第58話:褒美と超人への階梯
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第58話をお届けします。
演習場での大惨事を収束させたアレンは、学園の最高権力者である学園長室へと呼び出されます。
そこでアレンが望んだ褒美は、爵位でも金でもなく、世界の理を解き明かす【特級魔導書庫のフリーパス】でした。
さらにオマケとして、魔法至上主義の学園では無価値とされていた肉体強化の奇薬【金剛丹】を譲り受けることに。
廊下では、アレンの「本物の武」に完全に魅了されたクリスティア王女を蕩かし、ツンデレ全開のエレナお嬢様からは特注の防刃シャツを贈られるなど、執事としてのモテ期(?)も最高潮。
しかし、その夜。
自室で【金剛丹】を飲み干したアレンの肉体を、人間の枠を超えるための「爆発的な激痛」が襲い――!?
魔法使いどもの薄っぺらい常識を根底から叩き潰す、鬼の副長の新たなる進化を目撃してください!
あの演習場での大惨事から、数日後。 学園は表向きは平静を取り戻していたが、アレンの規格外の活躍は、尾ヒレがついて学園中に広まっていた。平民の執事が、剣一本で亜竜の大群を葬り去ったという伝説は、貴族の生徒たちの間に驚愕と、嫉妬と、傷ついたプライド、そして奇妙な憧憬を巻き起こしている。
そんな中、アレンは学園の最深部、最上級生ですら立ち入りが制限される『学園長室』へと呼び出されていた。
「座りなさい、アレン君」
重厚なマホガニーのデスクの向こうで、学園長であるヴァルター・フォン・アインハルトは、いつもの穏やかな、しかし全てを見透かすような瞳でアレンを促した。
アレンは完璧な執事の所作で一礼し、勧められた椅子に座る。腰には、演習場での活躍により、エレノア教授の特例で一時的に携帯が許可されたままの『兼定』が鎮座していた。
「エレノア教授、特務隊、そしてクリスティア王女殿下から、君の戦いぶりは聞いている。……魔力ゼロでありながら、サラマンダー・ラプトルを一刀両断し、ルシアン君との連携で、死者ゼロという奇跡を成し遂げたこと、心から感謝する」
「……執事としての務めを全うしたまでです、学園長」 アレンは淡々と応じる。その態度は、相手がこの学園の最高権力者であろうとも、少しも揺るがなかった。
「ふふ、君のその貫楽は、到底一介の執事のものではないな。……まあいい。君の功績は、口頭での感謝だけで済むものではない。エレノア教授も、君には相応の『褒美』必要だと、熱弁していたからね」
学園長はそう言うと、デスクの引き出しから、一通の黒いカードを取り出した。 「さて、アレン君。君が望む褒美は何かね? 金一封か、それとも平民としては破格の爵位か……?」
アレンはデスクを見つめ、静かに、しかし迷いのない声で口を開いた。
「もし、私の望みを叶えていただけるのであれば。──金や爵位ではなく、この学園の『特級魔導書庫』への、一切の制限のない閲覧権をいただきたい」
「ほほう……魔導書庫へのフリーパス、か」 学園長は、興味深そうに眉をひそめた。 「魔力ゼロの君が、最上級の魔導書が集まる場所への立ち入りを望むとはね。それは一体どういう意図かね?」
アレンはあえて、困惑したような「無力な平民の顔」を僅かに演じてみせた。 「魔法を使えない私は、せめて知識だけでも仕入れなければ、次にルシアン様が襲われた時、足手まといにすらなれませんから。敵の出方が分からなければ、護るものも護れません」
(この男……ただの執事じゃねえ。一体どれほどの修羅場をくぐり抜ければ、これほど冷徹に『実戦』を見据えた思考ができるようになるんだ……。だが、主君思いの健気な少年だな) アレンの殊勝な態度に、学園長は目の前の少年が歩んできたであろう猛者としての過去に舌を巻きつつも、どこか満足げに頷いた。むろん、その裏でアレンが(これで奴らの喉笛を掻き切る理の死角が見えた)と冷徹に笑っているなど、知る由もない。
「いいだろう。君が望む褒美、すべて認めよう」 学園長は、デスクの上の黒いカードをアレンの方へと押しやった。 「これが、『特級魔導書庫・全エリア閲覧許可証』だ。この学園が保有する、あらゆる魔法の知識、古代の禁忌術に至るまで、君の好きなだけ読み漁るがいい」
さらに学園長は、引き出しの奥から、埃を被った古い木箱をもう一つ取り出し、苦笑しながらデスクに置いた。 「国際的な事件の後だからね。これは私からの個人的な付け足しだ。持って行きなさい」
「これは……?」
「かつて東方の国から持ち込まれたとされる、【超人薬・金剛丹】という代物さ。食せば、骨格や筋肉、内臓に至るまで、人間の限界を超えた肉体へと作り直されるらしい」 学園長は、さも価値の低い骨董品を処理するかのように肩をすくめた。 「だが、この学園は主に魔法がすべてだからね。どれほど肉体を鍛えたところで、上級魔法の一撃を喰らえばそれまでだ。わざわざ肉体が崩壊しかねないほどの激痛に耐えてまで、肉体の強化を望む物好きはいない。書庫の肥やしになっていたものだが、魔法を使わない君なら、何かの役に立つかもしれないと思ってね」
「……ありがたく頂戴いたします、学園長」 アレンは黒いカードと木箱を受け取り、再び深く一礼した。 魔法至上主義の住人にとっては無価値なゴミでも、アレンにとっては、己の肉体を魔法すらも置き去りにする『本物の凶器』へと変貌させるための、これ以上ない至宝だった。
◇
学園長室を後にし、黒い許可証と木箱を懐に、アレンは廊下を歩いていた。 その時、廊下の向こうから、クリスティア王女が護衛の騎士たちを伴って歩いてくるのが見えた。王女はアレンの姿を認めるや否や、嬉しそうに駆け寄ってくる。
遠巻きに見守る護衛 of 騎士たちが「平民風情が王女殿下に近づくな」と冷ややかで鋭い視線を送ってくるが、アレンは前世の戦場で鍛え上げた一瞥だけで、彼らの放つ不躾な威圧感を防壁ごと綺麗に圧殺した。騎士たちが息を呑んで硬直する中、アレンは王女の前で完璧な執事の所作で行儀よく膝を突いた。
「クリスティア様。学園長のご厚意で、特級魔導書庫への閲覧権と、オマケとして特別な丸薬をいただきました」
「魔導書庫への……!? アレン様、魔力がないのに……?」 王女は驚愕したが、アレンは彼女にだけ聞こえる低い声で、ふっと新選組副長としての獰猛な笑みをその唇に浮かべた。 「ええ。魔法というものを、根本から理解し、その死角を突くための『知識』です。殿下のお心が安らぐのであれば、私のこの命と知識、いつでもあなたの武器としてお使いください」
(……私の、武器として……!) アレンのその冷酷で、しかしあまりにも美しい強さへの執着と、自分だけを特別扱いしてくれる執事の温度差に、クリスティア王女は呆然と自らの胸を押さえた。顔を林檎のように真っ赤に染め、初恋の熱で目眩を起こしそうになりながら、ただ小さく頷くことしかできなかった。
◇
王女と別れ、中庭の回廊に差し掛かった時のことだった。 柱の影から、そわそわとした様子で辺りを気にしていた人影が、意を決したようにアレンの前に飛び出してきた。
「っ、ちょっと待ちなさい、泥……っ、アレン!」
美しい金髪を揺らし、顔を真っ赤にしているのは、フロストハイム公爵家の令嬢エレナだった。前話の演習場で、アレンに乱暴に、しかし完璧に抱きかかえられて救出され、完全に脳を灼かれた少女である。
「これはエレナ様。体調はもうよろしいのですか」 アレンがいつも通りの澄ました顔で一礼すると、エレナは扇子をぎゅっと握りしめ、ツンとそっぽを向いた。
「べ、別にアンタに心配されるほどヤワじゃないわよ! ……それより、これ、受け取りなさい!」 エレナは突き出すように、高級な絹で包まれた小さな箱をアレンの胸元に押し付けた。
「これは一体?」 「お、お礼よ! 命を救われたのに、ルシアンに借りを作ったままになるのは我がフロストハイム家の沽券に関わるから! 中身は最高級の仕立て屋で作らせた、特注の執事服一式と……その、防刃加工を施したシャツよ!」
エレナはアレンの顔を見ようともせず、早口でまくしたてる。 「アンタが、私のために、あんな無茶な戦い方をするから……。その、怪我でもされたら寝覚めが悪いでしょう!? 勘違いしないでよね、アンタのためじゃなくて、我が家のプライドのためなんだから!」
完全にプライドと恋心の狭間で大混乱しているツンデレの極み。アレンはその箱を恭しく受け図ると、ふっと柔らかく微笑んだ。 「過分なお気遣い、痛み入ります。エレナ様からいただいたこの衣類、私の背中を護る盾として、大切に着用させていただきます」
「なっ……! む、胸の盾にしなさいよバカァ!」 アレンの不意打ちの紳士的な微笑みに完全にノックアウトされたエレナは、耳まで真っ赤にして、逃げるように走り去っていった。アレンはその背中を見送りながら、やれやれと小さく首を振った。
◇
その夜。男子寮のアレンの自室にて。 アレンは学園長から貰った【金剛丹】を口に放り込み、紅茶で一気にかき込んだ。
「──っ!!」
次の瞬間、全身を爆発的な激痛が襲った。 骨が砕かれ、筋肉が引き千切られ、内臓が煮え繰り返るような、人間の限界を超えた激痛。前世で数多の刀傷を負い、死線をくぐってきたアレンですら、床に両手を突き、歯が砕けんばかりに食いしばらねば意識が飛ぶほどの衝撃だった。
しかしアレンは、己の肉体が超人へと作り直されていく、その悍ましい過程をただ冷徹に耐え抜いた。魔法使いどもを置き去りにする本物の『間合い』を手に入れるため、男の魂は歓喜すらしていた。
夜が明ける頃。 ベッドから立ち上がり、壁に立てかけてあった『兼定』の柄を握った。
「……ほう」
驚いたことに、前世の全盛期──いや、あの激動の京都で毎夜のように暴れ回っていた頃よりも、はっきりと「刃が軽く、身体の一部のように馴染む」感覚があった。見た目は細身のままだが、筋肉の密度と骨格の強度は完全に人間の枠を超えている。近くの手鏡の鉄枠を片手で軽く握り込んでみると、魔力の防壁もないのに、飴細工のようにぐにゃりと歪んだ。
(これなら、あの魔法使いどもの薄っぺらい防壁ごと、まとめて両断できるな……)
アレンは暗闇の中で静かに刃を誘わせ、ニヤリと不敵に笑った。知識、そして人外の肉体。奴らの理を根本から叩き潰す準備は整った。
◇
数日後。アレンは厳重な結界に守られた『特級魔導書庫』の扉の前に立っていた。 黒いカードを扉の紋様に翳すと、重厚な石の扉が、静かに、しかし威圧的な音を立てて開く。アレンは迷いなく、その中へと足を踏み入れた。
見渡す限りの本、本、本の山。この世界の魔法の起源、失われた古代の禁忌術。 アレンは執事の完璧な所作で一冊の古びた魔導書を手に取る。
魔法の基礎、そしてこの世界の魔法の理を、根本から打ち破る。 新選組副長の、異世界での「理の破壊」が、今、始まった。
第58話をご覧いただき、ありがとうございました!
アレン、ついに人間の枠を超えて「超人」の領域へ足を踏み入れましたね……!!
前半、学園長の前で「主君思いの健気な少年」を完璧に演じながら、裏では「これで奴らの喉笛を掻き切る理の死角が見えた」と冷徹に笑うアレン、さすが幕末の激動を政治的にも生き抜いた土方歳三です。魔法使いどもが「肉体を鍛えたところで上級魔法一発で終わり」と鼻で笑う中、素手で鉄枠を飴細工のように歪める肉体を手に入れ、ニヤリと不敵に笑うシーンは鳥肌が立ちました。
そして中盤のヒロインたちのチョロ……いえ、純情っぷりが今回も最高でした!
護衛の騎士たちを一瞥で黙らせ、クリスティア王女にだけ獰猛な笑みで「あなたの武器としてお使いください」と囁くアレン。お姫様、初恋の熱で目眩を起こしかけていて可愛すぎます。
さらにエレナお嬢様のツンデレの教科書のような「アンタのためじゃなくて我が家のプライドのためなんだからね!」からの、アレンの紳士的な微笑み一発で「胸の盾にしなさいよバカァ!」と耳まで真っ赤にして爆走退場。アレン、天然で女たらし(※前世のモテ男の記憶)を発揮していて最高です。いただいた防刃シャツ、大活躍の予感しかありませんね!
ラストは、手に入れた人外の肉体と、特級魔導書庫のあらゆる知識を手に、ついに世界の「理の破壊」へと動き出すアレン。
魔法の仕組みを根本から理解した鬼の副長が、ここから『黒の円卓』や裏の陰謀をどうハメ殺していくのか、今からワクワクが止まりません!
【作者からのお願い】
「学園長を騙すアレンのタヌキっぷりが最高!」「クリスティア王女とエレナ様の反応が可愛すぎてニヤニヤした!」「金剛丹で肉体が化け物進化したラストにゾクゾクした!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いします!
皆様のブックマークと評価(★5)が、超人へと至ったアレン(土方)が、特級魔導書庫の知識を以て世界の理をバラバラに解体する最強のバフになります!
なろう読者様:下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて、さらなる高みへ至った副長へ熱きエールを!
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