第55話:鬼の剣閃、神童の風
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第55話をお届けします。
魔力ゼロの『鬼の副長』と、多重魔法の『神童』。
互いへの絶対の信頼を胸に、アレンとルシアンの圧倒的な連携が、魔法耐性を誇る亜竜の群れを次々と解体していきます。
しかし、黒ローブの陰謀によって魔物たちが異常な炎を纏って暴走。
魔法の代償による弱点を突かれ、絶体絶命の窮地に陥った北方の公爵令嬢エレナ。
その細い腰をガシッと抱きかかえ、死地から救い出したのは、燕尾服を脱ぎ捨てたアレンでした。
常に冷え切っていたエレナの素肌にダイレクトに伝わる、修羅場をくぐり抜けてきた男の「本物の体温」。
泥と見下していた平民の熱量に、お堅い公爵令嬢の脳内は完全に焼き切られ――!?
王女クリスティアもその熱い武威に目を奪われる中、最強の主従が獰猛な反撃の狼煙を上げます!
「ルシアン様、正面の三頭を。俺が右から崩します」 「了解。僕の風で道を拓くよ、アレン!」
言葉が交わされた次の瞬間には、二人の肉体は同時に動いていた。 アレンは白シャツの袖をまくった腕で『兼定』を鋭く正眼に構え、驚異的な脚力で地面を爆ぜさせる。
正面から咆哮を上げて迫る三頭の【熔岩大蜥蜴】に対し、ルシアンは一切の詠唱を挟まずに風の衣【ウィンド・ヴェール】を多重展開。暴風の塊を弾丸のように撃ち出し、魔物たちの巨躯を強引に一箇所へと押し込め、その足止めをしてみせた。
「そこだ!」
ルシアンの合図と同時に、アレンの身体が『縮地』によって一瞬で視界から消える。 魔法耐性を誇る強固な赤黒い鱗。だが、前世で数多の肉の壁を切り裂いてきた人斬りの眼は、その鱗の継ぎ目──皮膚が最も薄い「首の裏の関節」をミリ単位で見抜いていた。
魔法が使えねえなら、肉の切り合いを極めればいい。それが、この異世界でアレンが己に課した絶対の理だ。
「──ふん」
鋭い呼気とともに閃いた兼定の刀身が、一切の抵抗を感じさせずに一頭目の首を深く絶ち切る。凄まじい返り血が舞う中、アレンはその血飛沫を浴びることすら予測した身のこなしで、二頭目の懐へと滑り込み、その顎下から脳天へと刃を真っ直ぐ突き崩した。天然理心流の基本にして極意、無駄のない死の刺突。
アレンの檄によって遅れて結界内に入り、息を切らせてようやく追いついた他の補助員たちが目にしたのは、魔力を持たないはずの平民の少年が、刃一本で巨獣を無慈悲に解体していく地獄絵図だった。 「あ、あいつ……本当に魔力ゼロの落ちこぼれなのか……!?」 アレンの周囲数メートルに展開された濃密な殺気【方円の檻】の余波に当てられ、補助員たちは息を呑み、恐怖で足をすくませるしかなかった。
「な……なんなのよ、あの男……!?」
後方で傷ついたレナードを庇いながら戦況を見ていたエレナ・ド・フロストハイムは、驚愕のあまりライトブルーの瞳を見開いていた。 自慢の魔法が効かないはずの怪物を、ただの平民が、魔力も使わずに紙切れのように屠っていく。その常軌を逸した光景は、彼女の強固な選民思想を根底から揺るがすに十分だった。
クリスティア王女もまた、激しく胸を震わせてその背中を見つめていた。 【真実の光彩】を持つ彼女の眼には、アレンの動きに一切の魔力の揺らぎが見えない。だからこそ、洗練された執事の身のこなしの奥に潜む、命のやり取りの中でしか磨かれない「剥き出しの強さ」──その純粋な武の結晶が、たまらなく美しく、ロマンチックに映っていた。
だが、不審者が仕掛けた罠の真の恐怖は、ここからだった。
「グルルルル……アアアアアアッ!!」
生き残った魔物たちの足元で、何者かが設置した赤色の魔導具がさらに禍々しく明滅する。 すると、魔物たちの身体に刻まれた赤い紋章が激発し、その全身から、周囲の木々を一瞬で炭化させるほどの「異常な熱気と炎」が噴き出したのだ。本来の数倍の凶暴性を宿した魔物たちが、肉体が崩壊するのも厭わずに突撃してくる。
「っ……ルシアン様、下がってください! 様子がおかしい!」 アレンが鋭く叫び、ルシアンの手前に割り込む。
「防衛に回る! 【絶対不可侵・氷結世界】!!」 エレナが焦燥を押し殺して一喝し、ルシアンたちの前に再び巨大な氷の城壁を創り出そうとした──しかし、魔物たちが纏う尋常ではない熱量によって、触れた瞬間に氷がみるみる溶けて薄くなっていく。
さらに、氷魔法の極致に至っている代償──【凍える素肌】を持つエレナにとって、戦場を埋め尽くすこの異常な炎の熱気は、意識を刈り取りかねない「劇薬」だった。 「あ……熱い……熱くて、頭が……ッ!!」 極度の不快感と眩暈に脳がパニックを起こし、魔力操作が完全に霧散する。展開しかけた氷の城壁がガラガラと音を立てて崩れ去った。
無防備になったエレナの背後。炎を鋭い爪に宿したサラマンダー・ラプトルが、勝利を確信したように跳躍し、彼女の細い身体を引き裂こうと襲いかかった。
死を覚悟して目を瞑るエレナ。
だが、その絶対絶命の瞬間に、彼女の身体を強烈な衝撃が襲った。
「──そこまでだ、ドブネズミども」
ドガァァァンッ!!!
凄まじい肉体の衝突音。 寸前で滑り込んできたアレンが、天然理心流の無駄のない体当たりと『兼定』の鞘の一撃で、襲いかかった魔物の巨躯を強引に叩き折って弾き飛ばしたのだ。
「きゃっ……!?」 衝撃で崩れ落ちそうになったエレナの細い腰を、アレンの左腕が、ガシッと力強く抱きかかえて引き寄せた。
「おい、しっかりしろ。公爵令嬢がそんな面してんじゃねえ」 「え……っ」
エレナの思考が、完全に停止した。 魔物の放つ不快な炎の熱気とは、全く違う。 常に冷え切っていた彼女の素肌に、アレンの服越しからダイレクトに伝わってきたのは──血の滲むような鍛錬によって築き上げられた、男の本物の熱量。そして、数々の死線を越えてきた者にしか宿らない、圧倒的な「生きる闘気」に満ちた体温だった。
(な、何……これ……? 熱い……熱くて、胸の奥が、おかしくなる……ッ!?) 生まれて初めて触れた「男の体温」。それも、自分が「泥」と見下していたはずの男から放たれる、芯から自分を焦がすような熱。その強烈すぎる衝撃に、エレナの脳は完全に焼き切られ、顔を耳の裏まで真っ赤に染めたまま固まってしまった。
アレンは彼女の様子など気にする風もなく、動けなくなったエレナの身体を、すぐ近くにいた王女の元へと軽く押し出した。
「クリスティア様、お嬢様をお願いします」 「え、ええ……! 任せて!」
クリスティア王女は淑女として完璧に応じ、真っ赤になって呆然としているエレナをしっかりと支える。だがその内心では、間近で見るアレンの剥き出しの武威に、激しく胸を高鳴らせていた。 (ああ、本当に素敵……! 乱れた白シャツから覗く、あの鍛え上げられたお身体……これぞ本物の『武』の美しさだわ……!)
クリスティアに支えられながらも、エレナのライトブルーの瞳は、アレンの背中から離せなかった。 (な、何よあの無礼な男……泥の分際で、私に触れて……それにお説教なんて……っ!) 内心で激しく憤慨しようとするものの、口をついて出るのは熱い吐息ばかり。アレンの力強い体温が残る腰のあたりが、気恥ずかしさでカッカと熱を帯びていくのを、彼女は止めることができなかった。
アレンが再び『兼定』を構え直したその瞬間、クリスティア王女の【真実の光彩】が、その一振りの刀身を捉えた。 魔力の輝きはない。だが、幾千もの命を吸い尽くしてきたかのような、悍ましくも美しい『鉄の意志』の輝きがそこにはあった。この世界の魔法武器とは根本から異なる、実戦刀としての底知れない迫力に、王女は眩暈がするほどの衝撃を受け、さらにその心を引き込まれていく。
その隙に、ルシアンが油断なく周囲を警戒しながら、アレンに声を潜めて問いかけた。 「アレン、天幕の方で何があったの?」
「手短に話します」 アレンは視線を正面の魔物たちから外さないまま、低く冷徹な声で応じる。 「外に、俺たちの知らない『黒いフードを被った男』がいました。奴らが仕掛けた高度な結界のせいで、教師たちの援軍はしばらく見込めません」 「……やっぱりか。教官たちの仕掛けにしちゃ悪質だと思ったよ。で、敵の狙いは?」 「はっきりとは分かりませんが……おそらく、そちらにいらっしゃるクリスティア王女でしょう。この状況で一番価値がある首だ」
アレンの言葉に、ルシアンは少し眉をひそめて考え込んだが、すぐに納得したように小さく息を吐いた。 「確かにその可能性は高いね。王女を人質にするか、あるいは……。──だけど、この数の魔法耐性持ちを相手に教師の援軍なしっていうのは、流石にちょっと厳しいかな?」
ルシアンはそう言いながら、肩をすくめてアレンに不敵な視線を送る。 「……なんて、君に言うのは野暮だね。どうせ、そんなことで音を上げるタマじゃないだろ?」 それは、数々の難局をともに潜り抜けてきた、絶対の相棒に向ける全幅の信頼の笑みだった。
アレンもまた、完璧な執事の仮面を脱ぎ捨て、新選組副長としての獰猛な笑みをその唇に刻む。 「何弱気なこと言ってやがるんです。この程度の有象無象、俺とあんたがいれば、ただの肉の切り出し場だ。──ルシアン様、一気に畳み掛けます!」 「ああ、合わせるよアレン! 僕たちの連携を見せてあげよう!」
魔力ゼロの『鬼の副長』と、多重魔法の神童。二人の天才による過酷な実戦の理が、狂乱の戦場を完全に支配せんと動き出す。
第55話をご覧いただき、ありがとうございました!
エレナ様、完全におちましたね……!!!(ガッツポーズ)
いやもう、今回の後半のラブコメ(?)展開、書いていて楽しすぎてニヤニヤが止まりませんでした!
傲慢な選民思想を持っていたエレナが、暴走する熱気でパニックになり、死を覚悟した瞬間にアレンの強烈な抱擁。常に凍えていた彼女の身体に刻み込まれた、アレンの「生きる闘気に満ちた本物の体温」……。泥と見下していたはずの男に触れられ、気恥ずかしさでカッカと熱を帯びていくエレナ様、最高にチョロ可愛いです。
さらに第一王女のクリスティア様も、乱れた白シャツから覗くアレンの肉体美と、幾千の命を吸ってきた『兼定』の鉄の意志に魅了され、激しく胸を高鳴らせています。お堅い高貴なお嬢様方が、アレンの「剥き出しの武」の前にどんどん狂わされていくのがたまりません。
ですが、ラストは一転して最高の男たちの戦場へ。
敵の狙いが王女だと看破し、ルシアン様から「音を上げるタマじゃないだろ?」と不敵な信頼を向けられたアレンが、新選組副長としての獰猛な笑みを浮かべるシーンの格好良さ!
「この程度の有象無象、俺とあんたがいれば、ただの肉の切り出し場だ」
痺れました。陰謀を仕掛けた黒ローブども、完全に相手を間違えましたね。ここからは狼たちの独壇場、お遊びの魔法使いどもに、本物の戦術と実戦剣技の恐怖を叩き込む時間です!
次回、狂乱の森を血の海に変える主従の大無双編、どうぞお楽しみに!
【作者からのお願い】
「エレノアに続いてエレナ様まで脳を焼き切られる展開が最高すぎる!」「アレンとルシアンの『肉の切り出し場』のセリフが熱すぎる!」「次回の主従無双が待ちきれない!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いします!
皆様のブックマークと評価(★5)が、アレン(土方)がルシアンと共に、陰謀の魔物どもを骨の髄までバラバラに解体する最強の斬撃バフになります!
なろう読者様:下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて、鬼の副長へ突撃の咆哮を!
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