第59話:武の理の開拓
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第59話をお届けします。
【金剛丹】によって人間の限界を超えた肉体を手に入れたアレン。
彼は爆発的な筋力を「人間の皮の内側」に完璧に制御するため、ルシアンの膨大な書類仕事を驚異的な速度で捌く「精密な微調整訓練」として利用し始めます。
昼は優雅に羽根ペンを走らせる完璧な秘書。
しかし夜、ルシアンが眠りについた後、アレンは『特級魔導書庫』の知識を手に、対魔法使い用の暗殺歩法【瞬歩】を完成。さらにアレンが最も執念を燃やしたのは、魔法の属性に対抗するための「剣技の型」でした。
アレンが最初に挑むのは『火』属性。
彼にとっての火とは、前世の最期、箱館戦争で浴びた新政府軍の絶望的な近代兵器の硝煙と鉛玉。
その地獄の記憶から編み出された火魔法特化の迎撃型剣術が閃いた瞬間、魔力ゼロのはずのアレンの愛刀『兼定』に、不気味でおどろおどろしい“赤黒い炎”が纏いつき――!?
世界の理を歪める、鬼の副長の「武の開拓」が始まります!
演習場での大惨事による講義中止は、学園に奇妙な静寂をもたらしていた。だが、ルシアンの元には、実家であるグランヴェル家からの領地報告や、アレンが裏で動かしている特務隊の活動報告など、精査すべき膨大な書類が文字通り山積していた。
「アレン、済まないね。僕がまだ学生の身だからって、実家からも特務隊からも容赦なく報告が上がってくる。他の貴族なら、3日は部屋に引きこもる量だよ」
「気にするな、ルシアン。これしきのこと、秘書の執務としては当然の範疇だ」
男子寮のルシアンの自室。アレンはいつものように丁寧な手つきで紅茶を淹れつつ、デスクに座るルシアンに低い声のタメ口で応じた。二人きりの時だけ許された、対等な相棒としての距離感だった。
金剛丹によって、アレンの肉体は神経の伝達速度に至るまで劇的に強化されていた。爆発的に上がった筋力を「人間の皮の内側」に完璧に制御するため、アレンは日中の秘書仕事を肉体の精密な微調整の訓練として利用していた。
シャァ、と心地よい摩擦音を立てて、アレンの持つ羽根ペンが書類の上を神速で奔る。 インクを寸分も滲ませず、羽ペンの芯を折ることもない、完璧な力加減。ルシアンが書類を一枚読み終える間に、アレンはその三倍の書類を精査し、完璧な分類を終えていた。
「……本当に、君が秘書で良かったよ。君の頭脳はどうなっているんだい?」 ルシアンが呆れ半分、尊敬半分の溜息をつく。アレンはただ、悪戯っぽくニヤリと不敵に笑うだけだった。
しかし、その書類を捌くアレンの脳内は、冷徹な危機感で満たされていた。 報告書によれば、特務隊の威名がスラムに広まったことで、入隊を希望する者が急増しているという。
(数だけ増えりゃいいってもんじゃねえ。実力不足の有象無象を抱え込めば、組織全体の足並みが乱れ、隊の力が低下する)
アレンは厳格な規律を重んじる新選組副長だった男だ。烏合の衆など必要ない。さらに、現在の特務隊はシオンの一番隊を筆頭に、近接戦闘に偏りすぎている。
(魔法使いを相手にするなら、肉薄する前に仕留める、あるいは牽制するための『遠距離部隊』が不可欠だ。弓か、それとも投擲か……新しく部隊を新設する必要があるな)
もう一つ、アレンの胸に引っかかっているのは、監察方(密偵)筆頭であるミアからの報告が数日前から途絶えていることだった。 現在は、俺がいない間の特務隊を一番隊隊長のシオンに任せている。アレンから天然理心流の呼吸法を学び、驚異的な魔剣『瞬界・二段突き』を操るシオンの実力は確かだが、色素の薄い、おっとりとしたタレ目のあの少女は、戦闘時以外はどこかぽわぽわとしていて危うい。アレン自身が実際にスラムの現場を見ていない以上、どう転んでいるかが分からない。
アレンは書類仕事の僅かな隙に、シオン宛ての手紙を認め、隠密の伝書に託した。 ──『シオンへ。ミアから何か報告はないか。現場で起きたことは、どんな些細なことでも、漏らさず俺に報告しろ』
前世の沖田総司の面影をどこか重ねてしまう少女への、冷徹な局長としての、そして彼なりの不器用な気遣いだった。
◇
夜。ルシアンが眠りについた後、アレンは『特級魔導書庫』から持ち帰った知識を手に、自室の暗闇の中で床を踏みしめた。
この学園は主に魔法がすべてだ。それゆえに、肉体を効率的に使う歩法や、魔力なしで質量と速度を最大化する純粋な剣技の歴史は完全に退化し、途絶えている。 だが、アレンが埃を被った古代の文献から掘り起こしたのは、重心運用の記述だった。
金剛丹によって再構築されたアレンの足裏は、絨毯の繊維の一本一本、床板の僅かな歪みまでを正確に感知していた。 (なるほど、この肉体なら、地面を『蹴る』んじゃねえ。地面に力を『吸わせる』ことで、音もなく位置を入れ替えられる)
アレンは前世の足さばきと、金剛丹の人外の筋力を融合させ、一つの基礎的な歩法を完全に自らのものとした。
──『瞬歩』。
地面の草木を一筋も揺らさず、音もなく重心を前方へ傾け、次の瞬間には爆発的な筋力で空間を跳ぶ。魔法使いが「詠唱」を認識した瞬間には、すでにその懐へ潜り込んでいるという、対魔法使い用の暗殺歩法だった。
◇
アレンが最も執念を燃やしたのは、魔法の基礎属性に対抗するための「剣技の型」だった。 特級魔導書を読み解く中、アレンが最初に連想した属性は──『火』だった。
アレンはエレナから贈られた最高級の防刃シャツを身に纏い、『兼定』の柄を握り締めて目を閉じる。
アレンにとっての『火』とは、この世界の魔法使いが放つような、ただの温い火球ではない。 前世の最期、箱館戦争──新政府軍の近代兵器が容赦なく火を噴き、圧倒的な質量で迫り来る、あの絶望的な「火」の記憶。鉛玉が雨あられと飛び交い、己の衣服をかすめるたびに肉を焦がしていく、あの狂気的な危なさ。
あの地獄、闇夜に飛び交う鉛玉は、かすめるだけで肉を灼く凶器だった。だが、同時にそれは「敵がどこから撃ってきたか」を肉眼に焼き付ける一筋の光線──光の軌道でもあった。
(弾丸の火花が見えたときには、もう俺の体は敵の懐へと滑り込んでいた。あの地獄に比べりゃ、術者が得意げに構える火魔法の予備動作なんざ、隙だらけのマトに過ぎねえ)
迫る火を避けるのではない。その火の光を道標にして、最速最短で相手の首を撥ねる。
カァン……!
アレンの瞳が開くと同時に、引き抜かれた『兼定』が、暗闇の中で一条の閃光を奔らせた。
──〈業火流〉『硝煙ノ灯』。
迫り来る火球や銃撃の嵐を恐れず、その放たれた光の軌道と魔力の残滓を「敵の位置を示す目印」として逆利用し、最小限の動きで視界を確保しながら一刀のもとに敵を切り裂く、火魔法特化の迎撃型剣術。
だが、その瞬間だった。 暗闇に閃いた『兼定』の白刃に、バチバチと火花が散り、まるで前世の硝煙そのもののような、本物の『炎』が揺らめきながら纏いついた。
しかし、それは魔法使いの放つ綺麗な炎ではなかった。 硝煙の臭いが混じり、まるで血と油が焦げ付いたかのような、不気味でおどろおどろしい「赤黒い炎」だった。
「……っ?」
アレンは眉をひそめ、自身の刀を見つめた。 自分は魔力ゼロの体だ。魔法を現出させるための魔力など一滴もない。なら、なぜ『兼定』に本物の火が宿るのか。
アレン自身にも、その理由は分からなかった。 これが金剛丹の隠された効能なのか。それとも、前世のあの凄惨な戦場を駆け抜けた新選組副長としての執念と業の記憶が、世界の理を狂わせて生み出した奇跡なのか。
確かなのは、その赤黒い炎が、アレンの意志に従って冷たく, しかし狂暴に燃え盛っているということだけだった。
刀を鞘に収めると、炎は嘘のように消えた。アレンは静かに息を吐く。
「新政府軍の、あの地獄のような大砲の火に比べりゃあ……こっちの魔法使いの火なんざ、ただの線香花火だ。いくらでも切り道は見えてくる」
昼間は羽根ペンを優雅に走らせる完璧な秘書。 だが夜、暗闇の中で謎の赤黒い炎を宿す刃を研ぎ澄ますアレンは、異世界の魔法という理を根本から叩き潰すための、最凶の『鬼』へと変貌を遂げつつあった。
第59話をご覧いただき、ありがとうございました!
アレンの強さの説得力とロマンが、さらにとんでもない領域へと突入しましたね……!!
前半の、手に入れた人外の肉体を馴染ませるために「超スピードで羽根ペンを走らせて書類を捌く」というアレンのスマートなキャリブレーション、めちゃくちゃ格好良くないですか!?ルシアン様が呆れつつも「君が秘書で良かった」と全幅の信頼を寄せる主従の空気感、今回も最高に尊かったです。
そして、裏で特務隊の規律を重んじ、遠距離部隊の新設を考えたり、連絡の途絶えたミアや、沖田の面影を重ねるぽわぽわなシオンへ冷徹かつ不器用な手紙を送るなど、完全に「新選組副長・土方歳三」としての組織管理能力が遺憾なく発揮されていてゾクゾクしました。スラムの現場で一体何が起きているのか、ミアの安否も含めて今後の展開が気になります。
ですが、今回のハイライトは何と言っても夜の「武の理の開拓」です!
魔法使いが油断しきって放つ火魔法を、前世の箱館戦争での「近代兵器の弾丸の雨、衣服をかすめて肉を灼く地獄の火」に比べれば線香花火だと断じるアレンの圧倒的な修羅場経験。そこから編み出された〈業火流〉『硝煙ノ灯』の格好良さは異常です……!
しかも、魔力ゼロのはずなのに、アレンの執念と業の記憶が世界の理を狂わせたのか、兼定に灯った硝煙の臭いがする「赤黒い炎」。綺麗な魔法の炎ではなく、血と油が焦げ付いた泥臭い実戦の炎というのが、まさに土方歳三に相応しい最強の演出ですね。エレナ様から贈られた防刃シャツをさっそく着込んでいるのもニヤリとさせられます。
昼は完璧な一級執事、夜は魔法の理をすり潰す赤黒い炎を宿す鬼。
力を蓄えたアレンの前に、次なる陰謀はどう立ち塞がるのか!?
次回からの新展開も、どうぞお楽しみに!
【作者からのお願い】
「アレンの書類捌きが超絶スマートで格好いい!」「前世の箱館戦争の記憶から剣技を編み出す描写の深さに震えた!」「兼定に宿った赤黒い炎のロマンが最高すぎる!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いします!
皆様のブックマークと評価(★5)が、超人へと至り赤黒い業火を宿したアレン(土方)が、学園とスラムに蠢く陰謀の首謀者どもを根こそぎ灰へと変える最強の原動力になります!
なろう読者様:下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて、独自の武を切り拓く副長へ熱きエールを!
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