表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
65/71

第65話:監視対象の淹れるお茶は、毒より危ない味がする

いつも最高の応援と熱い評価をいただき、本当にありがとうございます!

第65話をお届けします。


ルシアンの部屋で帰宅を待つアレンを、クローゼットの影から「24時間監視」する隠密メイド・フェリス。

彼女はアレンを「禁忌の呪い使い」と疑い、メイドとしてのプライドを懸けてロベルト家至高の紅茶を淹れてマウントを取ろうとします。


しかし、アレンは前世の京都で培った洗練された茶の文化と、指先の温度感覚でそれを一刀両断。

アレンが淹れ直したハーブティーを一口含んだ瞬間、フェリスの鉄面皮の裏で、暗殺者としてもメイドとしても完全敗北を喫する「脳内大パニック」が巻き起こり――!?


主従の微笑ましいお茶会の裏で、先の演習で自滅し全身包帯姿となったレナード・ヴァン・ボルテールが、次週の公式行事『魔獣狩り合同演習』を舞台にした、アレンへの残忍な暗殺計画を動かし始めていました。


胃袋を掴まれかける監視メイドと、迫り来る金で動く実戦派の刺客たち。

鬼の副長の、次なる戦いの火蓋が切って落とされます!

主君ルシアンが学園の午後の講義を受講している間、アレンは男子寮にある彼の私室を訪れていた。 主が不在の間に部屋の清鎖を済ませ、帰宅の時刻に合わせて極上のお茶を準備しておく──それが、ルシアンの『右腕』たるアレンに課せられた当然の職務だった。

パサリ、パサリと、静かに叩きをかける音が室内に響く。 だが、その平穏な空間には、ルシアン以外の「先客」がいた。

部屋の隅。巨大なクローゼットの影から、音もなく、微動だにせず、アレンの挙動をじーーーーっと凝視している影。 宵闇色のストレートツインテールを揺らし、アレンよりも頭半分ほど背の高いその高身長メイド──フェリスは、冷徹な琥珀色の瞳でアレンを徹底的にマークしていた。

「……何か禁忌の呪いを使ってルシアン様に害を及ぼさないか、ここで24時間監視させていただきます」

それが、部屋に侵入してきた彼女の第一声だった。 魔法至上主義のこの世界において、魔力を持たない平民がボルテール家のレナードを叩きのめすなどあり得ない。フェリスはアレンを「世界の理をねじ曲げる不審者」と断定していた。

しかし、アレンはそんな彼女のストーカー並みの刺さるような視線を、完全に空気扱いでスルーしながら、淡々とモップを動かしていた。そして、ふと手を止めると、完璧な執事の微笑みのままフェリスを振り返った。

「24時間監視は結構ですが、フェリス。主君の講義中に、こうして男の部屋の隅でじっと突っ立っているのは、公爵家に仕えるメイドの作法としてはいかがなものかと思いますが……。グランヴェル家の影は、随分と寛大な規則で動かれているのですね」

(心の中のアレン:24時間監視だと? 結構なことだが、主君がいない間に男の部屋の隅でサボってやがる。俺のいた新選組の法なら『局中法度』の軍規違反、立派な職務怠慢で即座に切腹か厳罰モンだぜ。いい身分じゃねえか)

「な、何がサボりですか! これもルシアン様をお守りするための、崇高な『任務』です……っ!」

アレンの底意地の悪い皮肉に、鉄面皮のフェリスが、一瞬だけ無表情の裏で焦ったように言葉を返した。アレンの冷徹な本音を知る由もない彼女だったが、その理詰めの言葉に早くも苛立ちを募らせる。

(な、なんなのですか、この男は……! ロベルト家秘伝の『気配遮断』を併用した無言の圧力プレッシャーを向けているというのに、眉ひとつ動かさないどころか、こちらを作法がなっていないと窘めるなんて。……くっ、不気味な男。やはり何か精神を狂わせる闇の魔術を……!)

これ以上の無視と侮辱は容認できないとばかりに、フェリスはすっと長い脚を踏み出し、アレンの手からモップを奪い取るようにして前に立ち塞がった。

「そこまでです、アレン。ルシアン様がお戻りになられる時間が近い。主君をお迎えするお茶の準備は、グランヴェル家の公認メイドである私が執り行います。貴方のような、出所の怪しい禁忌の呪い使いにルシアン様の口に入るものを任せるわけにはいきません。……ロベルト家が誇る、至高のお茶汲みをご覧なさい」

フェリスはそう言い放つと、男子寮のキッチンへ移動し、流れるような所作でお茶の準備を始めた。 それは、公爵家に仕えるエリートメイドとして、幼少期から叩き込まれてきた完璧な紅茶の抽出技術。

(ふふん、どうですか! 暗殺術だけでなく、メイドとしての家事スキルもロベルト家は世界最高峰。戦闘では不覚を取りましたが、この私の完璧な作法を見れば、己がいかに無学な平民であるか思い知るはず──!)

数分後、フェリスは琥珀色の見事な紅茶をカップに注ぎ、これみよがしにアレンの前に差し出した。 アレンは促されるまま、その紅茶をすっと手にとり、香りを嗅ぎ、一口だけ口に含む。

「どうですか。貴方の淹れる怪しいハーブティーとは格が違うでしょう」 ふん、と長いまつ毛を揺らし、勝ち誇ったようにアレンを見下ろすフェリス。

だが、アレンは表情を変えないまま、カップを静かにソーサーへと戻した。

「ふむ。温度、茶葉の量、蒸らしの時間……どれも基礎に忠実で上等だ。さすがは公爵家の影だな」

「当然です」

「──だが、少し茶葉の渋みが立ちすぎている。湯を注ぐ直前の、ほんのわずかな『間』が足りん。沸騰したての湯をそのまま注げば、茶葉が驚いて余計な雑味が出る。少し湯を冷まし、気魄を落ち着かせてから静かに落とす。……こうするべきだな」

アレンの脳裏にあったのは、前世の京都で馴染みのあった、洗練された茶の文化。宇治の極上茶を淹れる際の、お湯の温度を完璧に見切る繊細な指先の感覚だ。 アレンは手際よくハーブを調合し、温度を見切った湯を、まるで見えない糸を紡ぐような滑らかな所作で注ぎ入れた。

部屋の中に、先ほどの紅茶とは明らかに違う、脳の奥が洗われるような清々しい香りが立ち込める。

「味見を。身内の首を狙うよりは、有意義な時間のはずだ」

アレンから差し出されたカップを、フェリスは強い猜疑心を抱いたまま受け取った。 (ハッ、ハーブの香りで誤魔化そうとしても無駄です。私の舌は毒物を見分けるために──)

一口、フェリスはその淡い緑色のお茶を口に含んだ。

瞬間。 フェリスの頭の中で、ゴォォォォンと鐘が鳴り響いた。

(な、なななな、なんなのですかこれはーーーーーっ!?)

顔は鉄面皮のまま、心の中のフェリスは大爆発を起こしていた。 口当たりは驚くほどまろやかで、雑味が一切ない。それどころか、暗殺者の家系として毒物や薬草の調合を極めてきたフェリスだからこそ、理解できてしまう驚愕の事実があった。

(身体の疲れが、完全に消えていく……!? これ、単に美味しいだけじゃない。完璧な比率で疲労回復と、軽微なデトックス(解毒)効果まで引き出されているわ……! ロベルト家秘伝の『特級疲労回復薬』より精密だなんてあり得ない! この男、まさか毒物の知識でも私の上を行くというのですか……!? 悔しい、悔しいのに……このお茶、すっごく美味しい……ッ!!)

メイドとしての、そしてプロの暗殺者としての技術的な敗北に、ガタガタと脳内で大パニックを起こするフェリス。カップを持つ手を微かに震わせ、アレンをらんらんと輝く目で激しく睨みつける高身長メイド。 アレンはそんな彼女を気にする風でもなく、「お口に合ったようで何よりです」と涼しい顔で微笑むだけだった。

その時、男子寮のドアがガチャリと開き、足音が響いた。

「ただいま。ふぅ、今日の講義は少し長引いてしまって──って、うわっ!?」

帰宅したルシアンは、部屋に入るなり、その奇妙な光景に足を止めた。 なぜか限界まで息を荒くし、顔を真っ赤にして(※悔しさで)、アレンを睨みつけているフェリス。そして、いつも通り完璧な姿勢のままでいるアレン。

天才的な観察眼を持つルシアンは、フェリスの手にあるカップから漂う香りで、一瞬にしてすべてを察した。彼女が持っているのは、アレンが淹れた極上のハーブティーだ。

(あ、フェリスのやつ……。アレンを不審者扱いして乗り込んできたクセに、もう半分胃袋を掴まれてるじゃないか……)

二人の間に流れる、一触即発(?)の、妙に熱量の高い空気を感じ取ったルシアンは、遠い目をして微笑んだ。

「……うん。二人とも、僕のいない間に、思ったより早く仲良くなれそうだね」

「ルシアン様! 誤解です、私はこの男の禁忌を暴こうと──!」 「ルシアン様、お疲れのようですから、まずはこのフェリスが淹れてくれた紅茶をお召し上がりください。よく出来ています」 「くっ……! 貴方に庇われる筋合いはありません……ッ!」

ルシアンは、あわあわと動揺する幼馴染のメイドと、どこまでもマイペースな秘書を見比べ、「うん、賑やかになりそうだ」と苦笑するのだった。

主従がそんな微笑ましいやり取りを交わしている、ちょうどその頃。 聖アイビス国立魔法学園の付属大病院──その特等病室のベッドの上では、一つの陰謀が形を成しつつあった。

「あの平民のゴミ屑が、ルシアン・ド・グランヴェルに拾われて調子に乗っているようだな……。先の演習で我がボルテール家の恥を晒したこと、絶対に許さんぞ……!」

痛々しく全身に包帯を巻かれ、未だ退院すら叶わぬ体でありながら、怒りで顔を歪めているのは、かつて領主館の決闘でアレンの天然理心流の前に完全敗北し、先の演習でも魔物に無様にのされた傲慢なる貴族──レナード・ヴァン・ボルテール。

寝台の上でなおもアレンへの逆恨みを募らせる彼は、見舞いに訪れていた自身の取り巻きたち──学園の数少ない実戦派の上級生魔術師たちを睨みつけ、残酷な笑みを浮かべた。

「ふん、魔力なき虫ケラが。……ちょうどいい。来週には、学園伝統の公式行事『魔獣狩り合同演習』がある。私は動けんが、お前たちが私の代わりに動くのだ」

レナードから密かに差し出された、ずっしりと重い金貨の袋を懐に収め、病室の影に潜むエリート魔術師のリーダー格が、獰猛な笑みを浮かべて頷いた。 「お任せください、レナード様。演習場は、何が起きても不思議ではない『合法的な戦場』。あの平民風情、魔物の餌にして二度と這い上がれぬよう完膚なきまでに圧殺して差し上げましょう」

レナードの瞳に、昏い雷魔法の光が宿る。 「ああ……あの時の借りを、何十倍にして返してやる……!」

アレンを狙う、病床からの傲慢なる牙と、金で動く実戦派の刺客たち。 その不気味な陰謀が迫っているとも知らず、男子寮では、家事バトルに負けて悔し涙をこらえるフェリスの、静かな脳内パニックがまだ続いていた──。


第65話をご覧いただき、ありがとうございました!


フェリスちゃん、初登場からわずか2話で、早くも胃袋(心)を完全に掌握されかけてますね……!!(大爆笑)


前半の、クローゼットの影からじーっと見てくるフェリスに、心の中で「職務怠慢で即切腹モンだぜ」とガチの局中法度を適用するアレンの容赦なさに笑いました。

からのお茶汲みバトル!自信満々のフェリスの紅茶に対し、沸騰したての湯を注ぐと茶葉が驚くという宇治の繊細な茶の湯文化でカウンター。プロの暗殺者だからこそ、アレンのハーブティーの「完璧な比率の疲労回復とデトックス効果」を瞬時に理解してしまい、鉄面皮の裏で「悔しい、でも美味しいぃぃ!」と大パニックを起こすフェリスが最高にチョロ可愛かったです。

帰ってきたルシアン様が、香りで全てを察して「あ、もう半分胃袋掴まれてる……」と遠い目をするシーン、この主従のツッコミスキルの高さが大好きです(笑)。


しかし、後半からは一転して不穏な影が。

全身包帯姿のレナード、本当に懲りないというか、またも綺麗な死亡フラグを建築してくれました!

金で実戦派の上級生魔術師たちを雇い、来週の学園行事『魔獣狩り合同演習』という「合法的な戦場」でアレンを魔物の餌にしようと画策。


相手は学園の実戦派エリートのようですが、今の超人化した肉体と、対魔法使いハメ殺し歩法【瞬歩】、そして兼定に宿る赤黒い気魄の炎〈業火流〉『硝煙ノ灯』を持つアレンの敵になるのかどうか……!今から演習場での大無双が待ちきれません!


監視メイドの脳内パニックの行方と、迫り来る刺客たちとの実戦。

66話からの新展開も、どうぞお楽しみに!


【作者からのお願い】

「フェリスのお茶汲みバトルでの脳内大悶絶が最高に可愛かった!」「ルシアン様の『もう胃袋掴まれてる』のツッコミに笑った!」「レナードが雇った刺客どもをアレンがどう返り討ちにするのかワクワクする!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いします!


皆様のブックマークと評価(★5)が、ツンデレメイドのプライドを粉砕し、演習場で牙を剥いてくる暗殺刺客どもをその前提ごと赤黒い業火で灰にするアレン(土方)の、最強の無双エネルギーになります!


なろう読者様:下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて、次なる戦場へ赴く副長へ熱きエールを!


カクヨム読者様:【★で称える】ボタンや【フォロー】のワンタップをぜひお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ