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第31話:鬼の求める牙

いつも『異世界新選組』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

前回、帝国の工作員を御用改めし、国家規模の戦争の予兆を掴んだアレン。 今回は、その深刻な事実を主君ルシアンへと突きつけ、真の戦場へ向かうための「新たな牙」を求めます。

魔法至上主義のこの世界で、魔法が使えないがゆえに「化け物」と忌み嫌われる一人の少女――。 彼女の姿に、アレンは前世で共に戦った、あの「天才剣士」の面影を重ね合わせることに。

新選組の象徴たる『最強の切り込み隊長』の覚醒を、どうぞお見逃しなく!


朝、アレンは昨夜押収したバルディア帝国の密書と、赤い烙印の打たれた地図を手に、ルシアンの執務室を訪れていた。

ルシアンは地図を見つめたまま、その聡明な額に冷や汗をにじませ、声を震わせた。

「……これは、ただの密輸の次元ではない。帝国は、この王国の防衛の要である『心臓部』を狙っている。集めた資金はすべて、そこを一度に陥落させるための軍拡資金だ。アレン、君の言う通り、これは本当の戦争の予兆だ……!」

少年でありながら、即座に事態の重さと敵の狙いを理解した主の聡明さに、アレンは内心で小さく頷く。だが、その視線はさらに先を見据えていた。

「驚くのはそこまでだ、ルシアン。理解できることと、本物の戦場に足を踏み出す覚悟ができるかは別問題だ。近いうちに、お前は領主の跡継ぎとして、国を揺るがす大勝負の決断を迫られる。……もし足がすくむようなら、その時は俺が背中を叩いてやるさ」

「……はは、心強いですね。私の最高の騎士(秘書)」

ルシアンは恐怖を払いのけるように不敵に微笑み、居住まいを正した。

「では、私はお上の人間や父上への根回し、我が家に仕える隠密の動向調査、そして防衛予算の確保に動きます。アレン、特務隊の指揮は完全に君に任せる。どう動く?」

アレンは和泉守兼定の柄をそっと撫ぜ、切れ長の目を細めた。

「戦争をやるににゃ、今の人数じゃ決定的に足りねえ。……ルシアン、俺に少し時間をくれ。使える『本物の牙』を揃えてくる」

詰所に戻ったアレンは、ボルドとミアを前に、今後の組織拡大について話していた。

この世界は魔法至上主義だ。戦う者はみな魔導書をめくり、杖を掲げ、剣を持つにしても魔力を付与した煌びやかな「魔剣」を振るう。 だが、アレンが求めているのは、そんな小綺麗な魔術師ではなかった。

「おいおい局長、人材集めなら俺に任せてくだせえ! 裏社会の骨のあるゴロツキを、力ずくで引きずり込んできますから!」

ボルドが190センチの巨躯を揺らし、剛腕を回す。だが、アレンは首を振った。

「ボルド、お前の大盾と剛剣は集団戦の壁としちゃあ一級品だ。だが、これから相手にするのは帝国の正規兵や特務工作員だ。今の俺たちに足りねえのは、敵の術式を構築される前に懐へ飛び込み、魔術師の首を瞬殺できる、圧倒的な『切り込み隊長エース』だ」

すると、横でボルドの作った屯所鍋をつついていた猫耳の少女・ミアが、琥珀色の目をピクリと動かし、ツンとした態度のまま口を開いた。

「……圧倒的な切り込み役、ね。それなら、心当たりがないわけじゃない。……スラムの最奥、古い教会の地下に、お上に見捨てられた『化け物』が眠ってる」

「化け物、だと?」

「うん。生まれつき魔力が高すぎて、体内でその魔力が暴走して内臓を壊し続けてる病気の女の子。魔法を放つ杖も、魔力を乗せる魔剣も、彼女の暴走する魔力に耐えきれずに全部爆発しちゃうの。だから、魔法がすべてのこの世界じゃ誰も見向きもしない、ただの魔力も通らない『鉄の塊(剣)』を握って暴れて、騎士団の巡回小隊を半滅しかけたの。お上じゃただの自暴自棄の狂人扱いだけどね。名前は、シオン」

ミアの情報に、アレンの勘が鋭く反応した。 魔力の暴走。魔剣すら壊す規格外の負荷。ただの鉄の剣――。

(道具に頼る魔法じゃ、その器を制御できねえってわけか。……面白い)

スラムの奥深く、薄暗い教会の地下室。 カビ臭い空気のなか、すり切れたベッドに横たわっていたのは、肌が白く、華奢で細身の、おっとりとしたタレ目の少女だった。

「……ふわぁ。だれ、ですかぁ? ボク、いま身体がだるくて、うごけないのですけど……」

少女――シオンは、マイペースでぽわぽわとした声を漏らす。ボルドが「おいおい局長、これが化け物ですか? 触ったら折れそうな小娘じゃねえか」と戸惑うが、アレンは迷わず彼女の枕元へ歩み寄り、すっと腰を落とした。

アレンはシオンの華奢な肩に、そっと手を置く。

――その瞬間だった。

掌を通じて、冷たい電流のような衝撃がアレンの五体に流れ込み、異様な感覚が己の肉体へと吸収されていく。脳裏に響くノイズではなく、彼女の持つ狂暴なエネルギーの残滓が、アレンの細胞一つひとつに直接融解し、一体化していくような、生々しく不可思議な感覚だった。

(……なんだ、この熱量は。まるで体内に激流を閉じ込めてるような。骨も筋肉も、内側から焼き切れんばかりに軋んでやがる。それをこの華奢な体で受け止めてるってのか)

アレンが放った、本物の修羅だけが持つ凄絶な殺気。 その瞬間、シオンの瞳孔が猛獣のように開き、おっとりしたタレ目が、獲物を見つけた鋭い「野生の眼」へと変貌した。

シオンはベッドの脇に置かれていた、何の変哲もない錆びた鉄剣を、目に留らぬ速度で掴み取り、アレンの喉元へ突き出した。

「……へぇ。ボクのなかの『これ』が暴れてるの、一目で見抜いちゃうんだ。……おじさん、だれ?」

喉元に刃を突きつけられながらも、アレンは眉一つ動かさず、冷淡に言い放った。

「おじさんではない。まだ、年は子供と同じ年齢だ」

「えー、嘘だぁ。中身が全然子供じゃないもん。おじさん特有の、すっごく居心地のいい、お布団みたいな匂いがする」

シオンは少し不満げに頬を膨らませたが、アレンはその刃を指先で軽く弾き、床に転がっていた別の鉄剣を彼女へと放り投げた。

「一本、振ってみろ」

シオンは怪訝そうな顔をしながらも、剣を手に取り、無造作に空間を薙いだ。

ヒュン、と空気を裂く鋭い音が響く。その瞬間、シオンの口から「がはっ……!」と激しい吐血が漏れ、彼女の身体が崩れ落ちそうになった。全身の筋肉が魔力の暴走に耐えきれず、悲鳴を上げているのだ。

だが、アレンはその一振りの中に、明確な「既視感」を見ていた。

ただの力任せではない。体内の凄まじい負荷を、無意識のうちに独特の足捌きと、奇妙な身のこなしで強引にブレーキをかけ、負荷を「逃がそう」としていた。

(……この感覚、知っているぞ)

アレンの脳裏に、前世、新選組の先頭を走り、病魔に冒されながらも、己の体に強引にブレーキをかけ、負荷を逃らしながら戦い続けた若き天才剣士――沖田総司の姿が、鮮烈に重なった。

アレンは再び崩れ落ちそうなシオンの肩を強く掴み、その耳元で低く、だが絶対的な確信を持って告げた。

「娘。お前のその体、無理に魔力を外へ放出しようとするから壊れる。体内で暴れるエネルギーの波を、呼吸でならし、刃の先から最小限の点として逃がしてやれば、その筋肉(器)は破壊されねえ。……俺の言う通りに、息を吸ってみろ」

アレンの指示に従い、シオンが生まれて初めて「天然理心流の呼吸法」をなぞる。 体内の激流が、嘘のようにピタリと治まり、全身の痛みが引いていく。

シオンは驚愕したように己の手のひらを見つめ、それから、じっとアレンの顔を覗き込んだ。その瞳には、自分の呪いを一瞬で御してみせたこの「奇妙な少年」に対する、強烈な好奇心と、運命的な執着の光が灯り始めていた。

「……ねえ。ボク、なんだかアレンのことが、すっごく気になっちゃった。その、息のしかた……もっと教えてくれる?」

「俺の流儀は厳しいぞ。命を張る覚悟があるなら、特務隊へ来い。お前のその身、天下無双の『刀』にしてやる」

「……うん。ボク、行くよ」

シオンは初めて、ぽわぽわとした笑みの中に、明確な意志の光を宿して頷いた。

最強の「一番隊組長」の原石を手にし、異世界新選組の真の牙が、ここに揃おうとしていた――。


第31話をお読みいただき、ありがとうございました!

ついに特務隊の絶対的エース、一番隊組長(沖田総司)の役割を担うシオンが仲間入りしました! 普段はおっとりぽわぽわなのに、剣を握ると野生の猛獣になるシオンの二面性、そしてアレンを「お布団の匂いがする」と懐く空気感を楽しんでいただけていれば幸いです。

アレンが彼女の肩に触れたとき、魔力の残滓を『体に吸収していく感覚』……魔力ゼロのはずのアレンの身体に、一体何が起きているのか? こちらも今後の重要な伏線となります!


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