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第60話:傲慢なる牙

いつも最高の応援と熱い評価をいただき、本当にありがとうございます!

第60話をお届けします。


演習場での襲撃事件から数日。

平穏を取り戻しつつある学園でしたが、自滅して重傷を負ったレナードの従兄・ジュリアス率いるボルテール一派が、グランヴェル家を貶めるため、平民の少女リナやセレナお嬢様を包囲して理不尽な暴力を振るおうとしていました。


駆けつけたアレンは、前夜に完成させた対魔法使い用暗殺歩法【瞬歩】を初展開!

予備動作ゼロ、魔力ゼロで空間を跳び、女に手を上げようとした貴族の腕を容赦なく叩き折ります。


腐った教官まで味方につけ、傲慢に土下座を要求してくるジュリアス。

そこへ優雅に現れたのは、アレンの実力に魅せられた特別顧問エレノア教授でした。


模擬戦デュエルよ」


エレノアのアシストによって、放課後の第一演習場での公式決闘が決定!

傲慢な雷魔法師をハメ殺すべく、鬼の副長が冷徹な牙を剥き出しにします!

演習場での襲撃事件から数日。学園には表向きの平穏が戻りつつあったが、貴族たちの間では未だにその余波が燻っていた。特に入院を余儀なくされたレナード・ヴァン・ボルテールの一派は、その怒りの矛先をあらぬ方向へと向けていた。

日中、完璧な執事の仮面を纏ったアレンは、手製の昼食を詰めた重箱を手に、男子棟の講義室へと向かっていた。実戦訓練が一時中止され、座学に追われている主君ルシアンのため、栄養バランスを完璧に計算した弁当を届けるためだ。

「やあ、アレン。いつも助かるよ。今日の講義は実に有意義でね、高度な魔導理論についても色々と学ぶことができたよ」

講義室から出てきたルシアンは、アレンの手から木製の重箱を受け取ると、嬉しそうに目を細めた。蓋を開けると、そこにはこの世界には存在しない、しかし見事に美しく詰められた「おにぎり」と、出汁の香る和風のおかずが並んでいる。異世界の食材を工夫して再現したアレンの特製弁当だ。

「君の作る料理は相変わらず見たこともない形だが、驚くほど美味いし、午後からの気力が湧いてくるよ。これを楽しみに午前中の退屈な時間を耐えたようなものさ」 「それは何よりです、ルシアン様。学びを絶やさぬことこそ、次期領主としての最大の武器。……午後の予定ですが、魔法による実技訓練の復習と、領地の民から届いた陳述書の精査を行います。よろしいですね?」 「ああ、君が立ててくれた計画だ。異論はないよ」

二人がそんな会話を交わしながら、次の目的地へ向けて中庭の回廊を進んでいた、その時だった。

「──いい加減にしなさい、ジュリアス!」

回廊の先、美しく整えられた中庭から、鋭く、しかし焦燥の混じったセレナの叫び声が響いた。 アレンの眉が微かに動く。ルシアンと目配せを交わし、二人は即座に足を早めて中庭へと向かった。

中庭の中央では、数人の上級貴族の生徒たちが、セレナと、その傍らにいる平民出身の少女リナを完全に包囲していた。 見れば、リナは片方の腕を痛々しく押さえ、青ざめた顔で地面にうなだれている。彼女の制服の袖には、魔法の電撃で焦げたような跡が生々しく残っていた。

「おい、何をしている!」

ルシアンが臨戦態勢の冷徹な声を放ちながら、アレンを伴ってその場に駆けつけた。二人はすぐさま、傷ついたリナと、彼女を庇うように立つセレナの前に割って入り、立ちはだかる。

包囲の輪の中心にいたのは、ひときわ豪華な外套を羽織った、見下すような三白眼の男だった。

「おやおや、グランヴェル家の『神童』様のお出ましだ。それに……その背後にへばりついている、薄汚い平民の犬も一緒か」

男の名は、ジュリアス・ヴァン・ボルテール。 かつてアレンに叩きのめされ、先日の魔獣襲撃で無様に負傷したレナード・ヴァン・ボルテールの従兄であり、ボルテール侯爵家に属する有力な分家の嫡男。一族の中でも特に高密度の雷魔法に長けた、傲慢の塊のような男だった。

「ジュリアス。僕の妹と、そのお友達に何をしている。これは明確な敵対行為とみなすが、弁明はあるかい?」 ルシアンの放つ魔力が、周囲の空気をピりりと震わせる。しかし、ジュリアスは鼻で笑った。

「弁明? 笑わせるな、ルシアン。我がボルテール家の正統なる跡取りであるレナードが、先日の演習で重傷を負った。それは、現場の総指揮を執っていたお前の無能と、判断の遅さが原因だ! 一族の恥辱、これ以上黙って見ていられるか!」 「なんだと……?」 ルシアンが目を細める。レナードが勝手に陣形を乱して自滅したのが真相だが、彼らは最初からグランヴェル家を貶める口実を探していたのだ。

ジュリアスのぎらついた視線が、ルシアンの背後に立つアレンへと移る。 「それに、そこの平民のゴミ屑だ。レナードを一度ならず二度までも辱め、身分の卑しい分際で、のうのうとこの高貴なる学園の土を踏み荒らしおって。貴様が存在すること自体が、我ら貴族への冒涜なのだよ!」

「……ルシアン様、こいつら、最初からルシアン様やグランヴェル家をおとしめる口実にするために、私やセレナを狙って……っ!」 腕を押さえたリナが、苦痛に耐えながら怒りと悔しさで瞳に涙を浮かべて告発する。普段から平民ゆえに虐げられがちだった彼女にとって、この不条理は耐え難いものだった。

「黙れ、平民風情が!」 ジュリアスの傍らに控えていた大柄な子分が、リナの言葉を遮るように激昂し、リナに向けて魔法を纏わせた手を乱暴に振り上げた。

「あ──」 セレナが悲鳴を上げかける。

だが、その腕がリナに届くことはなかった。

──シュル、と空間が微かに歪んだ。

誰もアレンの「一歩」を認識できなかった。地面の草木すら揺らさず、予備動作ゼロで発動した『瞬歩』。 次の瞬間、アレンはその子分の真横に、幽霊のように出現していた。

(──なっ……!?) 回廊の影からその様子を見ていた、元王宮暗部トップのエレノア・フォン・ローゼンバーグだけが、その異常性に目を見開いた。 魔力を全く使っていない。ただの肉体のバネと、極限まで練り上げられた足裏の重心運用だけで空間を跳んだ。魔法の詠唱の隙を突く、完璧な「対魔術師用」の暗殺歩法。エレノアの背筋に、ゾクゾクとするような歓喜の戦慄が走る。

子分が驚愕で目を見開いた瞬間には、アレンの強靭な手が、その振り上げられた手首と肘を完全にロックしていた。金剛丹によって強化されたアレンの指先が、万力のように男の肉に食い込む。

「不意打ちで女に手を上げようってなぁ、ずいぶんといい度胸じゃねえか」

アレンの冷酷な低音が響くと同時に、容赦のない「梃子」の原理が発動した。

グシャ……ベキバキバキッ!!!

「ぎゃあああああああああああッ!?!?!」

中庭に、肉と骨が凄まじい音を立てて砕け散る音が響き渡り、男が絶叫しながら地面へのたうち回った。アレンは一切の感情を排した目で、へし折った腕をゴミのように放り出す。アレンの背後に滑り込まされたリナは、その圧倒的な速度と安心感に、呆然と涙をこぼした。

「な、んだと……!? 今、何をした……!?」 ジュリアスが、その常軌を逸した「速度」と「腕力」に、一歩後退りして戦慄した。

「何事だ!!! そこで何をしている!!!」

その絶叫を聞きつけ、中庭の回廊から、恰幅のいい中年教師が顔を真っ赤にして血相を変えて走ってきた。転がる生徒の無残にへし折られた腕を見るや否や、教師はアレンを指差し、激しい怒号を浴びせた。

「貴様! 貴様はルシアン殿の連れてきた平民の補助員だな!? なんという暴挙を! 貴族の生徒をこれほど傷つけるなど、退学だけでは済まんぞ!」

「教官、お待ちください!」セレナが毅然とした態度で前に出る。「先に手を上げようとしたのは彼らです! アレンは私の大事なお友達を守るために──」 「……しかし、セレナ様」教師は形ばかりの礼をとりつつも、不満げに顔を歪めた。「理由がどうあれ、身分の低い者が、高貴なる貴族に立ち向かうなど学園の規律に反します。ここは穏便に収めるべきかと」

アレンは冷めた目で、その教師を見つめていた。 (……ふん。どこの世界にも、上が腐ってりゃ下も芋づる式に腐るもんだ。新選組の法なら、真っ先にこいつらの首が飛んでるぜ)

教師の言葉に勢いづいたジュリアスが、勝ち誇ったようにアレンを見下ろした。

「おい、平民。教官の言う通りだ。今すぐその薄汚い頭を地面に擦り付け、俺たちの足の裏を舐めながら土下座しろ。それで許してやらんこともない」 「そうだ。頭を下げるくらいでこの場が収まるなら、安いものではないか!」教師も追従する。

ルシアンの瞳が、完全に凍りついた。 「僕の秘書に、これ以上の侮辱は許さない。僕が相手になろうか、ジュリアス」 「ルシアン様、お控えください」

一歩前へ出たのは、アレンだった。彼は衣服の乱れを静かに整えると、教師とジュリアスに向かって、透き通るような、しかし絶対の威厳を持つ声を発した。

「教官、失礼ながら申し上げます。そもそも事の発端は、そちらのジュリアス・ヴァン・ボルテール様が、我が主君の妹君であるセレナお嬢様、およびそのお友達を不当に囲んでいたことにあります。私はルシアン様の秘書。主人の名誉と、その大切な方々を守るのは当然の義務。何か不都合でも?」

「お、俺に刃向かう気か、平民の分際でえええッ!!」 正論を突きつけられた教師が、恥をかかされたとばかりに顔を般若のように歪め、杖を構えた──。

「あら、ずいぶんと賑やかじゃない。おじさんたち、若い子を虐めて楽しいかしら?」

その場にいた全員の背筋に、冷たい刃を突きつけられたかのような「絶対的な悪寒」が走った。

回廊の影から、仕立ての良い深紅のドレスを優雅に翻し、長い漆黒の髪を揺らしながら、エレノア・フォン・ローゼンバーグが歩み出てきた。

「ロ、ローゼンバーグ教授……!」 教師の顔から、一瞬で血の気が引いた。

エレノアは、怯える教師やジュリアスなど視界にも入れず、切れ長の瞳を妖艶に細めてアレンを見つめた。 「教官。身分がどうの、規律がどうのと騒ぐのは、少し品がないわね。ここは魔法学園……ならば、白黒つける方法は一つしかないじゃない?」 エレノアは艶然と微笑み、信じられない提案を口にした。

模擬戦デュエルよ。この平民の少年と、ボルテール家の若君。どちらの『武』が正しいか、学園の法に則って決着をつければいいわ」

「な……何を仰るのですか、教授! 平民と貴族が決決闘など──」 「あら、学園長には私から通しておくわ。ルールは簡単。武器の使用は自由。相手を戦闘不能にするか、降伏させた方の勝ち。舞台は明日の放課後、第一演習場を私が特別に押さえてあげる。……それとも、ボルテール家の誇り高き魔法師は、魔力のない平民の男相手に、受けて立つ度胸もないのかしら?」

エレノアの挑発的な視線が、ジュリアスを射抜く。同時にアレンに向かって、悪戯っぽくウインクをして見せた。 (──良いお茶の、お礼よ。あなたの本気、私に見せてちょうだい?)というサインだ。

ジュリアスは顔を真っ赤に猛らせ、自身の杖を激しく地面に打ち付けた。 「面白い……! やってやろうじゃないか! 魔力ゼロの平民など、初手の雷魔法一発で肉片一つ残さず消し炭にしてくれるわ!!」

「ほう、それは楽しみだ」 ジュリアスは油断しきって勝ち誇っているが、傍らでそれを見つめるルシアンとセレナの目は、むしろジュリアスに対して憐れみの色を帯びていた。「アレンが負けるはずがない」と確信しているからだ。

アレンは小さく溜息をつきつつも、その完璧な執事の微笑の奥で、前世の『鬼副長』としての冷徹な牙を完全に剥き出しにした。

「ご配慮、感謝いたします、ローゼンバーグ教授。──結構です、私もその条件で構いません。ボルテール様、その高貴な魔法とやらで、どうぞ私を灰にしてみてください」

アレンの瞳の奥で、新技『瞬歩』と〈業火流〉を解き放つ瞬間を待ちわびるように、おどろおどろしい赤黒い戦場の業火が、静かに燃え上がり始めていた。


第60話をご覧いただき、ありがとうございました!


ボルテール家、本当に懲りないというか、死亡フラグを建築するのが天才的すぎますね!!(笑)


前半のルシアン様への「おにぎり和風弁当」の微笑ましい主従の空気感から一転、中庭でのボルテール分家の嫡男・ジュリアスの傲慢極まる嫌がらせ。平民のリナを傷つけ、セレナお嬢様まで脅かすドブネズミどもに、アレンの容赦のない鉄槌が下りました。


前話で編み出したばかりの【瞬歩】で音もなく間合いを詰め、言い訳の余地もなく腕をベキバキにへし折るシーン、最高にスカッとしましたね!これには元王宮暗部トップのエレノア教授も、ゾクゾクと歓喜の戦慄を隠しきれていません。


さらに、身分を盾に土下座を強要してくる腐った教師とジュリアスに対し、アレンの美味いお茶へのお礼として「模擬戦デュエル」の大舞台をプレゼントしてくれるエレノア教授、本当に最高のお姉様です。アレンに向かってウインクする姿が妖艶すぎます。

ジュリアスは「初手の雷魔法一発で消し炭にしてやる」と勝ち誇っていますが、ルシアン様とセレナが「あ〜あ、こいつ終わったわ……」と憐れみの目で見ているのが最高にシュールでニヤニヤしてしまいました。


次回、いよいよ放課後の第一演習場でデュエル開幕!

金剛丹で超人化した肉体、対魔法使い用歩法『瞬歩』、そして兼定に宿るあの“赤黒い炎”を纏った〈業火流〉『硝煙ノ灯』が、傲慢な貴族の雷魔法を正面からどうすり潰すのか!?

鬼の副長による、合法的な「不逞浪士(傲慢貴族)狩り」の時間をどうぞお楽しみに!


【作者からのお願い】

「瞬歩からの容赦なき腕折りが最高にスカッとした!」「エレノア教授のウインクとデュエルのお膳立てが有能すぎる!」「次回のジュリアスボコボコ回が待ちきれない!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いします!


皆様のブックマークと評価(★5)が、アレン(土方)がジュリアスの自慢の雷魔法を前提ごとブッタ斬り、演習場の藻屑に変える最強の斬撃バフになります!


なろう読者様:下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて、決闘に向かう副長へ勝利の喝采を!


カクヨム読者様:【★で称える】ボタンや【フォロー】のワンタップをぜひお願いいたします!

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