第50話:完璧な執事のお片付け
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おかげさまで、ついに第50話を迎えることができました!
ルシアン様の縄張りを汚し、自分を慕う平民の少年を痛めつける貴族のゴミ虫ども。
宿舎の二階から音もなく舞い降りた「完璧な執事」アレンによる、容赦なき深夜のお片付け(御用改め)が今、幕を開けます。
魔法をただの体さばきで回避し、笑顔のまま骨をきしませる鬼の副長の圧倒的な実戦スキルをお楽しみください!
激闘(?)の裏で、学園に蔓延る陰湿な身分格差を知ったアレン。
その脳裏に、間もなくこの学園にやってくる大切な幼馴染・リナの姿が浮かび――。
鬼の副長が、身内のために学園の闇を睨みつけます!
「おいおい、なんだよその目は。平民の特待生の分際で、僕たちに逆らうつもりか?」
薄暗い中庭。 数人のエリート貴族の学生たちが、地べたに組み伏せられた少年を見下ろし、下品な笑い声を上げていた。
少年の制服は泥に汚れ、教科書は無惨に破り捨てられている。 貴族たちが指先から放つ退屈しのぎの火花が、少年の頬をかすめてパチパチと弾けた。
「……くっ……! お前たち、こんなことをして許されると──」
「生意気なんだよ。ほら、もっと這いつくばって許しを請えよ──」
貴族の一人が、さらに魔法を放とうと手を掲げた、その時だった。
ふわり、と夜の闇が揺れた。
頭上──寮の二階、ルシアンの部屋の窓から、一つの影が音もなく中庭へと飛び降りてきたのだ。 かなりの高さがあるはずの着地は、羽毛が落ちるかのように完全な無音。立ち上がると同時に、一分の隙もない美しい所作で燕尾服の裾を整え、その男は静かに声をかけた。
「夜分遅くに失礼いたします、皆様」
「ひっ……!?」
唐突に背後に現れた影に、貴族たちが驚愕して振り返る。 そこに立っていたのは、月光を背に浴びて完璧な微笑みを浮かべる、グランヴェル公爵家の執事──アレンだった。
アレンは泥にまみれた少年を一瞥し、それから貴族たちに向けて、いつも通りの優雅な一礼をして見せた。
「当学園の宿舎敷地内において、夜間に大声を出すこと、および他者の私物を損壊する行為は、明確な規律違反に該当いたします。よろしければ、その汚らしいお遊びを今すぐお止めいただき、速やかに自室へお引き取りいただけますか?」
言葉遣いこそ丁寧だが、その黒い瞳には、一切の感情が通っていない。
「なんだと……!? ただの公爵家の犬が、僕たちに指図するな!」 「そうだ、平民の分際で生意気な! おい、そいつも一緒に教育してやれ!」
特権意識に染まりきった貴族の少年たちが、一斉にアレンへと手のひらを向けた。
「『炎の弾丸』!」
放たれたのは、直撃すれば骨が折れる初級の攻撃魔法。 赤い光の弾が、真っ直ぐにアレンの顔面へと迫る。
だが──。
「──遅いな」
アレンの身体が、ブレた。 魔法を使わない、純粋な天然理心流の体さばき。 ただ首を数センチ横に傾けただけで、炎の弾丸はアレンの長い黒髪を掠めることすらできず、背後の空間へと虚しく消え去った。
「なっ……魔法を避けた……!?」
貴族たちが目を見開いた瞬間には、すでにアレンの姿はその場から消えていた。
「ガ、はっ……!?」
一人の貴族が、悲鳴を上げる暇すらなく崩れ落ちた。 アレンが一瞬で間合いを詰め、相手の顎の先端へ、手のひらの付け根を下から叩き込んだのだ。脳を揺らされた男は、白目を剥いて地面に転がった。
「な、何を──」
「規律違反ですよ、と言ったはずです」
残る二人が慌てて距離を取ろうとするが、前世で数多の修羅場を駆け抜けた『鬼の副長』の間合いから逃れられるはずもない。
アレンは流れるような動作で二人の腕を掴むと、完璧な執事の笑みを浮かべたまま、関節の可動域を完全に無視した方向へと捻りあげた。
ミチミチミチ、と肉と骨が悲鳴を上げる。
「ぎゃああああああああっ!?」 「腕が、腕があああああっ!?」
夜の中庭に、無惨な絶叫が響き渡る。 アレンは骨が外れる寸前でピタッと力を止め、冷え切った極上の微笑みで、のたうち回る貴族たちを見下ろした。
新選組の身内意識──それは、一度身内と認めた者を、何が何でも守り抜くという強烈な執着。 アレンにとって、ここは主君ルシアンの縄張りであり、この泥まみれの少年は、昼間に自分へ純粋な敬意を向けてくれた『身内』だった。 それを、こんな有象無象の犬どもに汚された事実が、土方歳三の逆鱗に触れていた。
アレンは腕を極めたまま、これ以上ないほど丁寧な、だが背筋が凍りつくほど穏やかな声で告げた。
「これ以上お騒ぎになるようでしたら、その汚らしいお舌ごと、根元から引き抜かせていただきますが……よろしいですか? 分かりましたら、さっさと失せやがれ」
最後の最後、一瞬だけ剥き出しになった本物の『人斬り』の殺気。
「ひ、ひいっ……あ、あああ……!」
その瞬間、貴族の少年たちは理解した。 目の前にいるのは、洗練された執事などではない。 本物の戦場で、何百人もの命を紙切れのように刈り取ってきた化け物だ。あまりの恐怖に、彼らの顔からは血の気が引き、ガタガタと歯の根が合わずに震えだす。
アレンがスッと手を離した瞬間、彼らは折れた腕を抱え、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、一目散に逃げ出していった。
中庭に、静寂が戻る。
「……大丈夫か?」
アレンは一瞬で元の『優しい執事』の顔に戻ると、地面に座り込んでいた少年の前に跪き、そっと手を差し伸べた。
「あ、あの……は、はい……!」
少年は呆然としながら、アレンの白手袋の手を握った。 二階から音もなく舞い降り、魔法を一切使わずに圧倒的な強さで貴族たちを蹴散らしたその姿は、少年の目に、昼間以上に眩しく、そして神聖なものとして焼き付いていた。
「教科書が汚れてしまったな。明日、私の方から新しい物を用意しておこう。今日はもう遅い、部屋に戻って温かいお茶でも飲みなさい」
アレンは少年の頭を優しく撫でると、散らばった荷物をスマートに拾い集めて手渡した。少年は何度も頭を下げながら、憧れの眼差しをアレンに向けたまま、寮へと走っていく。
それを見送ったアレンは、ふぅ、と小さく息を吐き、白手袋についたわずかな砂を払った。
不敵な笑みを浮かべ、アレンは膝のバネを使うと、音もなく上空へと跳躍した。 人間離れした圧倒的な脚力。影のように夜の闇を突き抜け、先ほど飛び降りた二階の窓へと、何事もなかったかのように着地する。
「ただいま」
部屋に戻り、すっといつものように肩の力を抜くアレン。 だが、窓辺でその一連の動きを最初から見ていたルシアンは、引きつった笑みを浮かべながらアレンを見つめていた。
「……お帰り、アレン。あのさ、一応確認なんだけど……ここ、二階だよね?」
「ああ。二階だけど、何が可笑しいんだ?」
「何が、じゃないよ。普通、二階の窓から地面まで跳び降りて、またジャンプして戻ってこられないからね? 君、本当に魔法を使ってないの?」
呆れを通り越して感心するルシアンに、アレンは不敵に口元を吊り上げた。
「これくらい、血の滲むような修練を積めば誰でも身に付く」
「絶対に身に付かないよ!」
ルシアンの至極真っ当なツッコミをフッと笑い飛ばし、アレンはスッとトーンを落として本格的に相棒の顔に戻った。
「それより、ルシアン。やっぱり、この学園でもあんな身分格差ってやつがあるのか? 昼間の講義の話じゃないが、ずいぶんと腐った犬どもがのさばってるようだけどな」
アレンの言葉に、ルシアンは少し寂しげに息を吐き、手元のティーカップを見つめた。
「……そうだね。学園は国の縮図だからね。特に貴族の多くは、平民を見見下すのが当然だと思っているような、頭のお堅い人が多いんだ。だからさっきの彼らみたいに、特待生の平民を狙っていじめるようなことは、残念だけど珍しくないんだよ」
ルシアンの言葉を聞いた瞬間、アレンの脳裏に、ある一人の少女の顔が鮮明に浮かび上がった。
──リナだ。
自分の願いによって、この最高峰の学園に通うことになった幼馴染。 彼女はアレンの隣に立つために、ずたぼろの手のひらで、泥をすするような努力をして魔法を学んできた。だが、彼女がどれだけ実戦特化の技術を身につけていようとも、立場はアレンと同じ「平民出身」なのだ。
(お堅い貴族どもが平民を狙う、ねえ……。おいおい、冗談じゃねえぞ)
アレンは無意識に、燕尾服の懐にある『兼定』の柄へと手を伸ばした。 その下げ緒には、リナがボロボロの手で限界まで魔力を込めて作ってくれた、不器用な手作りのお守りが今も結ばれている。一度身内と決めた者は、地の果てまで追いかけてでも守る。それが新選組副長・土方歳三の生き方だ。
「ルシアン。悪いが、ちょっと様子を見ておきたい奴がいる。念のため、リナが今どうなっているのか、学園での状況を確かめてくるわ」
「リナさんを? うん、確かに彼女も平民クラスの寮だから、心配だよね。気をつけてね、アレン」
アレンは小さく頷くと、再び完璧な執事の微笑みを顔に貼り付け、夜の闇へと滑り出すように部屋を後にした。 リナに害をなす害虫がもしいるのなら、根こそぎ踏み潰してやる──鬼の副長の瞳に、静かな怒りの炎が灯っていた。
第50話をご覧いただき、ありがとうございました!おかげさまで50話の大節目です!
待ちに待ったお遊び贵族どもへの「お片付け」、最高にスカッとしましたね!
魔法を首筋一枚でかわし、天然理心流の踏み込みでアゴを一撃。のたうち回る貴族どもに極上の執事スマイルで「さっさと失せやがれ」と言い放つアレン、格好良すぎて書いていて鳥肌が立ちました。
からの、二階の窓に垂直ジャンプで戻ってきたアレンに対する、ルシアン様の「絶対に身に付かないよ!」のツッコミが最高に大好きです(笑)。ルシアン様、君の感覚は1ミリも間違っていません。
ですが、ラストは一転して熱い新選組の「身内意識」が炸裂しました。
学園の平民差別の実態を聞き、真っ先に故郷で泥をすすりながら努力を続けてきたリナを心配するアレン。懐の「不器用な手作りお守り」に触れながら、「リナに害をなす害虫がいるなら、根こそぎ踏み潰してやる」と夜の闇へ滑り出す姿は、まさに新選組を裏から支え、身内のためなら鬼にでもなった土方歳三そのものです。
早くもリナのクラスの様子を見に動いたアレンですが、果たして学園の平民クラスでは一体何が起きているのか。そしてリナの運命は!?
50話を越え、ますます加速する【魔法学園編】、どうぞお楽しみに!
【作者からのお願い】
「50話到達おめでとう!」「笑顔で貴族をボコるアレンが最高すぎた!」「リナを真っ先に守ろうとする土方魂に痺れた!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いします!
皆様の評価(★5)とブックマークが、アレン(土方)がリナの前に立ちはだかる学園の壁をまとめて一刀両断する最強のバフになります!
なろう読者様:下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めて、最高の記念エールを!
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