第33話:前哨の舌戦
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前話では、隣国バルディア帝国のスパイを迎え撃つべく、シオン、ボルド、ミアを筆頭とした新生・特務隊の組織改編を行い、ついに異世界の地に浅葱色の『誠』の旗を突き立てたアレンたち。
今回の舞台は、聖アイビス王国の王都「エテュルナ」。
国王陛下が主催する合同演習を前に、五大名門の若きエリートたちが集う控室で、アレンとルシアンはかつてないほどの激しい敵意に晒されることになります。
魔法至上主義の傲慢な跡取りたちを前に、浅葱色の羽織を纏った鬼の副長が魅せる、圧倒的な「格の違い」とは――!?
聖アイビス王国の王都「エテュルナ」。その中心にそびえる王城「アイビス」の白亜の謁見の間は、五大名門の若き精鋭たちが放つ魔力によって、肌がヒリつくほどの緊張感に包まれていた。
今宵行われるのは、国王レオンハルト・ヴァン・アイビス陛下が主催する合同演習。 表向きは民の不安を払拭する『慰撫』だが、その本質は隣国バルディア帝国のスパイどもへ我が国の武力を誇示する『牽制』たる国家行事だ。
演習場への入場を前に、各家の代表者が集う控室。 そこに、夜明けの空を模した【鮮烈な浅葱色の羽織】を纏ったアレンと、巨躯に『誠』の旗を背負ったボルドが姿を現した。ド・グランヴェル家の嫡男であり、【蒼穹騎士団】を率いるルシアンと並び立つその異質な姿に、部屋中の視線が一斉に集まる。
「――久しぶりだな、ルシアン。それに、そこの平民のガキも」
不快げに鼻を鳴らしながら歩み寄ってきたのは、紫の豪奢な外套を羽織った少年だった。かつて勇者一行に名を連ねた伝説の魔法師の家系、ボルテール家の嫡男――レナード・ヴァン・ボルテールである。 その後ろには、各名門の若き跡取りたちが、冷ややかな視線を携えて控えていた。
レナードは、かつてアレンに叩き伏せられた屈辱を覆い隠すように、傲慢な笑みを浮かべてアレンを指差した。 「おい、お前のことだ。久しぶりだと言っている」
アレンは歩みを止め、和泉守兼定の柄に手をかけたまま、酷く冷めた鬼の目でレナードを一瞥した。 位置を確かめるように僅かに首を傾げ、短く言った。 「……誰だ?」
「レナード・ヴァン・ボルテールだッ! 名門ボルテール家の跡取りの名前を忘れたとは言わせんぞ!」
「だから、誰だ?」
「な、名前を言っただろうが! 耳が腐っているのか!?」 一瞬で顔を真っ赤にして激昂するレナード。アレンにとっては、一度叩き伏せて終わった過去の雑魚など記憶の片隅にも残っていない。本当に、心の底から「誰だお前」と思っているのだ。
見かねたルシアンが、冷徹な優等生の顔のまま、淡々とアレンの耳元で囁いた。 「アレン、あの時だよ。領主館の庭で、君に決闘を申し込んできたボルテール家の」
「ああ……」 アレンは拳をポンと手のひらに打ち付け、得心がいったように頷いた。 「試合の際に、勝手に禁呪を使って自爆して、白目剥いて気絶したやつか」
「気絶などしていないッ!!」 レナードが裏返った声で絶叫した。だが、その瞬間に緑の羽扇子を優雅に扇ぎながら、糸目の美男子――ウインザード家のアルベルトがくすくすと笑いながら割り込んできた。
「いやぁレナードくん。あの時の君、完全に白目を剥いて泡を吹いていたよ? 実に美しくなかったねぇ」 「アルベルトお前っ、味方の味方をして何が……っ!?」 身内にすらハシゴを外され、いよいよ涙目になるレナード。そこへルシアンが、懐から小さな帳面を取り出し、淡々と追い打ちをかける。
「魔力混濁による一時的な意識喪失……時間は約二時間半。世間一般ではそれを『気絶』と呼ぶんだが、ボルテール家の辞書は少し特殊なようだね」 「おのれド・グランヴェル家ぇえええ!!」
アレンの容赦のないスルーと、ルシアンのデータに基づいた辛辣な追撃のコンビネーションに、レナードは歯をガタガタと鳴らして悔しがる。
そこへ、白銀の髪を完璧な縦ロールのツインテールに結ったエレナ・ド・フロストハイムが冷酷な足取りで前に出た。 「見苦しいわよ、レナード。平民の無礼など、我がフロストハイムの氷結魔法で黙らせれば済む話でしょう」
エレナはライトブルーの美しい三白眼でアレンとボルドを見下し、吐き捨てるように言った。 「グランヴェル家も落ちぶれたものね。ルシアン様の蒼穹騎士団はともかく、そんなスラムの泥を、国王陛下の御前たる演習場に立たせるとは。我が家系が誇る【絶対不可侵・氷結世界】の前に、一歩も動けずに凍りつくがいいわ」
「おい小娘、誰が泥だって?」 ボルドが巨躯を震わせ、大盾を床にドスンと叩きつける。その地響きに、アルベルトが再び不敵な糸目を細めた。 「おや、野蛮だねぇ。実戦はもっと優雅で効率的であるべきだよ。我がウインザードの広範囲追尾風魔法【神速の千風刃】の前には、君たち泥臭い兵隊は一歩も近づけずに、美しく蜂の巣になるだけさ」
「ククク……一歩近づくことすら許されず、絶望の中で死ぬ。実にお美しいねぇ、アルベルト」 アルベルトの影から、不気味な声が響く。顔の半分を白い仮面で覆った陰気な青年――オルタニア家のクロードだ。仮面の奥の片目を怪しく赤く光らせながら、アレンをねっとりと見つめる。 「だがね、我がオルタニアの幻惑精神魔法【絶望の狂気人形】にかかれば、死ぬ前に面白いものが見られるよ。己の最も恐れるトラウマに脳を焼かれ、泣き叫びながら仲間同士で殺し合うのさ。……ククク、楽しみだねぇ」
クロードから放たれる、ねっとりとした精神汚染の魔力。 その瞬間、ボルドがアレンの前にスッと巨躯を躍り込ませ、大盾の裏で低く進言した。
「――局長、こいつの目、カタギの目じゃねぇです。裏通りのヤク中と同じ、脳みそが完全に腐った奴の目だ。連中(新選組)が一番よく知ってる、反吐が出るタイプの悪党ですよ」 元ゴロツキとしての鋭い直感。その言葉に、アレンは静かに頷いた。
名門の跡取りたちから一斉に放たれる、それぞれの属性を帯びた傲慢な魔力の威圧。 しかし、アレンは小さくフンと鼻を鳴らし、浅葱色の羽織を翻して歩き出した。
「御託はいい。お前さんたちの戦い方が『おままごと』か『本物』か……。あっちの砂舞台で、白黒つけようじゃねぇか」
その背中に向けられた、名門たちの激しい敵意と殺意。 今回の模擬戦のルールは、広大な演習場に全陣営が同時に陣を敷く、一斉バトルロイヤル形式。 アレンたちの態度にプライドを激しく傷つけられたレナード、エレナ、アルベルト、クロードの四人は、密かに視線を交わし、不敵な笑みを浮かべた。
((((まずはあの平民どもとド・グランヴェル家を、四家連合で完膚なきまでに叩き潰す――!))))
ルシアンはそんな彼らの醜い結託を「食えない笑み」で見透かしながら、アレンの後に続いた。 「では諸君、演習場で会おう」
四面楚歌。圧倒的な数的不利。 しかし、誇り高くたなびく『誠』の旗の下、鬼副長アレン率いる特務隊の、真の「実戦の理」が今、解き放たれようとしていた。
第33話をお読みいただき、ありがとうございました!
かつてアレンに叩き伏せられたレナードくん、相変わらずの噛ませ犬っぷりを発揮してくれました。名前すら覚えてもらえず「だから、誰だ?」と冷たく返されるシーンは、書いていて(あるいはアレンの鬼の目を想像して)最高にスカッとしました!
ルシアンの「気絶の定義」の追い打ちも、二人の息の合ったコンビネーションが光っていましたね。
しかし、他の名門たち(エレナ、アルベルト、クロード)も一癖も二癖もある強敵ばかり。特にボルドが直感で見抜いたクロードの「腐った目」は、かつて新選組が京の都で相手にしてきた狂信者や悪党そのものです。
案の定、プライドを傷つけられた四家による「特務隊&グランヴェル家包囲網(四家連合)」が結成されてしまいましたが……多勢に無勢のバトルロイヤルこそ、実戦を生き抜いてきた新選組の真骨頂!
次回第34話、ついに合同演習の火蓋が切って落とされます!
脳筋エリートたちの魔法を、アレンの天然理心流と特務隊がどうねじ伏せるのか、どうぞお楽しみに!
「アレンのスルー最高!」「四家連合をボコボコにしてほしい!」と思ってくださった方は、ぜひ作品の下部にある【☆☆☆☆☆】の評価や、ブックマークで応援していただけると執筆の励みになります!よろしくお願いいたします!




