスがチョロ可愛い!」「ラストの特異点という不穏な引きにワクワクする!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いします!
皆様のブックマークと評価(★5)が、お嬢様に地獄の鬼特訓を課しつつ、つきまとう監視メイドを餌付け(?)し、学園深部の特異点すら物理で叩き潰すアレン(土方)の、異世界御用改めロードをさらに大爆進させる最強のエネルギーになります!
なろう読者様:下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて、最強の木刀を手に入れた局長へ熱き一票を!
カクヨム読者様:【★で称える】ボタンや【フォロー】のワンタップをぜひお願いいたします!




