第54話:狂瀾の結界と、新選(あらた)なる共闘
いつも熱い応援とたくさんの評価をいただき、本当にありがとうございます!
第54話をお届けします。
陰謀の気配を察知し、燕尾服の上着を脱ぎ捨てて森へ突入したアレン。
しかし、敵の術式によって森全体を分断する高度な【結界】が張られ、教官や補助員の大半が締め出されてしまいます。辛うじて結界内へ滑り込んだアレンは、鬼の副長の気魄で周囲の補助員を率いてルシアンの元へ急行します。
一方、孤立した演習場には、本来生息しないはずの凶暴な亜竜『熔岩大蜥蜴』の群れが襲来。
傲慢なレナードが返り討ちに遭い、ルシアンやエレナ、クリスティア王女が包囲される絶体絶命の窮地に――。
「──ご無事でしたか、ルシアン様、お嬢様方」
白シャツの袖をまくり、愛刀『兼定』を抜き放ったアレンが、ついに異世界の化け物どもを真っ向から迎え撃ちます!
不審者の存在を捉えた瞬間、アレンの身体は天幕を蹴破って外へと飛び出していた。
「ルシアン様たちのところですね」 「ええ、直線距離で北に二ラージ──」 「行きます」
背後からかかるエレノアの声を置き去りにし、アレンは猛然と森の中を突き進む。 昼食後に完璧に叩き直した基礎体力と、前世から培った天然理心流の爆発的な脚力。それが、燕尾服のボタンを荒々しく外したアレンの肉体から爆発していた。
走る邪魔になる長すぎる前髪を、無造作に左手で掻き上げる。燕尾服のジャケットを脱ぎ捨て、白シャツの袖をまくり上げたその姿は、洗練された執事というよりも、かつて泥塗れの戦場を縦横無尽に駆け抜けた『新選組副長』のそれだった。 森の悪路など、アレンにとっては道ですらない。 目の前に立ち塞がる巨岩や倒木といった障害物を、流れるような無駄のない身のこなしで次々と飛び越えていく。他の貴族の補助員たちが木の根や泥に足を取られ、見る見るうちに遅れていく中、アレンだけが恐るべき速さでさくさくと突き進んでいく。 天幕の前でその背中を見送ったエレノアは、魔力を持たないはずの執事が見せた尋常ならざる身体能力の高さに、「なっ……何あの速さ……!?」と、その美しい顔を驚愕に歪ませた。
だが、アレンたちの動きは、敵方にも察知されていた。 鬱蒼と生い茂る木々の上。不自然に蠢く影の中で、深くフードを被った男が、眼下で騒ぎ始めた補助員や教官側の様子に気づき、冷酷に隣の男へ指示を出す。 「気づかれたか。構わん、始めろ」
次の瞬間、森全体を揺るがすような不気味な地鳴りとともに、禍々しい紫色の光が地面から天を突いた。 「──ぬおっ!?」 あまりの衝撃と激しい魔力の余波に、アレンの身体が一瞬浮き、激しく地面へと転びかけた。しかし、アレンは即座に空中で身を翻し、見事な受け身を取って無傷で着地した。
すぐに体勢を立て直して後方を振り返ると、そこには一足遅れて走ってきていた他の補助員たちと、先に突入していたアレンたちの間に、強固な光の壁──【結界】が展開されていた。 遅れて結界のすぐ外側まで追いついたエレノアが、光の表面に手をかざし、忌々しげに顔をしかめる。 「これは……非常に高度な結界ね。外からの干渉を完全に遮断しているわ」
その言葉を聞いた瞬間、アレンの脳裏に敵の意図が閃いた。 (なるほど。俺たち補助員や教官が、生徒たちと接触するのを防ぐのが狙いか……!)
敵の目的が生徒たちの孤立であると察したアレンは、すぐさま、自身とともに結界の内側へと滑り込んでいた数人の補助員たちに向き直り、天を衝くような鋭い声で渇を出した。 「おい! ぼさっとすんじゃねえ! 先に中に入れたのは俺たちだけだ! ぐずぐずしてると生徒たちが全滅するぞ、急いで救援に向かうんだ!」 「は、はいっ!」 鬼の副長の気魄に圧された補助員たちが、弾かれたように走り出す。アレンは結界の外側にいるエレノアを一瞥した。 「ローゼンバーグ教授、私たちは先に救援に向かいます!」 /「ええ、頼んだわ!」
アレンが風のように森の奥へと走り去るのを見届け、エレノアは鋭い表情で振り返り、結界の外に取り残された教師たちに怒号を浴びせた。 「何をしているの! 急いでこの結界の術式を調べなさい! あらゆる手段を使って、一秒でも早く解除するのよ!」 的確に指示を飛ばしながら、エレノアは心の中で、あの魔力無き執事の背中に祈るように呟いていた。 (……生徒たちを頼みますよ、アレン)
◇
その頃、演習場の中心部では、突如として周囲に張り巡らされた不気味な結界の光に、学生たちが騒然としていた。 「な、んだこの光は!?」「結界……!? 演習場にこんな仕掛けはないはずだぞ!」
周りの生徒たちが次々と動揺し、パニックに陥りかける中、ルシアンは至って冷静に周囲を見渡していた。 (突如として張られた結界……最初は教官たちが仕掛けた、抜き打ちの演習か何かだと思ったけれど……いや、おかしい。こんな大規模で強力な結界を前触れもなく張るなんて、いくらなんでもやりすぎだ。……まさか、演習場の内外で何か『想定外の非常事態』が起きているんじゃないか?)
第三者の襲撃という事実までは知り得ないものの、ルシアンの天才的な戦術眼は、これが尋常な事態ではないことを即座に嗅ぎ取っていた。 そのルシアンの不穏な予感を、傍らに佇む第一王女クリスティアの瞳が決定づける。彼女は固有能力【真実の光彩】を発動させ、天を衝く結界の光を凝視していた。 (……ルシアンの言う通りだわ。この結界に流れる魔力、王立学院の教官たちのものじゃない。もっと悍ましく、悪意に満ちた未知の術式……! 確実に、何かが起きている……!)
ルシアンはすぐさま、状況を立て直すために声を張り上げた。 「みんな、落ち着いて! 状況が分からない以上、不用意に動くのは危険だ! 散り散りになっていた人は、すぐに僕のところに集まるんだ! 陣形を組んで防衛に備える!」
的な指示だった。ルシアンの冷静な声に、多くの生徒たちが我を取り戻して集まり始める。だが、ただ一人、激しく鼻を鳴らしてその指示を拒絶する者がいた。レナード・ヴァン・ボルテールである。 「ふん! グランヴェル家の神童とやらは、随分と臆病なのだな! ハプニングだろうが何だろうが、ボルテール家の雷の敵ではないわ!」 レナードはルシアンの静止を完全に無視し、傲慢に一人で前へと進み出てしまう。
その瞬間、鬱蒼とした茂みが激しく揺れ、地響きとともに「それ」が現れた。
「──グルゥゥゥアアアッ!!」
現れたのは、全身が鋼鉄のような赤黒い鱗で覆われ、口元から激しい熱気を吹き出す巨大な亜竜──【熔岩大蜥蜴】。それも、一頭ではない。この地域には絶対に生息しないはずの凶暴な生物が、複数も姿を現したのだ。
「なっ……バカな!? なぜこんな魔物が……!」 生徒たちが絶望的な声を上げる中、功名心に駆られたレナードは不敵に笑った。 「ハハハ! ちょうどいい、俺の引き立て役になれ! 【天雷の裁き(サンダー・ジャッジメント)】!!」
レナードが自信満々に放った雷魔法。激しい落雷がサラマンダー・ラプトルの脳頭を直撃し、凄まじい光と爆音が炸裂した。だが──爆煙を切り裂いて現れた巨躯は、傷一つ付いていなかった。
「な……に……っ!?」 レナードが目を見開く。背後から、エレナ・ド・フロストハイムが冷徹な三白眼をさらに鋭くして言い放った。 「愚か者め。その魔物は極めて高い【魔法耐性】を持っているわ。並の魔法など、その鱗を傷つけることすらできないわよ」
「く、クソが! ならばこれでどうだ!」 逆上したレナードは続けざまに魔法を放つが、魔物は一切怯むことなく突っ込んでくる。魔法の光を強引に喰い破りながら、瞬く間に距離を詰めた巨躯が、レナードの目の前に迫る。 「あ──」
ドガッ!!!
魔物の太い尾による渾身の一撃が、レナードの腹部に容赦なく叩き込まれた。 「がはっ……!? ひ、ぅ……あ、腹……が……ッ!」 かつてアレンとの決闘で、鞘で腹を強打されて投げ飛ばされたトラウマが一瞬だけ脳裏をよぎる。レナードは盛大に血を吐きながら、無残にその場にうずくまり、ピクリとも動かなくなった。
「レナード!」 ルシアンが叫ぶ。魔物は動けなくなったレナードをさらに踏み潰そうと、巨大な前足を振り上げた。 ルシアンは即座にレナードの前に割って入ると、魔力障壁【アブソリュート・バリア】を展開。さらにそれを二重に張る【ダブル・シールド】によって、魔物の踏み付けをギリギリのところで受け止める。
防壁によって視界を遮られた魔物は、なおも強行突破を図ろうと突撃してきた。 この地域には生息しない魔物が放つ、独特の生温かい熱気。氷魔法の代償である【凍える素肌】を持つエレナにとって、その熱は不快極まりないものだった。
ライトブルーの瞳を激しい嫌悪に染め、エレナは身じろぎ一つせず、地面へと手を突き下ろす。
「私の前で、その汚らわしい熱気を撒き散らすなと言っているのよ」
【絶対不可侵・氷結世界】。 魔物の足元が一瞬で凍りつき、巨大な氷の棘が隆起してサラマンダー・ラプトルの足元を完全にすくった。体勢を崩し、無防備に転倒する巨躯へ、エレナは容赦なく氷の槍を突き刺し、冷酷にとどめを刺した。
「ハァッ!!」 同時に、第一王女クリスティアもドレスの裾を翻しながら鮮やかに踏み込み、細剣を突き出す。光・付与魔法【神聖なる一閃】。眩い光速の刺突が、別の魔物の急所を的確に穿ち、一撃で絶命させた。
ルシアンも負けじと、魔物の容赦ない攻撃を【ウィンド・ヴェール】で受け流しながら、魔法耐性の通用しない「目」などの急所に集中して【フレイム・バレット】の精密射撃を叩き込んでいく。
しかし、異変はそれで終わらない。森の奥から、凶暴な魔物たちが文字通り「あふれる」ように次々と姿を現し、彼らを完全に包囲していったのだ。 「嘘……多すぎるわ……!」 クリスティア王女の顔から血の気が引いていく。ジリジリと限界を迎える生徒たち。完全に囲まれた、絶体絶命の窮地。
魔物の一頭が、鋭い爪を振り上げ、ルシアンたちへ飛びかかった──その瞬間。
──キィィィィィンッ!!!
空気を切り裂く、凄まじい衝撃波の斬撃が虚空を走った。 飛びかかっていたサラマンダー・ラプトルの巨躯が、その一撃によって強引に横へと吹き飛ばされ、激しく地面を転がっていく。
「──ご無事でしたか、ルシアン様、お嬢様方」
低く、極めて沈着冷静な、だが絶対の安心感をもたらす声。 学生たちが驚愕して目を見開いた先──木々の間から姿を現したのは、燕尾服を脱ぎ捨て、剥き出しの圧倒的な強さを放つアレンの姿だった。その手には、愛刀『兼定』が冷たく握られている。
うわべだけの礼儀作法や退屈な社交界に辟易していたクリスティア王女の胸に、これまでにない激しい高鳴りが走った。 (これよ……私が求めていた、命のやり取りの中でしか磨かれない本物の『武』……! なんて美しく、凄まじいのかしら……!) 王女の瞳に、アレンという存在が鮮烈に焼き付けられた瞬間だった。
ルシアンは、最悪のタイミングで現れた最高の相棒を見て、不敵に笑った。 「……まったく、本当に頼りになるよ、アレン」
「執事ですからね。主人を死なせれば、格好がつきません」 アレンが応じると同時に、その後方から、結界を潜り抜けていた他の補助員たちも息を切らせて合流した。
数は未だ圧倒的劣勢。しかし、戦場に漂う空気は完全に変わっていた。 アレンの実戦剣技と、ルシアンの高度な戦術。二人の天才による過酷な連携が、陰謀に満ちた漆黒の森を切り裂き始める。
第54話をご覧いただき、ありがとうございました!
いやもう、お待たせいたしました!これぞ私たちが読みたかった「剥き出しの土方歳三」の戦場です!!
前半、走る邪魔になる前髪を無造作に掻き上げ、白シャツ姿で森の悪路を爆走するアレン、野生の格好良さがカンストしていましたね。結界で分断されてパニックになる他の補助員たちに、天を衝くような声で「ぼさっとすんじゃねえ!」と一喝して指揮権をひったくる姿は、完全に新選組副長・土方歳三そのものでした。
そして後半の生徒たちの防衛戦。ルシアン様の迅速な陣形指示や、エレナのブチ切れ広範囲氷結、クリスティア王女の美しい刺突と、神童たちの意地が見える素晴らしい共闘でした。……あ、一人だけフラグを速攻で回収して、アレンのトラウマを思い出しながら盛大に血を吐いてうずくまったボルテール家のレナード様は、今回も素晴らしい噛ませ犬っぷりでした(笑)。
そんな絶体絶命の包囲網を切り裂いた、アレンの【兼定】による衝撃波の斬撃!
「執事ですからね。主人を死なせれば、格好がつきません」と不敵に笑うアレンに、うわべだけの社交界に退屈していたクリスティア王女が「本物の武」を見出して激しく心を射抜かれる描写、書いていて最高に熱かったです。お姫様、ついに本当の化け物の味を知ってしまいましたね……!
罠を仕掛けた黒ローブの思惑を嘲笑うかのように、ここからアレンの「御用改め」と、ルシアンの「天才的な戦術」による過酷な反撃が始まります。
狂瀾の森を支配するのは陰謀か、それとも牙を剥いた狼か!?次からの大無双、どうぞお楽しみに!
【作者からのお願い】
「上着を脱ぎ捨てて指揮を執るアレンが鬼格好いい!」「レナードの安定の撃沈に笑った」「アレンの登場シーンで鳥肌が立った!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いします!
皆様のブックマークと評価(★5)が、アレン(土方)が主君ルシアンと共に、森に蠢く魔物と黒ローブの陰謀を根こそぎ斬り伏せる最強の斬撃になります!
なろう読者様:下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて、白シャツ姿の副長へ熱い突撃のエールを!
カクヨム読者様:【★で称える】ボタンや【フォロー】のワンタップをぜひお願いいたします!




