第49話:異世界の学問、不穏の足音
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第49話をお届けします。
ルシアンと二人きりの自室で、しばし「執事の仮面」を緩めるアレン。
前世が独学だった男にとって、机を並べて学ぶ「学生」という存在は未知の領域。ルシアンから学園のシステム、そしてこの世界に「剣術の授業がない」ことを聞いたアレンは、牙を隠しながら不敵に確信を深めます。
しかし、そんな二人の密談を切り裂くように、中庭から不穏な怒号が響き渡り――。
標的になったのは、昼間にアレンへ無邪気な憧れを向けてくれた平民の少年。
主君の縄張りを汚し、身内を痛めつける身の程知らずの貴族どもに、笑顔を貼り付けた鬼の副長が静かにブチ切れます。
完璧な執事による、容赦なき「害虫駆除」の前哨戦をお楽しみください!
学園の広大な敷地内に佇む、グランヴェル公爵家の学生専用の最高級寮。
その一室で、完璧な手際でルシアンの上着を預かり、淹れ立ての紅茶を差し出したアレンは、周囲に誰もいないことを確認すると、スッといつもの「執事の仮面」を緩めた。
「ルシアン。一つ、興味本位で聞いていいか」
「ん? なにだい、アレン。改まって」
紅茶の香りを楽しみながら、ルシアンが嬉そうに微笑む。
表舞台では完璧な主従。だが、こうして二人きりになった瞬間、対等な「相棒」としての素の顔に戻る。この演じ分けと、自分にだけ見せる信頼の証が、ルシアンには心地よかった。
「この学園の生活ってのは、一体どういう仕組みになってるんだ? 恥ずかしながら、俺はしがない平民の出だからな。こうした『学園』っていうご大層な場所に通う奴らが、毎日何をしてるのかさっぱり分からねえんだよ」
アレン──その中身である土方歳三は、前世においてほとんどが独学だった。 机を並べて他者と学ぶ「学生」という生き方自体が、彼にとっては未知の領域だったのである。
ルシアンは一瞬、その平民らしからぬ圧倒的な風格に「本当に平民なのかな」と内心で圧倒されつつも、楽しそうに笑って頷いた。そして、自身の知る学園のシステムを細かく説明し始めた。
「基本的にはね、魔法の『実技』と『講義』の二つで構成されているんだ。進級や卒業のための試験も、その二科目の成績で決まる。ただ、講義に関してはすべてが必須というわけじゃなくて、選択科目になっているんだよ」
「選択、ねえ」
「そう。自分の得意な属性や、興味のある分野を複数選んで受ける人もいれば、一つの単独科目だけに絞って、徹底的にその知識を深める人もいるんだ」
その説明を聞き、アレンは顎に手を当てて鋭い指摘を口にする。
「……そうなると、単独科目だけしか受けない奴は、時間が余るんじゃねえか?」
「さすがアレン、察しが良いね。余った時間はね、教授の個人の研究を手伝ったり、図書室に籠もったり……まぁ、中にはそのままサボって街に遊びに行くような人もいるよ。それに、生徒のほとんどが貴族の出身だから、魔法以外にも『礼儀作法』や『貴族論』なんかを授業として受ける人も多いんだ」
ルシアンの言葉を反芻し、アレンは内心でフッと冷ややかな息を吐いた。
(なるほどな。分野が広く浅いってわけだ。死ぬか生きるかの戦の手前で、ご大層な作法だの講義だのに現抜かしてやがる)
前世の戦場を知るアレンからすれば、実戦に直結しない学問の多さは、いささか生ぬく感じられた。 ルシアンは苦笑しながらこう続けた。
「ちなみに僕は、複数の分野を幅広く受けるようにしているよ。公爵家の跡取りとして、知っておかなきゃいけないことが多いからね。……そしてね、アレン。剣術や槍術といった『武器科目』は、この国のどこの学園にも一つもないんだ」
「剣術がない?」
アレンの黒い瞳が、わずかに細められた。 この異世界において、力とはすなわち魔法。剣を持つ者など野蛮なゴロツキ程度と見做されているのだ。
だが、ルシアンはそこで真剣な目をアレンに向け、しみじみと言葉を紡いだ。
「そう。だからこそ……僕は不思議で仕方がないんだよ。アレン、君のあの凄まじい剣技を見ていると、なぜ学園にそんな素晴らしい技術を教える科目が存在しないのかってね。あんな芸術的な技、並の魔法じゃ絶対に防げないのに」
「……フッ、そいつは買い被りだ、ルシアン」
アレンは不敵に笑ってみせたが、内心では確信をさらに深めていた。
(剣術がない、ねえ……。好都合だ。誰も刀の怖さを知らねえなら、これほど通りやすい刃はねえからな)
彼らが軽視する「武術」こそが、魔法という絶対の常識を覆す最強の牙になる。主君がこれほど己の実力を認めてくれているのだ、その信頼に背くわけにはいかない。
そんな大人の密談を交わしていた、まさにその時だった。
──ガタガタガタッ!!
突由、寮の窓の外、中庭の方から、ただ事ではない騒がしい怒号と、何かが壊れるような音が響き渡った。
「なんだ……!? 外が騒がしいね」
ルシアンが窓の外へと視線を向ける。 アレンは一瞬で相棒の緩さを消し、新選組副長としての冷酷な気配を纏って、音もなく窓辺へと歩み寄った。
薄暗くなり始めた中庭。そこでは、数人のエリート貴族の学生たちが、一人の平民出身の特待生を囲んでいた。 ──それは昼間、アレンの隙のない立ち振る舞いを見て、「格好いい執事さんですね!」と無邪気に憧れの目を向けてきた、見覚えのある少年だった。
少年は地面に組み伏せられ、貴族たちが魔法をパチパチと見せびらかしながら、ニヤニヤとあざ笑っている。
(……チッ。暗殺者の襲撃かと思えば、ただのくだらねえ『いじめ』かよ)
それは、特権階級の意識に染まりきった貴族どもが、お遊びで行う陰湿な嫌がらせだった。
だが、アレンの目は笑っていなかった。 ここはルシアンが静かに過ごすべき高貴な寮であり、自分の主君の縄張りだ。そこで身の程知らずの犬どもが騒ぎを起こしている事実、そして何より、自分に敬意を払った身内(少年)が痛めつけられている事実が、無性に腹立たしかった。
「ルシアン。……ちょっと、外の『害虫』を踏み潰してくる」
アレンは再び完璧な執事の微笑みを顔に貼り付けると、懐の兼定の柄の感触を確かめながら、音もなく部屋を出て行った。
第49話をご覧いただき、ありがとうございました!
前半のルシアン様との二人きりのトーク、めちゃくちゃエモかったですね!
周囲に誰もいない時だけ対等な相棒の距離感に戻る二人、この信頼関係の深さは見ていて本当に心地よいです。
そして、「剣術の授業なんてない」というこの世界の魔法至上主義の盲点を聞いたアレンの**「誰も刀の怖さを知らねえなら、これほど通りやすい刃はねえからな」**という独白……!これぞ実戦の修羅場を生き抜いた土方歳三のリアリズム。温室育ちの魔法使いどもを、ただのゴロツキと侮られている「武術」で文字通り一刀両断する未来が見えて、書いていて脳汁が止まりませんでした。
ですが、後半は一転して胸糞悪い貴族どものいじめ現場へ。
アレンの執事姿をピュアに褒めてくれた少年を、数人がかりで囲んで魔法を見せびらかすエリート(笑)貴族たち。
「主君の縄張りである寮を騒がされたこと」、そして「自分を慕ってくれた身内が傷つけられたこと」──新選組副長として、これらを絶対に見過ごすはずがありません。
「ちょっと、外の『害虫』を踏み潰してくる」
極上の執事スマイルの裏で、完全に目が据わっているアレン。次話、このナメ腐ったお遊び貴族たちが一体どんな地獄を見るのか、スカッとする準備をしてお待ちください!
【作者からのお願い】
「アレンとルシアンの二人の空気感が最高!」「剣術をナメている世界でアレンがどう無双していくのかワクワクする!」「次話で貴族どもがボコボコにされるのが待ちきれない!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いします!
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