第40話:影の法と、黒炎の初陣
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記念すべき第40話をお届けします。
スラムの警備権を得た特務隊の前に現れたのは、帝国の最精鋭工作員『黒鉄衆』。
「我が特務隊が管轄する街でコソコソ動く不審者は、ただの犯罪組織だ」
アレンの不敵な号令とともに、特務隊が総出で夜の廃工場へと御用改めに乗り出します!
ボルドのタワーシールド、シオンの神速の魔剣、そして新入りレイヴンの『黒炎』が初陣の戦場を震撼させる――。
組織として、そして主従として完璧に噛み合った特務隊の圧倒的な武力をぜひご覧ください!
特務隊屯所の奥、局長執務室。 アレンは和泉守兼定をハバキの手前まで抜き、刃文の狂いがないかを確かめながら、静かに声を響かせた。
正面に立つ監察方筆頭のミアが、琥珀色の大きな目をピクリと動かして報告する。
「局長、バルディア帝国の工作員――『黒鉄衆』の連中が、スラムの最奥にある廃工場に潜伏してるわ。現領主のガラルド様から任されたこのスラムの警備権を、さっそく引っ掻き回すつもりのようね」
「ニナの状況は?」
「ニナたち影の部隊は、すでにその廃工場の周りで張り付いてるわ。ただ、今回の相手はいつものスラムのゴロツキと違って、変な鉄の筒(魔導銃)を持った、国境の向こうの兵隊みたい。ニナも『なんかヤバそうな奴らが中にいっぱいいるぞー』って言ってた」
政治や国際情勢の難しい理屈は分からずとも、現場の直感で「ヤバい奴らがいる」と察知して動くニナ。アレンはカチリと刀を鞘に収めると、不敵に唇を吊り上げた。
「ガラルド様から、せっかくこの街の警備を任されたんだ。領主の顔に泥を塗るわけにはいかねえ。国境の向こうの兵隊だろうが何だろうが、我が特務隊が管轄するスラム街でコソコソ動く不審者は、ただの『治安を乱す犯罪組織』だ。特務隊の『法』で容赦なく叩き潰す。出発するぞ」
「……ふん。相変わらず、悪知恵の働く鬼局長だこと」 ミアがフッと小さく笑う。
その時、アレンの背後――影が不自然に揺らめき、その死角からスッと一人の青年が姿を現した。浅葱色の羽織を完璧に着こなしたエルフ、レイヴンである。 彼の右目には、すでにアレンの死角を守るための立体演算『千眼のスリット』の冷徹な光が宿っていた。
レイヴンはアレンのデスクの上に置かれた書類の束が、わずか数ミリ傾いているのを見逃さず、クールな無表情のままスッと指先で完璧な直角に整えた。それから、アレンの左肩(先日負傷した側)を庇うようにピタリと張り付く。
「……アレン局長、出陣ですね。スラムの治安を乱す不浄な輩など、私の弓にとって格好の的に過ぎません。あなたがわざわざ刀を汚すまでもなく、物陰からすべて排除してご覧に入れます」
どこまでも冷徹に、エルフのプライドを漂わせて言い放つレイヴン。しかし――
ピコピコピコピコッ!!!
彼の長い両耳は、アレンの「初陣」に同行できる無上の歓喜のせいで、本人の意志とは裏腹に激しく小刻みに上下に震えまくっていた。
「(ボソッ)……レイヴンくん、口調は冷酷な暗殺者ぶってるのに、耳が『早く局長のお役に立ちたい』って大騒ぎしてるぞ……」 「(ボソッ)……本当に分かりやすいよねー。可愛いなぁ」
いつの間にか執務室のドアから覗いていたボルドとシオンがヒソヒソと囁き合う。
「……気のせいだ。耳の筋肉が一時的に痙攣しているだけだ」 レイヴンはツンとそっぽを向き、必死にミリ単位で隊服の襟を整えて取り繕うが、耳の振動は一向に止まらない。アレンはその様子に鼻で笑い、無造作に立ち上がった。
「ボルド、シオン、野郎どもを集めろ。――特務隊、出陣する!」
夜の帳が下りたスラム街。廃工場は、異様な殺気に包まれていた。 工場の屋根裏や物陰には、近代魔導兵器である「魔導銃」を構えた帝国の工作員――黒鉄衆の構成員たちが、息を潜めて配置についている。
「……来たぞ。平民上がりの特務隊だ」 物陰の狙撃兵が、魔導銃の照準を正面入り口へと合わせる。
だが、彼らが引き金を引くよりも早く、正面の頑丈な鉄扉がドゴォォォンッ!!!と凄まじい爆音と共に音を立てて吹き飛んだ。
「ガハハハハ! 局長の『法』を舐めたヤクザ者がどうなるか……その身体にキッチリ教えてやるよ!」
元ゴロツキの荒くれ者たちを率いる二番隊隊長ボルドが、巨大な鉄製の大盾を掲げて文字通り「壁」となって突入してきたのだ。 「撃てッ! 面制圧だ!」 慌てた黒鉄衆が、魔導銃から一斉に魔法の弾丸を乱射する。しかし、ボルドの圧倒的な肉体と大盾が、その集団射撃の衝撃を真っ向から受け止め、強引にその場に踏みとどまる。
「シオン、行けぇッ!!」 「はーいボルド! ボク、あいつら全員、細切れにしてきちゃっていい?」
大盾のわずかな隙間から、一番隊隊長シオンが弾かれたように飛び出した。 世界の誰も追いつけない神速の踏み込み。敵の魔術師が次の詠唱を始める前に、シオンの腕の筋肉から魔力の波動が爆裂する。
「天然理心流・魔剣――『瞬界・二段突き』っ!!」
ガガァンッ!! と物理的な限界を超えた超高速の二連撃が炸裂し、前衛の装甲兵の胸鎧が一瞬で撃ち抜かれ、消し飛ぶ。笑顔のまま戦場を舞うシオンの前に、敵の防衛線は一瞬で瓦解していった。
「チッ、化け物どもめ! だが、局長のアレンはどこだ!?」 奥に潜む黒鉄衆の指揮官が叫んだ、その瞬間。
工場全体の空間に、ドス黒い、圧倒的な「気魄」が張り巡らされた。 アレン(土方歳三)が、和泉守兼定を抜き放ち、悠然と歩を進めていた。アレンを中心に展開される絶対的な迎撃の間合い――天然理心流『方円の檻』。
「そこだ、死ねぇ!」 工場の二階、鉄骨の死角に隠れていた黒鉄衆の狙撃兵が、アレンの背後から魔導銃の銃口を向けた。完全な不意打ち。
だが、アレンは後ろを振り向きもしない。 なぜなら、アレンの影(死角)には、すでに彼を100%信頼し、その衣服を掠めることすら厭わない「狂信者」の目が光っていただ。
「――お前、今……誰に武器を向けている?」
アレンの背後から、レイヴンが黒鉄の強弓を限界まで引き絞っていた。 右目の『千眼のスリット』が、遮蔽物や鉄骨の「わずかな隙間」を完璧な立体交差として捉える。
「魔力を乗せるな。この弦の張力、そのすべてを一点に――『圧縮』!!」
レイヴンの指先から皮が破れ、鮮血が弦に滴る。その瞬間、彼の全身から陽炎のようなドス黒い魔力が噴出し、弓全体が不気味な黒炎を纏った。 これこそ、かつて一族を恐怖させ、追放される原因となった「精霊に呪われた黒髪の力」の真の姿。
ビュンッ!!!
放たれた矢は、黒い閃光となり、アレンの耳元をミリ単位の精度ですり抜けた。アレンの動きを完全に計算し尽くした超精密射撃――『死角穿ち(ブラインド・スポット・レイド)』。
矢は鉄骨のわずかな隙間を縫うようにすり抜け、二階の物陰に隠れていた狙撃兵の胸を正確に貫いた。それだけではない。着弾した瞬間、ドス黒い炎――『黒炎の魔矢(エレボスの残り火)』が激しく爆発し、狙撃兵が持っていた魔導銃の魔力を喰らってさらに激しく燃え上がり、周囲の伏兵ごと一瞬にして灰へと変えてしまった。
「な、なんだあの威力は……!? エルフの魔法じゃない、あれは呪いの……」 驚愕する指揮官の前に、アレンが『縮地』によって一瞬で肉薄した。
「戦場じゃな、綺麗に距離をとって狙い澄ませる場所なんざねえんだよ」 アレンの冷徹な声と共に、和泉守兼定の刃に、先ほどレイヴンが見せた「空間の超圧縮」の概念をコンバートした未知のエネルギーが収束していく。
「天然理心流――『絶空・平突き』ッ!!」
轟ォォォンッ!!!
目に見えぬ気魄の衝撃波が一直線に突き抜け、指揮官とその背後にあった工場の分厚い鉄壁、そして潜んでいた工作員たちを、文字通り一瞬で木っ端微塵に粉砕した。
数分と経たずに、あれほど殺気に満ちていた廃工場は、特務隊によって完全に制圧された。
静まり返った工場。 アレンは兼定の血を鋭く払い、鞘へと納めた。その背後へ、レイヴンが静かに歩み寄る。指からは血が滲み、隊服は汚れているが、その漆黒の瞳には、かつてないほどの充実感と、底深い忠誠心が宿っていた。
「見事な弓だったぞ、レイヴン」 アレンが振り返り、満足げに笑う。
「お前自身の内側にある力、しっかりと形にしてみせたな。……これで特務隊に、敵の退路を完全に断つ『最強の狙撃手』が生まれたわけだ」
「……ありがたきお言葉、アレン局長」 レイヴンは恭しく一礼する。クールな無表情を保とうとしてはいるが――
ピコピコピコピコッ!!!
その長い耳の先端は、アレンに認められた最高の胸の高鳴りのせいで、根元から真っ赤に染まり、これ以上ないほど激しく揺れ動いていた。
「(ボソッ)……ほら見なよボルド、レイヴンくん、また耳がすごいことになってる」 「(ボソッ)……ガハハ! 口では澄ましてるが、完全に局長に命も魂も救われて、懐きまくってんな!」
「……気のせいだ。耳の感度良すぎるだけだ、気にするな」 ツンとそっぽを向くレイヴンだったが、その足はやはり、アレンの左肩側の死角へとピタリと張り付き、近づこうとするボルドたちを鋭い眼光で威嚇し始めるのだった。
領主ガラルドから任された警備権を完璧に遂行し、特務隊としての初陣を見事に飾ったアレンたち。
しかし――この夜を境に、世界の歯車は急速に狂い始める。
国境を越えて潜入していた帝国の最精鋭『黒鉄衆』の、あまりにも一方的な壊滅。 現場に残された、従来の魔法体系を根底から覆す「神速の剣痕」と「謎の黒炎」の跡。
アイビス王国がお上の預かり知らぬ場所で、想定を遥かに超える「未知の軍事力」を保有し始めているという事実は、北方の覇権国家バルディア帝国に強烈な戦慄と警戒を抱かせるに十分だった。
「平民上がりの特務隊だと? 貴族どものおままごとではない……奴らは、本物の戦を知る怪物の集まりだ」
帝国の前線基地、そしてアイビス王国の宮廷。 水面下で交わされる書簡の数は倍増し、国境線の緊張感はかつてないほどに跳ね上がっていく。
ただのスラムの治安維持から始まった特務隊の刃。それが、両国の間に横たわる冷戦の均衡を、完全に切り裂いてしまった。
国家間の外交は一気にギクシャクと軋みを上げ、一触即発の暗雲が立ち込め始める。 しかし、そんな世界の動揺をよそに、アレンは夜の闇を見つめ、静かに不敵な笑みを浮かべるのだった。
迫り来る激動の時代。その中心に、今、あの『誠』の影が立ち上がろうとしていた。
第40話をご覧いただき、ありがとうございました!
特務隊総出の初陣、そしてアレンとレイヴンの**「超精密・死角穿ち(ブラインド・スポット・レイド)」**、いかがでしたでしょうか!
アレンの耳元ミリ単位を信頼だけで撃ち抜き、魔導銃の魔力を喰らって大爆発するレイヴンの黒炎。そしてアレンの『方円の檻』からの『絶空・平突き』で工場ごと消し飛ばすコンボは、書いていて脳汁が止まりませんでした。
……が、戦闘中はあれほど冷徹な狂信者ストーカーなのに、アレンに「最強の狙撃手」と認められた瞬間に**両耳がピコピコピコピコッ!!**と大歓喜をあげて真っ赤になってしまうレイヴン、やっぱり最高に可愛いですね(箱のミリ単位の傾きを直す几帳面さも健在です。笑)。
そしてラスト、ただのスラムの治安維持だったはずの特務隊のせいで、北方の大国バルディア帝国とアイビス王国の「冷戦の均衡」が完全にブチ壊れてしまいました。
「おままごとではない、本物の戦を知る怪物の集まりだ」
世界がアレン(土方歳三)の影に怯え始めるこのゾクゾクする展開、これからの激動の時代がどう動くのか、ぜひご期待ください!
【作者からのお願い】
「アレンとレイヴンの死角穿ちが神がかってた!」「耳ピコレイヴンくんの忠犬っぷりが尊い!」「世界が特務隊にビビり始める展開に鳥肌が立った!」と思ってくださった方は、ぜひ作品への応援をお願いします!
皆様が投げてくださる評価とブックマークが、アレンたちをさらに上のランキング(世界の中心)へと押し上げる最大の原動力になります!
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世界の歯車を狂わせ始めた特務隊。次なる御用改めも、どうぞお楽しみに!




