第46話:託される背中、届いた切符
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第46話をお届けします。
ついに動き出す【聖アイビス国立魔法学園】への潜入任務。
公的な武装組織が動けない治外法権の学び舎へ向かうため、アレンは信頼する一番隊隊長シオンに「局長代行」の全権を託します。
旅立ちを前にした特務隊の熱い絆、そしてアレンの腕に収まる小さな相棒「アルク」を巡るツンデレな猫耳ミアの嫉妬(?)にもご注目ください。
一方、アレンの故郷の村には、ガラルド公爵の権力で毟り取った最高級の「入学許可証」が届き……?
鬼の副長が仕掛けた不骨なサプライズに、恋する幼馴染が大爆発します!
領都の一角にある、特務隊の屯所。 審問会を乗り越え、名実ともに領主公爵お抱えの精鋭部隊となった彼らの拠点は、活気と、そしてどこか寂寥感の混ざった空気に包まれたいた。
「――というわけだ。近々、俺はルシアン様の影として『聖アイビス国立魔法学園』へ潜入する。期間は、学園内に渦巻く五家連合の不穏な動きを完全に叩き潰すまでだ」
アレンの言葉に、円卓を囲んだ特務隊の幹部たちは静まり返った。 学園――それは、基礎から応用、さらには高度な軍事魔法に至るまで、すべての魔法の知識が詰め込まれた王国最高峰の学び舎。それゆえに治外法権であり、公的な武装組織である特務隊は立ち入ることができない。
「局長が、学園に……。じゃあ、その間の特務隊の指揮は……」
不安そうに眉を寄せる一番隊隊長シオンに、アレンは不敵に笑ってみせた。
「シオン。お前にこの屯所と、特務隊の全権を預ける。俺が不在の間、お前が『局長代行』だ」
「えっ、ボクが……代行!?」
驚愕するシオンの肩を、アレンは強く掴んだ。
「お前はもう、ただのスラムのゴロツキじゃねえ。先の審問会でも見事に隊士たちを統率してみせた。お前なら、俺の留守中もこの街の裏を完全に仕切れるはずだ。……隊士たちの命、あるいは俺たちの居場所を、頼んだぞ」
アレンの黒い瞳に宿る絶対的な信頼。それを真っ正面から受け止め、シオンはぐっと奥歯を噛み締め、いつものおっとりしたタレ目を引き締めた。
「……うん、わかった! 局長の席は、誰にも触らせずに綺麗に空けて待ってる。ここはボクたちが死守するから。だからアレンは……安心して貴族の坊ちゃんどもをドブに叩き落としてきてよ!」
「ああ、任せとけ」
「へへっ、局長がいない間、規律を乱すヤクザ者がいたらこの俺が盾で生きたままブチのめしてやりますよ!」
二番隊隊長のボルドは獰猛に胸を叩いて、意気揚々と答えた。
アレンの隣にいた一番隊隊士のレイヴンは、腕を組み、冷徹な口調で告げる。
「フン……。学園などという温室、アレンの敵ではない。だが、万が一にもアレンの衣服を汚す者がいれば、僕が遮蔽物越しにその心臓を黒炎で焼き尽くすまでだ」
クールに気取っているレイヴンだが、アレンに「お前も留守を頼むぞ」と頭をぽんと叩かれた瞬間、その長い両耳が「ピコピコピコッ!」と激しく小刻みに揺れ動いた。
そんな熱い誓いを交わす一同の足元で、不意に「きゅ〜ん」と可愛らしい鳴き声が響いた。 見ると、アレンのブーツの紐を甘噛みしている、小さな黒い子犬のような生き物がいた。
「クゥ」
「おいおい、アルク。今は大事な話の最中だろ」
アレンが苦笑しながら抱き上げると、その生き物は嬉しさのあまりアレンの胸に顔を埋めた。 かつて故郷の村を襲った魔獣『黒角狼』の生き残り――アルクだ。アレンが主従の契約(名付け)を交わして密かに育てていた。
学園はすべての魔法の知識が集まる場所ゆえ、「従魔」の持ち込みも公式に許可されている。アレンはこのアルクを連れて行くことに決めていたが、本来の姿だと大騒ぎになるため、魔力を偽装し、表向きは「ただの従順で可愛いペットの黒犬」として登録を済ませてある。
「ふん、しつけの成っていない駄犬よ。学園で粗相しなきゃいいけど」
監察方の猫耳少女・ミアが、ツンとそっぽを向いて不機嫌そうに呟く。すると、その隣にいた監察方副隊長のニナがニヤリと笑ってミアの肩を小突いた。
「あーあ、素正じゃないねぇ。本当は自分もアレンと一緒に学園に行けないのが寂しいんだろ? その駄犬だけはずっとアレンの側にいられるのが羨ましいクセにさ」
「ば、バカ言わないでよニナ! 誰がそんな、お上の犬の学校なんて行きたいって言ったのよ! 一緒に行けないのが寂しいなんて、これっぽっちも思ってないんだから!」
真っ赤になってキバを剥くミアを横目に、アレンはアルクの頭を優しく撫でながら、ふと遠い目をして、この世界には存在しない「前世の言葉」を呟いた。
「馬鹿言え。こいつは俺の『歩』だからな。普段は地味にトコトコ歩くだけだが……いざって時に、一歩一歩進んで、誰も無視できねえ『金』に成ってもらわにゃならねえんだよ」
アレンのその言葉に、円卓の全員がフリーズした。
「……は? フ?」 「一歩進むと、キンになる……?」 「修業かなにかですか、局長?」
シオンもボルドもミアも、一斉に「フってなんだ……?」と首を傾げて困惑している。 異世界の住人には伝わらない前世の記憶。アレンは一人、どこか満足げに笑うと、アルクを鞄へと仕舞い込んだ。
ところ変わって、アレンの故郷である開拓村。 領主の使者がもたらした一枚の「書状」を手に、幼馴染のリナは、自宅の居間で完全に硬直していた。
それは、白銀の縁取りがなされた、最高級の羊皮紙。 【聖アイビス国立魔法学園・特待生入学許可証 リナ殿】
「え……えええええええええっ!?」
村中に響き渡るような大絶叫が炸裂した。
「な、なんで!? なんで平民の私が、あの超エリートしか行けない魔法学園に!? 意味がわからない、詐欺!? 夢!? 幻覚!?」
パニックになり、許可証をぶんぶんと振り回すリナに、使者から手渡されたもう一枚の「手紙」が目に入った。不骨で、どこか見覚えのある、力強い文字。アレンからの手紙だった。
『リナへ。ガラルド様に掛け合って、お前の入学枠を毟り取ってやった。実戦特化のお前の魔法なら、あの温室の学園でも十分に通用する。俺もルシアン様の召使い(影)として学園にいる。追いつく覚悟があるなら、中央の舞台へ来い』
手紙を読んだリナは、一瞬だけ涙を引っ込めて文字を凝視した。
「……って、アレンがルシアン様の『召使い』!? ぷっ、あのかっこつけた鬼局長が、お上品な制服着てお給仕でもするのかな。ちょっと見たいかも……」
くすくすと笑いながらも、再び手紙に目を落とす。読み進めるうちに、リナの大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出した。
「アレン……っ。私のために、そんな凄いこと……」
あの魔獣襲撃の夜。アレンの背中を見送りながら、「泥をすすってでも、あんたの隣に立てるくらい強くなってやる」と誓った。アレンは、その誓いを鼻で笑うどころか、本当に自分を同じ舞台へと引き上げるための「切符」を、その強引な手で掴み取って送ってくれたのだ。
愛しさと、嬉しさ、そして新選組副長直伝の熱い闘志が、リナの胸の中で大爆発した。
「――よぉし! 待っててよアレン!!」
リナは涙を袖でガシガシと拭うと、杖をひっ掴んで裏庭へと飛び出した。 嬉しさのあまり魔力が暴走しかけ、裏庭の木々がパチパチと紫電を帯びる。
「学園に行ったら、今度こそあんたの隣をキープするんだから! あの金髪縦ロールの公爵令嬢にも絶対負けない! 死ぬ気で、死ぬ気で特訓して、初日からあんたを驚かせてやるんだからーーーっ!!」
「キィヤアアアアン!」と轟音を立てて放たれたリナの応用雷魔法が、裏庭の岩を派手に粉砕した。 恋する乙女の凄まじい執念と爆発的な魔力が、静かな村の空を焦がしていく。
――託された背中を守る者、あるいは、掴み取った切符を胸に、愛する男の隣へと走る者。 それぞれの決意を乗せて、運命の歯車はついに、すべての魔法の知識が詰め込まれた【聖アイビス国立魔法学園】へと動き出す。
第46話をご覧いただき、ありがとうございました!
いよいよ新章【魔法学園編】に向けて、それぞれの決意が固まりましたね!
前半の特務隊パートでは、シオンたちが局長の留守を守るために一丸となる姿にジーンときた……と思いきや、アレンが放った**「こいつは俺の『歩』だからな。一歩一歩進んで『金』に成ってもらわにゃならねえ」**という前世の将棋トークで全員がフリーズするシーン、書いていて本当に楽しかったです(笑)。スラム出身の幹部たちからすれば「ふ……?きん……?修行の隠語か……?」ってなりますよね。
そして後半は、我らがヒロイン・リナの独壇場でした!
アレンが毟り取ってきた切符を手にパニックになり、アレンの「召使い(制服姿)」を想像してニヤつき、そこからアレンの深い情に気づいて大号泣……。
「今度こそあんたの隣をキープする!」「金髪縦ロールにも絶対負けない!」と、嬉しさと対抗心で裏庭の巨岩を紫電で粉砕するあたり、さすがアレン直伝のハングリー精神です。
局長代行としてスラムの裏を完全に仕切る決意をしたシオンたち特務隊。
牙を隠したルシアンの秘書(召使い)として学園の闇を狩るアレンと、その相棒(歩)として愛らしく潜入するアルク。
そして、初日からアレンを驚かせるために死ぬ気で特訓を始めたリナ。
全てのピースが揃い、舞台はいよいよ王国最高峰の学び舎へ!
恋と裏稼業の修羅場が渦巻く学園編、どうぞお楽しみに!
【作者からのお願い】
「アレンの将棋トークに置いてけぼりにされる幹部たちが最高!」「リナの泣き笑いからの岩粉砕が可愛すぎる!」「ついに始まる学園編が楽しみ!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いします!
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