第38話:御用改めと、耳の長い男
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第38話をお届けします。
ついに始まったスラムの闇の奴隷市場へのガサ入れ(御用改め)。
そこでアレンが出会ったのは、首を太い鎖で繋がれた、不吉とされる「黒髪」を持つ訳ありのエルフの青年でした。
敵意を剥き出しにする彼に、アレンが提示した圧倒的な『選択肢』とは――!?
シオンの新技【瞬界・二段突き】やアルクの初陣、そしてアレンの放つ本物の【平突き】が地下廃墟を震撼させます!
異世界新選組に加わる、新たな「牙」の誕生をぜひ見届けてください!
スラムの最奥、打ち捨てられた大聖堂の地下。 かつて礼拝堂だった広大な地下空間は、今や悪臭と欲望が渦巻く「闇の奴隷市場」へと成り果てていた。
その薄暗い天井近く、太い鉄骨の梁の影に、三つの影が音もなく潜んでいた。 特務隊局長アレン、一番隊隊長シオン、そして監察方筆頭のミアだ。ニナ率いる隠密部隊はすでに外周の退路を断ち、巨漢のボルドは地上で待機している。
(グルル……) アレンの耳元に、実体を持たない小さな声が届く。 アレンの足元――彼の『影』の中には、あの村で出会い、魔術『名付け』によって主従の契約を交わした黒角狼の子、アルクが潜んでいた。息を潜めて主の足元から周囲を警戒する姿は、実に健気で頼もしかった。
アレンは梁の上から、眼下で行われているおぞましい競売を冷徹に見下ろす。 今回の目的は、単にここで暴れて奴隷を解放することではない。バルディア帝国の残党、および彼らと繋がっている国内の悪徳貴族を根こそぎ合法的に叩き潰すため、この市場の全取引が記録された『奴隷商の名簿(裏帳簿)』を奪い取ることが最優先だった。
だが、地下空間は複雑に入り組み、肝心の名簿がどこにあるのか未だ判然としない。 その時、アレンの鋭い眼光が、舞台の端にある一際頑丈な鉄格子の檻に留まった。
「……ん?」
檻の中に首を太い鉄の鎖で繋がれ、床にへたり込んでいる一人の青年がいた。 ボロボロの衣服を纏っているが、その容姿は驚くほど端麗だ。そして何より目を引いたのは、その髪が夜のように黒いこと、そして、その両耳が人間のものとは明らかに異なり、長く、先端が尖っていることだった。
「おい、ミア。あの耳の長い奴は何だ。この辺りじゃよくいる種族か?」
「……あれはエルフ族よ、局長」 ミアは猫耳をピクリと動かし、忌々しげに目を細めて囁き返した。 「本来なら、遥か遠くの広大な森の奥で、精霊の加護を受けて暮らしている高潔な種族のはずだけど。スラムの闇市場に流れてくるなんて、よっぽどの訳ありね」
「エルフ, か……」 アレンがその名を噛み締めた瞬間。 檻の中にいた黒髪の青年が、突如として顔を跳ね上げた。梁の上の闇に潜むアレンたちを正確に見据え、ぞっとするほど深い憎悪を孕んだ漆黒の瞳で睨みつけてくる。
「……一見して分かるな。相当、こちらに敵意を持っていやがる」 アレンが小さく苦笑する。
「そりゃそうだよー。人間全員が敵に見えてもおかしくないよ」 シオンが悲しげにタレ目を伏せる中、ミアがその猫耳をピンと立てて、レイヴンの顔を凝視した。
「……待って、局長。あいつ、私たちのことを睨みつけた後――さっきから、舞台の真後ろにある『ぶ厚い石壁』を、血が出るほど奥歯を噛み締めて睨みつけて着目してるわ。……彼の右目の奥、変な魔力の残光が視える。おそらく、壁の『奥』の構造を透視してるんだわ」
アレンはミアの指摘を受け、レイヴンの視線の先にある石壁を見た。 前世で幾多の修羅場を潜り抜け、敵の視線や挙動から伏兵の配置や本陣の位置を見抜いてきた土方の直感が、ピきりと弾ける。 あの耳長のエルフは、ただ人間を憎んでいるだけじゃない。あの石壁の奥にある「空間の空洞(隠し部屋)」を、その目で見抜いて、壊したくて堪らないのだ。そこにおそらく、目的の『奴隷商の名簿』がある。
「面白い。……行くぞ」
アレンは音もなく梁から飛び降りると、一直線にレイヴンが囚われている檻の前へと着地した。 シオンとミアが死角を警戒する中、アレンは抜刀の構えをとる。
「な、何奴……ッ!?」 突如現れた浅葱色の羽織の男に、レイヴンは鋭い牙を剥き出しにして威嚇した。が、アレンはその声を無視し、低く息を吐きながら和泉守兼定を真一文字に奔らせた。
ガギィィィンッ!!!
凄まじい火花と共に、太い鉄格子の檻が、アレンの剛腕と業物の前に一瞬で切り裂かれ、ガシャリと崩れ落ちた。アレンはそのまま堂々と、壊れた牢の中へと踏み込む。
「お前が人間を死ぬほど憎んでるのはよく分かった。だが、ただ睨みつけてるだけで、あの石壁の奥にあるものが手に入るのか?」
アレンの低い声に、レイヴンは息を呑み、右目の焦点を激しく揺らした。 (なぜ、この男は俺が壁の奥を見ていると知っている――!?)
「お前に選択肢をやる」 アレンは冷徹な、しかし有無を言わせぬ確かな眼光で、檻の奥の青年を見据えた。 「俺たちは国直轄の特務隊だ。ここにいる奴隷商どもを根こそぎブチ壊し、裏で繋がっている悪徳貴族の名簿を奪いに来た。……人間が憎いなら、ここで指をくわえて次の飼い主に買われていくか? それとも、俺を利用してでも、自分をこんな目に遭わせた奴らに一矢報いるか、今ここで選べ」
「……っ、そんな言葉で、俺が人間を信用するとでも――」
「信用なんざしなくて結構だ」 アレンはカチリ, と刀のハバキを鳴らした。 「今ここで俺があの壁をブチ壊し、お前の鎖を切ってやる。……それが終わったら、俺たちを裏切ってこのままどこへでも逃げ出せばいい。お前がどう動こうが、俺たちの知ったことじゃねえよ」
それは、交渉ですらない圧倒的な譲歩だった。 「利用できるなら、俺を踏み台にして勝手に消えろ」と言い放つアレンの器の大きさと、奴隷商への確固たる敵意。優しい救いの手などではない。だが、だからこそ、泥水を啜って生きてきたレイヴンには、その言葉の「嘘のなさ」が痛いほど伝わってきた。
レイヴンは悔しさに唇を噛み締め、血が滲むほど拳を握りしめた。
「……ふん、クソ食らえだ、人間どもめ」 レイヴンは自嘲気味に吐き捨て、しかし、その漆黒の瞳を真っ直ぐアレンに向けた。 「いいだろう、そこまで言うなら利用してやる。……あのぶ厚い石壁の奥だ。あそこに隠し金庫の空間がある。そこにお前たちの欲しがる帳簿も、俺の首輪の鍵も、全部しまってあるさ。……壊せるもんなら、壊してみろ」
「話が早くて結構だ。その言葉、信じてやる」
アレンがニヤリと笑い、鎖を断ち切るべく刀を振り下ろそうとした、その瞬間――。
「――おい! そこに誰かいるぞ!! 檻が壊されてる!」
案の定、見回りの帝国兵の鋭い叫び声が響き渡った。牢を豪快に斬り壊したことで、流石に隠密の限界を超え、見つかってしまったのだ。奴隷商のゴロツキや私兵どもが、一斉にアレンたちへ武器を向ける。
「チッ、勘づかれちまったか。まぁ、上等だ」
アレンは一切の動揺を見せず、懐から一発の魔導信号弾を取り出すと、天井に向けて引き金を引いた。
ヒュゥゥゥ、パァァァンッ!!!
地下の暗闇に、鮮烈な浅葱色の光が炸裂する。大聖堂の入り口や裏口で待機している、ボルドや外周部隊への突入合図だ。ここからは時間との勝負になる。遠くの通路から、ボルドたちが正面大扉に突入した地鳴りのような衝撃音が響き始めた。しかし、彼らがこの最奥に合流するには、まだ少し時間がかかる。
「シオン, ミア! ボルドたちが来るまでここを持ちこたえつつ、あの壁へ突っ込むぞ!」
「うんっ! ボクの新しい剣、試してあげるね!」 戦闘スイッチの入ったシオンの腕からパァンッ!! と大気を引き裂く魔力の波動が爆裂する。 「『瞬界・二段突き』っ!!」 ガガァンッ! と激しい破裂音が響き、迫る敵の胸鎧が一瞬で撃ち抜かれ、消し飛ぶ。ミアが放つ変幻自在の投剣も、闇に紛れて敵を確実に足止めしていった。
「アルク、出るぞ!」 (オンッ!) アレンの影から飛び出したアルクが、瞬時に巨大化し、鋭い牙で敵の武器を噛み砕く。アレン自身も和泉守兼定を流れるように一閃させ、向かってくる用心棒たちの刃を撥ね退け、切り伏せていく。
「おい、耳の長い男。壁を壊すぞ!」 アレンはレイヴンの言ったぶ厚い石壁の前に立つと、腰を深く落とした。刀身に漆黒の闘気が爆発的に収束していく。魔力はないはずの肉体。しかし、前世から極め抜いた純粋な技術の結晶が、空間を威圧する。 「天然理心流――『平突き』ッ!」
ドゴォォォンッ!!!
全身の体重と踏み込みの力を一点に集中させた突きが、強固な石壁を木っ端微塵に粉砕した。崩れ落ちる瓦礫の奥から、目当ての『隠し金庫』の空間と、そこに収められた分厚い名簿が姿を現す。 アレンは名簿を掴み取ると、一閃、背後にいたレイヴンの首を縛る鉄の鎖を容赦なく叩き切った。
「約束通り、鎖は切った」 アレンは、殺到する敵を和泉守兼定で斬り捨てながら叫んだ。 「生き残りたいのなら、俺たちの側を離れるな!」
「っ……!?」 レイヴンは自由になった首元を押さえ、あたりを見渡した。床には、奴隷商が自分から没収し、そこらに転がしていた一振りの黒鉄の強弓が落ちていた。
(逃げる? ……まさか。あんな人間に、ここで置いていかれてたまるか……!) レイヴンは床の強弓をひったくるように拾い上げると、太い弦を限界まで引き絞った。指の皮が破れ、血が滲む。彼は無意識のうちに、己が使える僅かな魔力を矢に付与していた。 彼の目には、前方の障害物の「隙間」が立体的なスリットとして完璧に視えていた。
ビュンッ!!
放たれた矢は、アレンの死角となる物陰の柱の「わずかな隙間」を縫うように正確にすり抜け、アレンの後方を強襲しようとしていた暗殺者の喉笛を正確に射抜いた。 「……ふん。言われなくても、お前の後ろに張り付いてやる、人間」 レイヴンが不敵に笑う。アレンはその見事な空間計算の射撃を見て、獰猛に唇を吊り上げた。
「上等だ。行くぞッ!」 アレンがさらに前に踏み込もうとした、その時だった。
「ひ、開けろぉ! 邪魔だぁぁッ!!」 奥の通路から、錯乱した奴隷商の幹部が、魔導中型銃を狂ったように乱射しながら突進してきた。その銃口の直線上にいたのは、まだ病み上がりで足元のおぼつかないレイヴンだった。
「しまっ――」 空間把握の目で、その魔弾の軌道が自分の心臓を正確に貫くことを、レイヴンは「視て」しまった。魔法の使えない自分には、防ぐ術がない。死を覚悟し、レイヴンが目を瞑った瞬間――。
視界が、鮮烈な浅葱色に染まった。
「――チッ、往生際が悪い奴だ」
どす黒い闘気を纏ったアレンが、レイヴンの前に割り込むように跳んだ。間に合わないと判断するや、アレンは躊躇なく自らの左肩を肉盾として突き出し、レイヴンを庇ったのだ。
ドォンッ!! と激しい衝撃音が響き、アレンの左肩の肉が弾け、鮮血が飛び散る。 しかし、アレンは顔色一つ変えない。前世の五稜郭の戦いに比べれば、弾の一発などかすり傷に等しい。アレンはそのまま前に踏み込み、和泉守兼定を文字通り「一閃」させた。銃を構えていた幹部は、上半身を斜めに両断され、絶命した。
「が、局長っ! 傷が……!」 背後から駆け寄るシオンが悲鳴を上げる。 レイヴンは、目の前で起きた光景が信じられず、驚愕に唇を震わせた。
(なぜだ……? なぜ人間が、たかが奴隷のエルフごときを、自らの体を盾にしてまで庇う……!?)
「局長、大丈夫ですか!?」 ミアが周囲の敵を牽制しながら叫ぶが、アレンは溢れる左肩の血を全く気に留める様子もなく、懐から布を取り出して無造作に傷口を縛るだけだった。 「騒ぐな、かすり傷だ。前世の修羅場に比べりゃ、弾の一発なんざ痛くも痒くもねえよ」
その時、大聖堂の奥から「う、うわあああッ!」「逃げろォ!」と、ゴロツキたちの悲鳴が響き渡った。 ようやく正面の頑丈な総扉を叩き割ったボルドが、巨大なタワーシールドを掲げて突入してきたのだ。さらに外周を包囲していたニナの隠密全部隊が、雪崩のように地下へと突入する。 残っていた奴隷商の私兵どもは、幹部をアレンに討ち取られた恐怖と、特務隊の圧倒的な武力の前に完全に戦意を喪失し、次々と武器を捨ててその場に組み伏せられていった。
数分と経たずに、あれほど悪臭と欲望が渦巻いていた闇市場は、特務隊によって完全に「御用改め(鎮圧)」された。
静まり返った大聖堂の地下。 アレンは和泉守兼定の血を鋭く払い、鞘へと納めた。そして、未だ床にへたり込んだまま、信じられないものを見る目で自分を見つめているレイヴンへと歩み寄り、その前にドカティと片膝をついた。
「おい、耳長。生きてるな?」
「……っ、あ、あぁ……」 レイヴンは、アレンの左肩から滲む赤い血を凝視し、声を詰まらせた。 「なぜ、助けた。俺は魔法も使えない、精霊に呪われた不吉なエルフだ。エルフの国でも、この呪われた『黒髪』のせいで忌み嫌われ、ゴミのように追放された……。人間のお前にとっても、何の価値もないはずだ!」
自嘲と、深い絶望の混じったレイヴンの叫び。 しかし、アレンはその言葉を、鼻で笑い飛ばした。
「黒髪が不吉だぁ? 笑わせるな、俺の髪を見てみろ、真っ黒じゃねえか。お前の一族の理屈じゃ、この俺も不吉の塊ってことか。くだらねえ。そんな下らねえ神輿や生まれを気にするほど、俺の目は節穴じゃねえよ」
「……!」
「さっきお前が放った矢、俺の後ろの暗殺者を完璧に射抜いていた。あの状況で、それだけの空間計算と、魔力を乗せた強弓を引ける奴が、価値のねえわけがあるか。生まれも種族も関係ねえ。俺はお前のその弓の技術、そして何より、泥水を啜ってでも生き延びようとした、お前という『男の覚悟』に期待してるんだ。……お前自身が欲しい」
アレンは、日々の凄絶な剣の鍛錬でマメだらけになった、不骨な右手を差し出した。
弓の引きすぎで指の皮が破れ、血の滲むレイヴンの手と、アレンの手。 魔法や精霊という不確かなものに頼らず、己の肉体と意志のみを武器に、泥を啜って戦ってきた二人の戦士の手が、そこで重なった。
「どうだ。行く当てがないなら、俺の家臣――特務隊の隊士になれ。お前を縛る鎖はもうねえ。自分の意志で、俺についてくるか?」
「……あぁ。あなたになら、俺の命も、弓も、全てを捧げる……アレン局長」
こうして特務隊へと加わったレイヴンは、大聖堂からの撤収時、アレンから「好きにしろ」と言われたにもかかわらず、一歩も離れようとしなかった。アレンの負傷した左肩側の死角にピタリと張り付き、近づこうとする他の隊員や周囲の人間を、まるで「局長に触れさせない」とばかりに鋭い眼光で威嚇し続けていた。その異常なまでの過保護さと忠犬ぶりは、周囲の隊員を少し困惑させるほどであった。
数時間後、特務隊屯所・食堂。
「ガハハハハ! 待たせたなァ! 終わった後の飯は最高だぞ、新入り!」 正面から堂々と敵を蹴散らし、遅れて合流・撤収を完了したボルドが、満面の笑みで巨大な深皿を差し出した。 そこに盛られていたのは、特務隊名物『特製・屯所鍋』。濃厚な肉出汁のスープに、山盛りの肉と野菜がこれでもかと投入され、ガッツリとした脂の香りが立ち込めている。
浅葱色の隊服に着替えたレイヴンは、目の前の料理を前にして、戸惑ったように長い耳をピクリと動かした。 「おい、人間の大男。……俺はエルフだぞ? 一族の規律により、口にするのは清らかな『木の実や葉っぱ』だけと決まっている。人間の作る、こんな血生臭い肉のスープなど――」
「いいから食ってみなよー! すっごく美味しいんだから!」 隣でシオンが笑顔で促す。 レイヴンは限界の空腹も手伝い、「一口だけだぞ」とスープを口に運んだ。
「……っ!?」
その瞬間、レイヴンは至ってクールな、すました無表情のままだった。しかし。
ピコピコピコピコッ!!!
彼の長い両耳が、まるで歓喜の舞を踊るかのように、激しく上下に小刻みに震えだした。 本人は「何でもない」という顔をして必死に耳の動きを止めようとしているが、感情センサーは嘘をつけない。美味すぎて耳の振動が止まらないのだ。無言で木匙を動かす速度がすさまじい勢いで跳ね上がる。 ものの数十秒で大盛りだった深皿が空になり、レイヴンは皿をスッと差し出した。
「……おかわりを所望する。肉は多めだ」
「ガハハハ! 耳がすっげえ動いてんぞ新入り! 気に入ったなぁ!」 「……気のせいだ。耳が勝手に痙攣しているだけだ、気にするな」 レイヴンはツンとそっぽを向くが、耳はやはり嬉しそうにピコピコと揺れている。そのあからさますぎるギャップに、食堂の隊員たちは「なんだあいつ、可愛いな」「特務隊の新しいマスコットだな」と一気に和やかな空気に包まれた。 そんな賑やかな喧騒の中, レイヴンは、食堂の座席の配置が数センチずれていることや、シオンのお椀の置き方が傾いているのが急に気になり、クールな顔のまま、ミリ単位でそれらを綺麗に整え始めた。
少し離れた席では、左肩に白い包帯を巻いたアレンが、静かに飯を食っている。 レイヴンは美味すぎる屯所鍋を無言で咀嚼しながら、アレンの姿をじっと見つめ続けた。その肩の包帯は、レイヴンの目には何よりも尊い聖痕のように映っていた。
(アレン局長。あなたは俺に自由と、生きる意味をくれた。……これからは、あなたの影となり、あなたに仇なす全ての不浄を、この弓で射ち落とす)
必死に感情を殺し、どこまでも冷徹な「狂信者」として、心の中で底深い忠誠を誓うレイヴン。 ――しかし、その長い両耳の先端は、隠しきれない歓喜と激しい胸の高鳴りのせいで、根元から真っ赤に染まり、ピコピコとこれ以上ないほど激しく揺れ動いていた。
(ボルド:おいシオン、あいつ口調はツンツンしてるのに、耳がめちゃくちゃ嬉しそうにしてるぞ……) (シオン:ねー。すっごい分かりやすいよね、可愛いなぁ)
本人は完璧にクールに気取っているつもりだが、耳の感情センサーのせいで、特務隊の面々には「局長に命と魂を救われて、完全に懐きまくっている新入り」であることが初日から完全にバレてしまっているのだった。
――だが、この時の特務隊の誰も、まだ知る由はなかった。 将来、アレンの衣服にわずかな汚れをつけた者、あるいはアレンに爪先ほどの刃を向けた敵に対し、この耳の長い男が「お前、今……誰に剣を向けているのか、分かっているのか?」と、ゾッとするような冷徹な殺意と狂気を剥き出しにして世界を敵に回す、最強の「狂信者」へと変貌することになるのを。
第38話をご覧いただき、ありがとうございました!
特務隊の新メンバー、黒髪のエルフの狙撃手**【レイヴン】**がいかかでしたでしょうか!
壮絶な過去を持ち、人間を激しく憎んでいた彼ですが、アレンの圧倒的な器の大きさと「肉盾になって自分を護ってくれた」という衝撃によって、初日から完全に魂を撃ち抜かれてしまいました(笑)。
局長の死角を完璧にカバーする過保護な忠犬っぷり、最高に頼もしいです。
……が、本人はどこまでも冷徹でクールな狂信者を気取っているつもりが、特製『屯所鍋』の美味さに勝てず、**両耳がピコピコピコピコッ!!**と大歓喜の震えを起こしてしまうギャップには、書いていて愛おしさが止まりませんでした。ミリ単位で座席や器を整えちゃう几帳面さも、これからの屯所生活でいい味を出しそうです。
口元はツンツン、耳はデレデレな可愛いマスコット(?)が加わった特務隊を、これからもよろしくお願いします!
【作者からのおねがい】
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新たな仲間を得た特務隊の次なる進撃を、どうぞお楽しみに!




