第35話:王の謁見と二つの視線
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合同模擬戦で圧倒的な勝利を収めたアレンとルシアン。
今回は、ついに最高権力者である国王陛下、そして王国の未来を担う王子・王女との「謁見の間」での対面です!
貴族たちが利権に目を血走らせる中、アレンが取った前代未聞の行動とは……?
そして後半では、アレンが鍛え上げた『特務隊(新選組)』の存在が、国境を越えた大国をも震撼させることに――。
ぜひ最後までお楽しみください!
合同模擬戦の狂乱から数日後。 王城アイビスの最深部に位置する「白亜の謁見の間」は、張り詰めた重々しい静寂に包まれていた。 天井まで届く巨大なステンドグラスから差し込む陽光が、大理石の床を厳かに照らし出している。その中央に敷かれた深紅の絨毯の上に、二人の少年――ルシアン・ド・グランヴェルとアレンが、片膝を突いて深く頭を垂れていた。
彼らの正面、数段高い玉座には、この国の絶対君主である国王レオンハルト・ヴァン・アイビスが、圧倒的な覇気を放ちながら不敵な笑みを浮かべて座っている。 その左右には、近衛騎士団長をはじめとする王族直属の屈強な騎士たちが鋭い眼光で周囲を警護し、壁際では敗北を喫した四家連合の当主をはじめとする貴族たちが、屈辱に顔を青くさせて並んでいた。
そして、玉座の左右には、王国の未来を担う二人の若き王族が控えていた。
国王の右後ろに立つのは、第一王子【ラインハルト・ヴァン・アイビス】。 国王レオンハルトと同じ、王家を象徴する鮮やかな燃えるような赤髪を持つ青年だ。彼は若くして「王国の賢人」と称されるほどの聡明さを持ち、その理知的な青い瞳は常に国の行く末を見据えている。ラインハルトは一糸乱れぬ姿勢で二人を見つめていたが、その眼差しにあるのは警戒ではない。この混沌とする時代に、王国を守るに足る「真に優秀な臣下」が現れたことへの、心からの感激と、深い安堵の光だった。
一方、国王の左後ろに佇むのは、第一王女【クリスティア・ヴァン・アイビス】。 完璧な淑女としての美しい立ち振る舞いで静かに控える彼女の髪は、父親の赤が僅かに混じりつつも、ほとんどが母親譲りの神秘的な白髪であった。気高く美しい佇まいの彼女だったが、その瞳は、アレンとルシアンの姿を捉えた瞬間、純粋な憧れと興奮でキラキラと輝いていた。
「面を上げよ」
国王レオンハルトの地響きのような声が、広い謁見の間に響き渡る。 二人がゆっくりと顔を上げると、国王はまずルシアンへと視線を向けた。
「ルシアンよ。お前が魅せた魔法の多重展開、実に見事であった。名門グランヴェルに相応しい、次世代の『神童』たる戦いぶり。我が国の騎士団の模範となるであろう。……その卓越した武勇と忠誠を称え、お前が率いる【蒼穹騎士団】を、国費を以て運営する国家正規軍【王宮第二騎士団】へと格上げする! さらに、王家に代々伝わる国宝級の魔導具――多重詠唱の威力を倍加させる【蒼天の首飾り】を拝領せよ!」
「――っ!?」
壁際の貴族たちから、驚愕のあまりどよめきが沸き起こる。 若干十六歳にして自らの私兵を国家正規軍にまで押し上げ、国宝級の魔導具まで賜るという破格の恩賞。四家連合の当主たちは、悔しさに奥歯を噛み締めるしかなかった。 ルシアンは気高く凛とした姿勢のまま、深く頭を垂れる。
「勿体なきお言葉。我が剣と魔法、正式に発足する王宮第二騎士団は、すべて国王陛下と我が祖国のために。この名誉に恥じぬよう、より一層精進いたします」
完璧なルシアンの態度に、賢人ラインハルトは満足そうに深く頷いた。
東北の地より現れた異端の牙、アレンへと国王レオンハルトの視線が移った瞬間、王の笑みは一層深く、豪胆なものへと変わった。
「そして――アレン。お前だ。魔法の使えぬ身でありながら、名門の術理を木刀一本で叩き割り、挙句の果てにはフロストハイムの『絶対防衛』を物理的に爆破したな。ハハハ! 実に愉快、実に凄絶な戦いであった! アレン、お前たちの魅せたものは、一切の無駄を削ぎ落とした、敵を殺すためだけの【本物の戦の理】だ。ラインハルト、お前はどう見た?」
話を振られた第一王子ラインハルトは、一歩前へ出ると、その聡明な瞳に熱い感情を滲ませてアレンを見つめた。
「……息を呑むほどに見事な戦いぶりでした、父上。伝統や形式に囚われず、勝利という一点のみを追求するアレン殿の武の合理性……それこそが、バルディア帝国をはじめとする諸外国の脅威から我が国を守る、新たなる『至宝』となるに違いありません。この国にこれほど優秀な英傑が生まれてくれたこと、私は王族として、心から誇らしく、そして安堵しております」
賢人ラインハルトの、偽らざる大絶賛と言エローに込めた敬意。 アレンの「異質の強さ」の価値を完璧に見抜いた王子の言葉に、貴族たちは言葉を失う。続いて、左後ろの王女クリスティアも、淑女らしい気品ある動作のまま、そっと一歩前へ出た。
「お兄様の仰る通りですわ、お父様。私も、アレン様のあの鮮烈で圧倒的な強さ、気高き戦いぶりに、不躾ながら一瞬たりとも目が離せなくなってしまいましたの。夜明けの空を模したあの浅葱色の羽織は、この国の新しい夜明けを象徴しているかのように、本当に、本当に美しく輝いて見えましたわ」
クリスティアは完璧な淑女の微笑みを保ちながらも、その爛漫な瞳はアレンに向けて、純粋な敬意と熱烈な憧れを隠しきれずに送っていた。 王族の三人が、揃って平民上がりのアレンを最大級に評価したのだ。
国王レオンハルトは、満足そうに声を上げて笑った。 「よかろう! 本日を以て、お前の部隊を王家公認の特務機関――【王宮直轄・特務隊(新選組)】とする! そこで恩賞だが、アレン。王都の一等地に、特務隊の専用屯所として広大な敷地と豪華な屋敷、および莫大な運営資金を与えようと思うが――」
「――畏れながら、陛下。私への一等地の屋敷も、土地も、資金もすべて不要にございます」
アレンの低く響く声が、国王の言葉を遮った。 一瞬で静まり返る謁見の間。王の言葉を遮り、恩賞を辞退するなど前代未聞だ。貴族たちが不敬だと騒ぎ出そうとした瞬間、アレンは膝を突いたまま、毅然とした態度で言葉を続けた。
「スラムは未だ、お世辞にも治安が良いとは言えぬ無法地帯。私はルシアン様の秘書であり、グランヴェル家より『スラムの治安を良くする』という使命を与えられております。与えられた役目を途中で放棄することなど、到底出来ません。……ですから陛下、私への恩賞をお考えいただけるのであれば、そのすべてを我が主、ルシアン様への恩賞、およびグランヴェル家が管理するスラムの環境改善のための資金として、上乗せしていただきたく存じます」
「な……!?」 「自分への恩賞をすべて、主に捧げるというのか……!?」 「平民の分際で、公爵家の御曹司に恩を売る気か? いや、しかし……」
利権を巡って争う貴族たちにとって、アレンの行動は理解の範疇を超えていた。手柄をすべて主君へ献上する。己の富や名声には目もくれず、ただ主への忠義と与えられた役目の遂行だけを口にするアレンの姿に、第一王子ラインハルトは深く感銘を受け、その理知的な瞳を激しく揺らした。
(……己を下げ、どこまでも主君を引き立てるか。この圧倒的な強さを持ちながら、これほどまでに純粋で苛烈な忠誠心を持つ男がいたとはな。グランヴェルは、真の英傑を掴んだのだな……)
一瞬の、静寂。 次の瞬間、国王レオンハルトの腹の底から響くような哄笑が、謁見の間を震わせた。
「――ハハハハハ! 面白い! 貴族どもが一等地の領地を巡って醜く争う中、まさか己の手柄をすべて主に捧げるとはな! よかろう、アレン! その見事な忠義、実に見上げたものだ! お前の願い通り、特務隊の運営費、およびスラムの環境改善資金は、グランヴェル領スラムの【特別治安維持交付金】として、国家予算から破格の規模で上乗せして支給する! ルシアンよ、お前は本当に素晴らしい臣下を持ったな!」
「はっ……! 勿体なきお言葉にございます、陛下!」
ルシアンは驚きに胸を震わせながらも、隣で平然と控えるアレンの横顔を見つめ、その不器用で、誰よりも熱い忠義に心の中で深く感謝した。アレンは静かに頭を垂れる。特務隊(新選組)が、グランヴェル家という主の後ろ盾をさらに強固にし、誰も手出しできない大切な「居場所」を守る基盤を完璧に整えた瞬間だった。
謁見が終わり、王城を下城した二人は、グランヴェル公爵邸へと向かう馬車の中にいた。 窓の外を流れる王都の景色を眺めながら、胸元で青く輝く【蒼天の首飾り】にそっと手を触れ、ルシアンが苦笑交じりに口を開いた。
「アレン。君には本当に驚かされたよ。まさか僕への恩賞上乗せを要求するなんて……。君はいつも、自分のためのものを何も欲しがらないね」 「何、俺はあなたの『秘書』ですから。主君のハクが上がれば、俺たち裏方が動きやすくなる。ただの合理的な判断ですよ、ルシアン様」 「はは、君が言うと本当にただの計算に聞こえるから不思議だ。でも、ありがとう。君のその忠義に、僕は必ず結果で応えてみせるよ」
ルシアンが真っ直ぐな瞳で告げると、アレンはふっと不敵に口元を歪めた。
やがて馬車が公爵邸へと到着し、邸内の広間に足を踏み入れた瞬間、待機していた一番隊組長シオンが、ぽわぽわとした笑顔でアレンの元へとちょこちょこと駆け寄ってきた。その袖を嬉しそうに引っ張る。
「あ、アレン、おかえりー! どうだった? 王様、なんて言ってた?」 「ああ。俺たちの部隊が、正式に【王宮直轄・特務隊】として公認された。さらに、ルシアン様を通じて、俺たちのスラムの環境を良くするための莫大な資金をもぎ取ってきたぞ。これからは、あの場所がより治安が良くなるぞ」
アレンがそう告げると、シオンはタレ目をいっぱいに輝かせた。 「わあ、すごーい! 赤い髪の王子様も、白い髪の王女様も、ボクたちのこと褒めてくれたのかな? じゃあじゃあ、ボルドのご飯を食べるお台所も、もっと綺麗になる?」 「飯の心配ばかりするな、シオン。だが、ルシアン様から任されたお役目を、より完璧に遂行できる環境は整った。これからはもっと厳しく、お前たちを叩き直せるな」
アレンがシオンの頭を軽く撫でると、シオンは嬉しそうに目を細めてメロメロになっている。その様子を後ろで聞いていたボルドが、豪快に笑いながら自身の頭を掻いた。 「へへっ、局長! 流石だ、一等地の屋敷なんかより、俺ァ住み慣れたあの街が綺麗になる方がよっぽど嬉しいや! さっそく特大の鍋を新調して、特務隊全員で食える美味ぇ屯所鍋を作ってやりやすよ!」
「ふん、相変わらず暑苦しい男ね」 ミアが部屋の隅の影からスッと姿を現し、猫耳を不機嫌そうにピクピクと動かした。彼女はアレンを見上げ、少し頬を赤くしながらツンツンとそっぽを向く。 「……でも、まあ、主への忠義を盾にして予算を毟り取るなんて、大した悪知恵ね。これでスラムの裏社会の調査(密偵)も、劇的にやりやすくなるわ。感謝しなさいよね、アレン」
「ミアもいっしょにアレンに撫でてもらいなよー? すっごく気持ちいいよー?」 シオンが無邪気に手招きすると、ミアは「ば、バカ言わないでよ! 私は子供じゃないわ!」と真っ赤になって怒り出し、特務隊の面々はいつも通りの賑やかな笑いに包まれた。
そこへ、仕立ての良いドレスの裾をエレガントに揺らしながら、公爵令嬢セレナがゆっくりと歩み寄ってきた。その瞳には、熱い憧れと、先の演習でアレンの強さに完全に惚れ直した深い情愛が宿っていた。
「アレンさん、本当におめでとうございます。王宮直轄の特務隊……素晴らしいわ。模擬戦でのあなた方の戦いぶり、今でも胸が震えて止まりませんの」 「セレナ様。お見苦しい戦いをお見せしました」 「いいえ、お見事でしたわ。……私、改めて心に誓いましたの。いつか必ず、その『誠』の旗の下で、アレンさんの隣に立つにふさわしい武人になってみせますわ」
セレナは少し大胆にアレンへと一歩歩み寄り、その白い手でアレンの大きな手をそっと包み込んだ。顔をほんのり赤くしながら、上目遣いにアレンを見つめる。 「ですから……これからも、私を一番近くで鍛えてくださいね? 私の、大切なお師匠様」
公爵令嬢からの、至近距離での直球かつ大胆なアプローチ。 それを見たシオンが、ぽわぽわとした笑顔のまま、すかさずアレンとセレナの間に身体をねじ込んできた。 「あ、セレナ様ずるーい。アレンの隣はボクの場所だよー? ボクの方がアレンにいっぱい頭撫でてもらってるんだからー」 「ちょ、ちょっとシオンさん!? 私はお師匠様への敬意を……っ」 「ふん、何やってるのよあの公爵令嬢とサイコ娘は……。呆れた」 遠巻きにミアが猫耳をピルピルさせながら、顔を真っ赤にしてツンツンとそっぽを向く。
ルシアンはそんな賑やかな一同の様子を、少し離れた場所から静かに見守り、アレンへと視線を送った。 「アレン。君の言う通り、戦いとは格式ではなく合理ですね。僕の王宮第二騎士団も、君たち特務隊に遅れをとるつもりはありませんよ」 「ええ、お互いな、ルシアン様」
アレンはルシアンと短く言葉を交わしつつ、先ほど謁見の間で自分をまっすぐに見つめていた、王子ラインハルトの聡明な瞳を脳裏に思い浮かべていた。 (王子ラインハルト……ただの賢人じゃねえな。あの若さで、俺たちの『武の合理』をそこまで正確に見抜くか。良い指導者がいる。国のために、この牙、存分に振るってやる価値はありそうだ)
――その頃。聖アイビス王国の国境を越えた遥か北方。 軍事国家【バルディア帝国】の不気味な黒鉄の要塞の一室では、凍りつくような緊張感が漂っていた。
重厚な机を囲むのは、帝国の冷徹な将軍たち。その前で、先の合同模擬戦から命からがら逃げ帰ってきた密偵の男が、冷や汗を流しながらガタガタと震えて報告をしていた。
「――な、信じられん。四家連合の、あの広範囲魔法の猛攻を平然と凌ぎ切っただと……?」 「は、はい……っ! 聖アイビス王国の伝統たる騎士道や魔法など、我が帝国の軍勢をもってすれば恐るるに足らずと確信しておりました。しかし……あの、夜明けの空を模した【浅葱色の羽織】を纏う鬼どもだけは別です……!」
スパイの男は、アレンに氷壁を粉砕された瞬間の、あの「鬼の殺気」を思い出して顔を真っ青にする。 「魔力を持たぬ平民の少年が、ただの木刀一本でフロストハイムの氷壁を爆破し、ウインザードの千の風を大盾一つで圧殺……! あいつらは騎士などではない、敵を殺すことだけに特化した【人斬りの集団】です! もし我が軍がアイビス王国へ侵攻すれば、あの浅葱色の鬼どもに、前線ごと尽く肉片に変えられます……っ!!」
「何だと……!?」 帝国の幹部たちは、スパイが持ち帰った、演習場の惨劇の記録魔石を見つめながら戦慄した。そこに映るアレンの冷徹な一閃、シオンの神速の三段突き、ボルドの圧倒的な質量。
「奴らは何者だ……。アイビス王国に、これほど凶悪な『隠し札』がいたというのか」 「【特務隊】……旗印は『誠』、か。……全軍に通達せよ! 聖アイビス王国への侵攻計画は全面凍結だ! あの浅葱色の羽織を目撃した際は、決して交戦せず、即座に撤退せよ!!」
ただの一度の模擬戦。 しかし、アレンが鍛え上げた特務隊(新選組)の圧倒的な「武の理」は、帝国をも震撼させ、国家規模の【絶対的な抑止力】として世界にその恐怖を刻み込んだのだった。
第35話をご覧いただき、ありがとうございました!
ついに王家公認となった『王宮直轄・特務隊(新選組)』!
自分への一等地の屋敷や恩賞を全て断り、主君であるルシアンのハクを上げつつ、自分たちの「大切な居場所」であるスラムの予算をもぎ取るアレン、まさに副長としての抜け目のなさと忠義が光る回でした。
屯所に戻ってからのシオンやミアとのいつも通りの賑やかなやり取りや、セレナ令嬢の直球アプローチにもニヤニヤしていただけていれば幸いです(アレン本人は相変わらずの戦闘脳ですが……!)。
そして、ただの模擬戦のはずが、北方のバルディア帝国へ「絶対的な抑止力」として恐怖を刻み込む結果に。新選組の『誠』の旗が世界に響き渡る瞬間は、書いていてとても熱くなりました。
【作者からのお願い】
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