第41話:冷徹なるチェス盤
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第41話をお届けします。
前話、特務隊が圧倒的な力でスラムの初陣を飾ったその裏で、ついに北方の大国バルディア帝国の「本物の怪物」が動き出します。
帝国陸軍少将、クラウス。
特務隊の武勇を冷徹に数値化し、「ただの前時代の遺物」と吐き捨てる男が、王国内部の嫉妬や政治をも利用してアレンたちをジワジワと孤立無援に追い詰めていきます。
近代戦の冷徹なシステム、そして彼が操る不気味な固有魔法。
特務隊の前に立ちはだかる、過去最大の敵の登場をぜひ目撃してください。
アイビス王国との国境付近に位置する、バルディア帝国軍・前線拠点。 重厚な石造りの作戦室には、鉄と硝煙、そして独特な甘苦さを孕んだ「葉巻の紫煙」が低く立ち込めていた。
部屋の壁際では、数人の黒鉄衆の構成員たちが、冷や汗を流しながら直立不動で凍りついている。
彼らの視線の先、大きな執務机に腰掛け、優雅に葉巻を燻らせている男がいた。 隙なく整えられた漆黒の軍服。一切の感情を排した冷徹な灰色の瞳。彼こそがバルディア帝国陸軍少将にして、非公式特殊部隊『黒鉄衆』の最高指揮官――クラウス・フォン・バルツァーである。
クラウスは、机の上に広げられた「スラム潜入班(先遣隊)全滅」の報告書を、淡々と指先でめくっていた。
「……以上が、王国スラム街からの報告です。我が精鋭である先遣隊が、平民上がりの治安維持組織――『特務隊』を名乗る連中に、ものの数分で完膚なきまでに叩き潰されました。指揮官を含め、生存者は皆無です」
報告を行う部下の声は微かに震えていた。 作戦の失敗。近代兵器である魔導銃を持たせた部隊の喪失。本来ならば、軍の指揮官が激怒し、机を叩き割ってもおかしくない大失態である。
しかし、クラウスは眉一つ動かさなかった。 ただ、咥えた葉巻からゆっくりと紫煙を吐き出し、灰皿の縁で灰を落とす。カチ、カチ、と部屋に響く時計の音が、彼の冷酷な思考速度を刻むメトロノームのようだった。
「慌てるな。声を荒らげるのは、無能が己の計算違いをごまかす時の悪癖だ」
クラウスの声は、凍りつくように静かだった。
「第3班の12名が全滅か。……だが、彼らが命と引き換えに持ち帰った通信魔導具の記録のおかげで、敵の戦闘データが完全に数値化できた。12名の命という『コスト』でこれだけの情報が買えたのなら、むしろ安い買い物だ」
クラウスは万年筆を執り、白紙の手帳に淡々と数字と文字を書き込んでいく。
「まずは一番隊隊長、シオン。……初速、および踏み込みの速度は、我が軍の装甲兵の反応速度を遥かに凌駕している。技名は『天然理心流・瞬界・二段突き』。個人の武勇としては一級品だな」 「は、はい。二階の狙撃兵も、遮蔽物を完璧に計算したエルフの黒炎の魔矢によって一瞬で灰にされたとのことです」
「二番隊の盾、そしてエルフの狙撃手……。だが、最も注目すべきは、それらを統べる特務隊局長――アレンだな」
クラウスの灰色の瞳が、報告書に添付されたアレンの不鮮明な人相書きへと向けられた。
「彼が展開する絶対迎撃の間合い『方円の檻』。そして、我が指揮官を一撃で鉄壁ごと粉砕した『絶空・平突き』。……驚くべきは、そのすべてに魔力の収束がほとんど見られない点だ。魔法理論ではなく、純粋な『武の極み』と空間の超圧縮だけで、近代兵器の火力を凌駕してみせた」
「ば、化け物です……! 騎士道精神を掲げる王国の騎士団ならいざ知らず、あんな泥臭い実戦の天才どもが平民の中に隠れていようとは……」
部下の言葉に、クラウスは心底つまらなそうに、フッと冷たい笑みを漏らした。
「化け物? 滑稽な。ただの前時代の遺物だ」
クラウスは葉巻を灰皿に置くと、自身の愛用する最新型の魔導小銃を引き寄せ、その冷たい鉄の感触を確かめるように撫でた。
「絆、忠義、誠……。そんな数値化もできない不確定要素に命を預け、個の武勇に頼っているから、古い時代は滅びるのだ。どれほど剣を極めようが、頭数を揃え、引き金を引けば肉体は千切れ飛ぶ。戦場とは、徹底的に効率化された『システム』が勝つ場所だ。我が黒鉄衆の銃弾が、彼らの精神論ごと撃ち抜いてやる」
クラウスがカチリ、と魔導小銃のボルトを引く。最大装填数は10発。 10発を撃ち尽くせばリロードという明確な「隙」が生じる兵器。だが、クラウスにとってその隙すら、敵を誘い込んで絶望させるための完璧な計算の一部に過ぎなかった。
「少将。特務隊を即座に圧殺するため、本隊を動かしますか?」
部下の問いに、クラウスは灰色の目を細め、静かに立ち上がった。
「いや、兵力を直接動かすのは脳のない猪のやることだ。まずは、王国内部の『不確定要素』を利用する。アイビス王国の保守派貴族どもは、平民が武装して手柄を立てる特務隊の存在を、何よりも不愉快に思っているはずだ」
クラウスは机の上のチェス盤に目を落とし、白のナイトの駒を、黒のポーン(歩兵)で挟み込むように動かした。
「王国貴族たちに密書を送れ。『特務隊が我が国の商人を虐殺した。アレンの首を差し出さねば、国境の緊張は解かない』とな。お上が預かり知らぬ場所で勝手に動く特務隊だ。王国貴族どもは、喜んで身内の足を引っ張り、孤立させようとするだろう」
政治、外交、王国内部の嫉妬。 あらゆる人間の醜悪な感情すらも、クラウスにとっては戦盤を有利に進めるための「歯車」に過ぎない。
「それでもなお、我がシステムに牙を剥こうとするならば――」
クラウスが静かに手をかざすと、作戦室の床に広がるドス黒い影が、不気味にぐにゃりと歪んだ。 影の底から、かつてクラウスが自らの手で屠り、魂ごと支配した巨大な魔物の死霊たちが、音もなく、しかし圧倒的な殺気を孕んで這い上がってくる。
怨嗟の声を上げることすら許されず、ただの防壁、ただの肉の弾丸として、クラウスに絶対服従する死せる魔物の軍勢。
「――見せてやろう。我が固有魔法、敵を使い潰す『 屍山血河の兵器廠』の真価を」
召喚された魔物の肉壁の向こう側で、クラウスは再び優雅に葉巻を咥え、マッチの火を灯した。 ゆらりと燃える炎が、彼の冷酷極まりない横顔を照らし出す。
特務隊が初陣の勝利に沸くその裏で。 新選組がかつて幕末の戦場で直面した、圧倒的な物量と冷徹な近代戦のシステム――その巨大な壁が、異世界の地で、確実に彼らを呑み込もうと動き始めていた。
第41話をご覧いただき、ありがとうございました!
ついに姿を現した帝国の最高指揮官**【クラウス・フォン・バルツァー少将】**、いかがでしたでしょうか!
精神論や個の武勇を一切信じず、戦場を「徹底的に効率化されたシステム」と捉える冷酷なリアリスト。アレンの『絶空・平突き』やシオンの『二段突き』の戦闘データを一瞬で分析し、さらに王国の悪徳貴族たちを動かしてアレンの首を合法的に狙いに来るという、政治的にも武力的にも隙のない恐ろしい男です。
最新型の魔導小銃を手に、固有魔法**『屍山血河の兵器廠』**で死せる魔物を兵器として従える姿は、書いていて圧倒的な絶望感がありました。
かつて幕末の戦場で、圧倒的な近代兵器と物量の前に苦肉の策を強いられていった新選組。
その因縁とも言える「巨大な近代の壁」が、この異世界で再びアレン(土方)の前に立ちはだかります。数値化できない『誠』の炎は、帝国の冷徹な『システム』を打ち破ることができるのか――。ここから物語はさらに大きな激動のうねりへと突入していきます!
【作者からのお願い】
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孤立無援の危機が迫る特務隊。アレンの次なる一手をお楽しみに!




