第63話:魔力ゼロの執事、特級禁書の暴走を『ただの殺気』で完全屈服させる
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第63話をお届けします。
エレノア教授の助手として、特級魔導書庫の蔵書一斉点検に臨むアレン。
休憩がてら語られるエレノアの魔法講義により、この世界の魔法の正体が「魔力殻」という数式の薬莢に包まれたものであることが明かされます。
「なるほど。弾丸の薬莢なら、叩き割る方法はいくらでもあった」
自身の無双の理由を冷徹に納得するアレン。しかしその時、学園の半分を吹き飛ばしかねない特級危険指定の「禁書」が突如として暴走を始め――!
エレノアが防衛魔法を展開しようとする刹那、アレンは抜刀すら見せず、ただ静かに鯉口を切り、幕末の地獄で培った「鬼の殺気」を解き放ちます。
そしてラスト、ルシアンから告げられた実家からの手練れの増援。
暗闇の奥からアレンの五感に触れたのは、呼吸も生き物としての気配も完全に死んでいる、本物の「暗殺者」の気配でした――。
「あら、良いお茶ね。……ああ、もうアレンがいない生活なんて考えられないわ。あなたが来る前の私、どうやって生きてたんだっけ……?」
聖アイビス国立魔法学園・特級魔導書庫の管理室。 元王宮暗部トップのエレノア・フォン・ローゼンバーグ教授は、至福の表情でカップを傾けながら、ソファーにだらしなく身体を預けていた。数日前まで足の踏み場もなかったゴミ屋敷は、アレンの手によって完璧に清々しい空間へと維持され、彼が淹れる極上のハーブティーの香りが漂っている。
今日はエレノアの助手としての初仕事、年に一度の『蔵書一斉点検』の日だった。 作業の合間、アレンは完璧な所作でお茶を注ぎ足しながら、前々から気になっていた疑問を口にした。
「それにしてもアレン、あなた本当に魔力が『ゼロ』なのよね? なのに、あのジュリアスの魔法を真っ向から粉砕してみせるなんて。本当に不思議な男だわ」
「教授。私の方からも一つ、お伺いしてもよろしいですか。この世界において、魔力が完全に『ない』というのは、それほど奇妙なことなのですか」
アレンの問いかけに、エレノアは艶然と微笑み、カップを机に置いた。 「あら、私の講義が聴きたいかしら? ──その前に、あなたは『魔法』という現象について、どれくらい把握しているの?」
「少しかじった程度です。基本的なことは心得ているつもりですが、専門的な深い部分までは分かりかねます」
アレンが謙虚に、しかし淀みなく答えると、エレノアは満足そうに頷き、一冊の古びた魔導書を広げた。
「いいわ、特別に教えてあげる。まず、魔法の基本は『魔力の器』よ。人間の体内には生まれつき魔力を蓄える器が存在してね。この器が大きい者ほど、一度に大量の魔力を引き出せる『出力(火力や範囲)』が高くなり、同時にどれだけ魔法を連発できるかの『総量(弾数)』が決まるの。つまり、この世界じゃ器の有無と大きさがすべてよ」
「なるほど」 アレンは淡々と相槌を打ちながら、心の中で冷徹に呟いた。 (なるほど、生まれ持った器のデカさか。剣術で言えば、生まれつきの体格や怪力のようなものだな。だが、どれだけ大柄な大男だろうと、まともに刀も振れねえ素人なら、小柄な沖田の三段突き一発で喉笛を撃ち抜かれて終わりだ。戦場じゃあ、どんなに大層な大砲を持っていても、引き金を引く前に首を撥ねられればそれまでだというのに。実につまらん世界だな)
そんなアレンの冷ややかな思考をよそに、エレノアは楽しげに話を続ける。
「でも、面白いのはここからよ。器から引き出した生の魔力は、そのままじゃただ霧散するか、手元で暴発するだけ。だから魔法使いは、引き出した魔力で『魔力殻』という、数式や魔法陣で構成された、いわば『弾丸の薬莢』のようなものを編むの。その殻の中に魔力を充填して初めて、指向性を持った『魔法』として撃ち出せるわけ」
『魔力殻』技術──。 その言葉を聞いた瞬間、アレンの三白眼に鋭い光が宿った。脳裏をよぎったのは、ジュリアスの雷魔法を兼定の鞘と衝撃波で切り裂いた瞬間の手応えだ。
(……そういうことか。俺が魔法を『斬る』ことができたのは、魔力そのものをどうにかしたわけじゃない。弾丸の薬莢にあたる、その『魔力殻』とやらを物理的な衝撃と気魄で叩き割ったから、中の魔力が形を保てずに霧散したんだな) 魔法の正体が「殻のついた弾丸」であるならば、対処の仕方はいくらでもあった。
「ちなみにね」と、エレノアはさらに言葉を重ねる。「この世界の基礎魔法は【火・水・風・土】の4つ。その他の特殊な魔法は、この4つから複合・派生したものが多いわ。例えば、ボルテール侯爵家が使っている『雷魔法』。あれは【火】の熱量と【風】の流動が合わさった複合属性なのよ。……どう? 少しは勉強になったかしら、可愛い助手くん?」
「ええ。大変有意義な講義でした。視界が随分と晴れた思いです、エレノア教授」
アレンが完璧な執事の礼を返した、まさにその時だった。
ガタガタガタガタッ!!!
書庫の奥、頑丈な鎖で封印されていたはずの黒い魔導書が、突如として激しく震えだした。 蔵書点検の刺激に反応したのか、一歩間違えれば学園の半分が消し飛ぶと言われる特級危険指定の禁書が、禍々しい赤黒い魔力を噴き上げ始めたのだ。
「しまっ……! 封印が拒絶反応を起こしたわ!? アレン、下がってなさい、私が──」 元暗部トップのエレノアが即座に防衛魔術を展開しようとした、その大気をも震わせる刹那。
アレンは動じることなく、ただ静かに一歩前へと踏み出した。
カシャ、と腰の兼定の鯉口をわずかに切る。 引き抜いてはいない。だが、アレンの全身から、空間そのものを圧殺するような凄まじい『気魄(殺気)』が解き放たれた。
それは、幕末の京都という本物の地獄で、数多の尊王攘夷派の志士たちを震え上がらせ、幾百の命を文字通り奪ってきた「鬼の副長」の、本物の殺意。
ピキィィィィン……ッ!!!
空気が一瞬で凍りついた。 次の瞬間、狂暴に暴れ狂い、今にも爆発せんばかりだった禁書の赤黒い魔力が、まるで恐怖にすくみ上がるかのようにピタリと止まった。魔導書に刻まれた残留思念は確かに見たのだ──アレンの背後にそびえ立つ、数千、数万の死霊の山の上に君臨する、本物の『鬼』の幻影を。
禁書はガタガタと情けなく震えながら、自ら進んで光を失い、大人しく机の上にパタンと閉じた。 純粋な『殺気』だけで、意思を持つ特級禁書を完璧に屈服させたのだ。
「……うそ」 展開しかけていた魔法陣を消し、エレノアは呆然とアレンの後ろ姿を見つめていた。 (魔法を魔法で相殺したんじゃない。純粋な『暴力の気配』だけで、禁書に死への恐怖を植え付けた……? やっぱりこの男、普通じゃないわ……!)
エレノアがその圧倒的な異質さに改めて身震いし、同時に強烈な知的好奇心に瞳を輝かせていると、アレンの懐で魔導通信機が微かに振動を始めた。主君ルシアンからの定時連絡だ。
『──アレン、聞こえるかい? 例の、僕の父上が実家から呼び寄せた手練れが、たった今学園に到着した。彼女──ロベルト家の娘は、僕の直属の従者として動いてもらう。君のいる書庫へ向かわせたから、合流してくれ』
アレンは完璧な執事のトーンに戻り、静かに答えた。 「ロベルト家, ですか。承知いたしました」
通信が切れた直後、アレンは静かに目を細め、独特の迎撃の間合いである『方円の檻』を周囲に展開した。
(……来るな。だが、妙だ。足音も、呼吸の音もない。それどころか、生き物としての気配すら、完全に死んでいる──)
アレンの極限まで研ぎ澄まされた五感が、暗闇の奥から迫る「本物の暗殺者」の気配を捉えていた。
第63話をご覧いただき、ありがとうございました!
アレンさん、ついに魔法どころか「概念(禁書)」まで殺気だけで脅しつけちゃいましたよ……!!(笑)
前半のエレノア教授による魔法の授業、めちゃくちゃワクワクしましたね!魔法の本質が「魔力殻」という数式の薬莢だと知った瞬間、アレンが「ああ、俺がジュリアスの魔法を斬れたのは、あの薬莢を物理と気魄で叩き割ったからか」と、前世の戦場感覚(大砲の引き金を引かれる前に首を撥ねる)で即座に理解するのが最高にクールでした。
からの、特級禁書の暴走に対するお仕置きタイム!
魔法で相殺するのではなく、純粋な「暴力の気配(土方歳三のカルマ)」だけで、意思を持つ魔導書に死の恐怖を植え付けてパタンと強制終了させる力業。背後にそびえ立つ数万の死霊の山を見た禁書がガタガタ震えている描写、最高にゾクゾクしました。エレノア教授の目がさらにらんらんと輝き始めていて、今後の二人の距離感も楽しみです。
しかし、ラストの引きが不穏かつ激熱すぎます……!
ルシアン様が言っていた実家からの増援、ロベルト家の娘。幼馴染のはずなのに、アレンの『方円の檻』が捉えたのは「足音も呼吸も、生き物としての気配すら完全に死んでいる暗殺者」の接近。
一体、アレンとルシアンの過去に何があったのか?そしてこの「気配の消えた少女」の正体とは!?
鬼の副長の間合いに踏み込んでくる新たなる影、64話からの新展開も目が離せません。どうぞお楽しみに!
【作者からのお願い】
「魔法の理屈を前世の戦場感覚でハックするアレンが格好良すぎる!」「禁書を殺気だけでビビらせて閉じるシーンで大爆笑した!」「ラストの気配の死んだ暗殺者(幼馴染)の登場に鳥肌が立った!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いします!
皆様のブックマークと評価(★5)が、超人肉体と禁忌の知識を得て、さらに迫り来る本物の暗殺者(?)を迎え撃つアレン(土方)の兼定に、さらなる神速のキレを与える最強のバフになります!
なろう読者様:下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて、暗闇から迫る新キャラへ宣戦布告のブーストを!
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