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第36話:影の法度と鉄の筒

いつも応援ありがとうございます!

第36話をお届けします。


国王陛下より予算をもぎ取り、スラムに念願の「新・屯所」を構えた特務隊。

ボルド特製の『屯所鍋』を囲み賑わう一同でしたが、アレンは組織が大きくなる今だからこそ、あの【鉄の掟】を明文化することを決意します。


そして深夜の御用改めで出逢ったのは、魔力を持たない者が騎士を殺すための不気味な「鉄の筒」。

それを目にした瞬間、アレンの脳裏に前世のあの「硝煙の記憶」が蘇り――。


鬼の副長、異世界で因縁の近代兵器と対峙します。

ぜひ最後までお楽しみください!

王城での華々しい謁見から数日後。 王都エテュルナの華やかな喧騒から外れた、薄暗いスラム街の一角。そこには、つい先日までただの廃屋だった場所を改築した、真新しい木造の広大な屋敷が建っていた。 屋敷の門前には、夜明けの空を模した浅葱あさぎ色の布地に、白抜きで大きく一文字――『誠』と染め抜かれた旗が、王都の風に堂々とはためいている。

国王より下賜された【特別治安維持交付金】を注ぎ込み、グランヴェル家の管理の元で完成した、我が特務隊の公式な居場所。新たな「屯所」であった。

「おらぁ! 局長大絶賛、特務隊特製の『屯所鍋』だ! 肉も野菜も山ほど入ってるぞ、遠慮しねぇでたらふく食いやがれ!」

屯所の広間で、地響きのような豪快な声を上げたのは、特務隊二番隊隊長ボルド・ザ・ブルータルだ。190センチ近い筋肉の塊のような巨躯に、不釣り合いな前掛けを巻いた彼は、新調した特大の鉄鍋から、美味そうな出汁の湯気をモウモウと立ち上げている。元ゴロツキの荒くれ者だが、実は料理が趣味という特務隊の胃袋番であった。

「わあ、すごーい! ボルド、今日のお肉、いつもよりすっごく柔らかいよー?」 一番隊隊長シオンが、ぽわぽわとした笑顔で木椀を差し出し、器いっぱいに盛られた肉を幸せそうに頬張っている。その横では、特務隊の古参隊士たちや、新たに入隊したスラム上がりのバラガキたち、さらにお腹を空かせたスラムの子供たちが、ボルドから大盛りでスープをよそってもらい、嬉しそうに鍋を囲んでいた。

「ふん……相変わらず声がでかくて暑苦しいゴリラね。耳に響くわ」 部屋の隅、影からスッと姿を現した猫耳少女のミアが、ボルドをジト目で睨みつける。だが、その手にある器からは、すでに美味そうな屯所鍋の匂いが立ち上っていた。

「あぁん!? 誰がゴリラだ、この生意気な猫耳が! 嫌なら食うな!」 「文句を言いつつもおかわりをくれる優しさは認めてあげるわ。……あと、このお肉すっごく美味しい」 「お、おう……おう! しっかり食いやがれ!」

ミアに口元をモグモグさせながらボソッと言われ、急に照れくさそうに顔を赤くするボルド。 そんな微笑ましい面々の様子を、広間の上座から静かに見つめていたアレン――土方歳三は、手元にある大きな木札へと視線を戻した。

かつて領地でこの部隊を結成した際、集まったボルドたちに突きつけた絶対の規律。それを今、墨をたっぷりと含ませた筆を握り、一切の迷いなく、異世界の文字で五つの条文として木札に書き上げていく。

アレンがサラサラと、一切の淀みなく見事な達筆で書き進める姿を、ボルドが横から覗き込み、感嘆の声を漏らした。 「へえ……局長、柄に合わねぇっつっちゃ失礼だが、めちゃくちゃ綺麗な字書くんだな。貴族の先生様より強そうだ。……って、おい、その内容は……」 木札に刻まれていく漆黒の文字を見て、ボルドの顔がガチガチに引きつる。それは、かつて自分が特務隊に入隊したその日に、アレンの圧倒的な死の気魄と共に骨の髄まで叩き込まれた、あの「恐怖の規律」そのものだった。

カツ、と筆を置く音が、広間に静かに響いた。 そのわずかな音に含まれた「気配」の変化を察知し、シオンがピタリと手を止め、ボルドもミアも、そして新入りの隊士たちも、一瞬で背筋を伸ばしてアレンを見つめた。 先ほどまで料理を振る舞っていたボルドにいたっては、巨大な身体を直立不動にさせ、冷や汗を流している。

「全員、よく聞け」

アレンの低く、重みのある声が広間を支配する。彼は書き上げたばかりの木札を、全員が見えるように掲げた。

「我が特務隊は、国王陛下より直轄の権限を賜り、ルシアン様からこのスラムの治安維持を任された。これからは、ただの私兵集団じゃねえ。国が認めた、影の『法』だ。組織が大きくなれば、うわべだけの力に溺れる馬鹿が出る。グランヴェル家の名を汚し、陛下の信頼を裏切るような真似は万死に値する」

アレンの切れ長の瞳が、冷徹な光を帯びて、特に新入りの隊士たちを射抜く。

「以前から口頭で伝えていた規律だが、本日を以て、我が特務隊の鉄の掟――【局中法度きょくちゅうはっと】として明文化し、この屯所に掲げる。今から読み上げる条文に、一つでも背いた者には――例外なく、その場で切腹。言い訳は一切認めん」

切腹。命で責任を取るという意味の重すぎる言葉に、新入りの隊士たちが息を呑む。

「一、士道ニ背キ間敷事(武人としての誇りを忘れるべからず)」 「一、局ヲ脱スルヲ許サズ(一度入隊したからには、裏切りは許さん)」 「一、勝手ニ金策致ス間敷事(利権に溺れ、汚い金を貪るべからず)」 「一、勝手ニ訴訟ヲ取扱フ間敷事(私怨で勝手な争いを起こすべからず)」 「一、私ノ闘争ヲ許サズ(組織の許可なく、私闘に及ぶべからず)」

淡々と、しかし一文字ごとに血が滲むような覚悟の乗った掟。 前世で、烏合の衆だった浪人たちを天下に轟く「新選組」へと鍛え上げた、恐怖と背中合わせの絶対の規律が、異世界で正式に法となった。

「……いい覚悟だね、アレン」 最初に微笑んだのは、シオンだった。彼女はタレ目を細め、底知れない殺気を帯びた瞳で新入りたちを見やる。 「ボク、アレンの作ったこの掟、すっごく好き。もし破る人がいたら、ボクの一番隊が、アレンの手を汚さずにすぐ首を撥ねてあげるね?」

「お、おう! 局長! もちろん異存はねぇさ!」 ボルドは慌てて直立不動のまま、太い胸を叩いて後に続く新入りの隊士たちを睨みつけた。 「おい野郎ども! 聞いたか! 局長の『法』に泥を塗るような真似してみやがれ、その前にこの俺がブチのめしてやるからな! しっかり頭に叩き込んどけ!」

ボルドの強烈な檄に、荒くれ者たちの表情が引き締まる。 組織に、本物の「魂」が吹き込まれた瞬間だった。

――その日の深夜。 スラム街が深い静寂に包まれる頃、アレンは屯所の執務室で、ミアからの報告を受けていた。 ミアの猫耳が不気味にピルピルと動き、その碧い瞳が闇の中で鋭く光る。

「……アレン、案の定よ。国から莫大な予算が下りるって聞いて、スラムの地下水道に潜んでいた裏社会の残党どもが動き出したわ。でも、様子が変なの。ただのごろつきにしては、統率が取れすぎている。それに、魔力の気配が一切しないのに、妙に不気味な鉄の匂いがするのよ」

アレンは静かに立ち上がり、壁に掛けられた浅葱色の羽織を手に取った。 「……ルシアン様から任された街だ。さっそく、昼に決めた法度を試す機会が来たな。シオンとボルドを呼べ。御用改めだ」

スラムの地下、広大な地下水道の空洞。 そこには、黒い外套に身を包んだ十数人の男たちが、無言で大きな木箱を運び込んでいた。その一糸乱れぬ動きは、ただの犯罪者ではなく訓練された軍人のそれだった。

「――そこまでだ、ネズミ共」

暗闇の奥から響いたアレンの声に、男たちが一斉に振り返る。 闇を割り現れたのは、浅葱色の羽織を翻すアレン、愛刀の柄に手をかけるシオン、そして特大の鉄製大盾タワーシールドを構えたボルドの三人。

「な、何奴だ……!? どこから侵入した!」 「王宮直轄特務隊だ。我が領地でコソコソと糞尿を貪るネズミを、駆除しにきた」

アレンの冷徹な宣告と同時に、男たちが外套の内側から、見たこともない「奇妙な形の鉄の筒」を取り出した。

その形状、構え、そして向けられた筒口――。 アレンの背筋に、冷たい戦慄が走る。それは「未知の魔導具」などではない。前世の自分が嫌というほど見せつけられた、あの武器の構えだ。 (――銃だッ!!) 「ボルド、盾で崩せ! 構えさせるな!」 「オラァァァ!! 任せときな!」

「馬鹿め、平民の寄せ集めなど、これの一撃で――」 男が引き金を引こうとした瞬間、ボルドが重戦車の如き勢いで突進した。 巨大な大盾が、男たちの構えを正面から文字通り「壁」となって粉砕する。不意を突かれ、防御の陣形を強引に中断させられた男たちの間に、致命的な死角が生まれた。

「へへっ、局長の『法』を舐めたヤクザ者がどうなるか……その身体にキッチリ教えてやるよ!」

ボルドが叫ぶと同時に、その死角からシオンの身体が文字通り消えた。 神速の踏み込みから放たれる、磨き抜かれた一閃。ボルドが盾で作り出した完璧な隙を、シオンの凄まじい一撃が逃さず捉え、前列の男たちの喉笛を瞬時に切り裂く。 「が、あ……っ!?」

さらに、崩れた敵の最奥へ、アレンが天然理心流の神速の踏み込みで肉薄する。ボルドの大盾とアレンの剛剣、これぞ特務隊が誇る最強のコンビネーション。 男たちは、伝統的な騎士道とは一線を画す、一瞬で急所を破壊する「殺戮の合理性」の前に、悲鳴を上げる暇もなく壊滅していった。

わずか数十秒。 全滅した男たちの中で、唯一生き残った首謀者らしき男の胸ぐらを、アレンが片手で強引に掴み上げた。

「ひ、ひぃ……っ! お、お前たちは、一体……!」 「お前らの雇い主は誰だ。五家連合の腐れ貴族か?」 「ち、違う……! 俺たちは……こ、皇帝ひ――」

男が黒幕の名を口にしようとした、まさにその瞬間だった。 男の胸元に刻まれた魔法の紋章が不気味に赤く発光する。その男の瞳が、絶望と恐怖に濁るのをアレンは見逃さなかった。

「チッ、離れろ!」 アレンが男を突き放した直後、男の肉体が内側から容赦なく弾け飛び、凄まじい肉片となって地下水道の壁を染めた。情報を握る者の名前を出す暇さえ与えずに命を奪う、口封じの呪印魔法――バルディア帝国の、冷徹極まるトカゲの尻尾切りだった。

「……名前を出す暇すら与えねえか。どこまでも気に入らねえやり方だな」 アレンが忌々しそうに顔の血を拭うと、ボルドが足元に転がった、男たちが運んでいた木箱を片手太刀の柄で小突いた。衝撃で蓋が壊れ、中身が露わになる。

そこにあったのは、大量の『鉄の筒』。 木製の銃床に、細長い鉄の銃身。魔力を持たない者でも、魔石の力で一律の火力を放つことができる構造。

背後から追いついたミアが、それを不思議そうに拾い上げる。 「何かしら、これ……。杖にしては短いし、弓にしては弦がないわ。魔術的な合理性で作られているみたいだけど……」

それを見つめた瞬間、アレンの脳裏に、かつて激しい硝煙の煙の中で、己の仲間たちを次々と撃ち抜いていった、あの忌まわしき「時代の足音」が鮮烈に蘇った。

鳥羽・伏見の戦い。 銃火器という圧倒的な「近代兵器」の前に、磨き上げた剣技が、魂が、次々と圧殺されていった、あの暗黒の記憶。

アレンはゆっくりと、その鉄の筒――魔導銃を手に取った。 ずっしりとした鉄の重みが、手のひらを通じて、前世の戊辰戦争の記憶を呼び覚ます。

「……ハッ」

静寂の中、アレンの口から、低く、低く乾いた笑いが漏れた。 シオンとミア、空間を圧倒する気配にボルドまでもが、そのただならぬ雰囲に息を呑む。

アレンは魔導銃を強く握り締めると、不敵に、そして狂おしいほどの闘志を瞳に宿して、暗闇の先を見つめた。

「なるほどな……。刀の時代を終わらせようってか。懐かしいおもちゃを持ち出しやがる」

前世の函館で、銃弾に倒れた土方歳三。 だが、今の自分には、あの時になかった最強のボルドが、大砲をも置き去りにする神速のシオンが、自由自在に動く影のミアがいる。

「いいだろう、バルディア帝国とやら。お前らの『近代の合理』が勝つか、俺たちの磨き上げた『誠の牙』が勝つか……異世界ここで、もう一度白黒つけようじゃねえか」

異世界の夜闇の中、鬼の副長は静かに、しかし激しく、その牙を研ぎ澄ませるのだった。


第36話をご覧いただき、ありがとうございました!


ついに異世界の地に刻まれた【局中法度】。

烏合の衆を天下の「新選組」へと変えた鉄の掟が、新入りのバラガキたちを震え上がらせ、特務隊に本物の魂が吹き込まれる瞬間は書いていて身が引き締まる思いでした。シオンの「首を撥ねてあげるね?」の笑顔の威圧感も流石です(笑)。


そして、ラストに登場した『魔導銃』。

鳥羽・伏見、そして函館へと続く激動の時代、銃火器という時代の足音に刀一本で抗い続けた土方歳三にとって、これ以上ない因縁の武器の登場です。

だが、今の彼には前世になかった「最強の仲間たち」がいます。帝国が持ち出してきた近代の合理を、特務隊がどう『誠の牙』でねじ伏せていくのか、ぜひご期待ください!


【作者からのお願い】

「局中法度にしびれた!」「銃を前にしたアレンの不敵な笑みが最高に格好良かった!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部にある**【ブックマーク登録】や、評価の【☆☆☆☆☆】を★★★★★**にして応援していただけると、執筆の大きな爆発力になります!

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