第27話:木刀と魔法の協奏曲
第27話をお読みいただきありがとうございます! 地獄のランニングを終え、修行はついに木刀を持った実戦稽古へ。 魔力ゼロながら凄まじい剣の才を見せる公爵令嬢セレナに対し、幼馴染のリナは、アレンの戦術に合わせるために独学で編み出した「泥臭い近接魔法」で対抗します。 アレンへの想いを懸けた二人の少女の激突に、アレンは前世の「懐かしい顔ぶれ」を重ね合わせることに――。
「――よし、基礎はここまでだ。今日からは木刀を持ってもらう」
修行二日目の朝。 村の外れにある広場で、アレンは二本の不骨な木刀を地面に突き立てた。
まだ夜明け前の薄暗い空気の中、すでにリナとセレナは訓練服に身を包んで整列している。昨日の地獄のランニングで全身が筋肉痛のはずだが、二人の瞳には一歩も引かない強い光が灯っていた。
アレンはまず、セレナに一本の木刀を放ってよこした。
「お嬢、まずはあんただ。昨日教えた足捌きを意識しながら、俺の動きに合わせて振ってみな」
「はいっ!」
セレナが木刀を構え、アレンがゆっくりと打ち出す刃をいなし始める。 その様子を見ていたアレンは、思わず心の内で感嘆の息を漏らしていた。
(……相変わらず筋が良すぎるな。お嬢の体術のセンスは本物だ。前世の試衛館に連れていって、あいつらに見せてやりてぇくらいだぜ)
魔力こそ皆無だが、セレナの刃の軌道には無駄がない。アレンの教える天然理心流の「重心の移動」と「力の連動」を、恐ろしい速度でその肉体に吸収していく。落ちこぼれと蔑まれてきた彼女にとって、アレンから授けられる不骨な剣技こそが、自らを暗闇から救い出す唯一の希望の光だった。
「次はリナ、あんただ」
アレンの声に、リナがもう一本の木刀を握りしめて前に出る。 リナはアレンと対峙すると、深く息を吐き、その木刀の刀身に魔力を巡らせた。
「――『爆裂』!」
ボガァァン! と小さな爆発音が響き、木刀の切っ先から爆風が吹き荒れる。 リナは後衛から綺麗に呪文を唱えるような、世間一般の「魔法使い」の戦い方をしていなかった。至近距離での騙し討ち、泥を投げるような実戦主義――すべては、かつてゴブリン襲撃から自分を命懸けで救ってくれたアレンの、あの泥臭くも圧倒的に強い戦闘思想に追いつくために、彼女が血の滲むような独学で編み出した「魔法×近接」の変則スタイルだった。
アレンの懐へ鋭く踏み込みながら、リナはさらに左手から光の弾を至近距離で放つ。目潰しだ。
アレンは和泉守兼定の鞘でリナの泥臭い工夫をことごとく受け止めながらも、その実戦特化の思想を真っ向から肯定し、頼もしげに目を細めた。
「へっ……悪くねぇ。実戦じゃ勝てば官軍だ。綺麗に戦おうとするな、敵の嫌がることを徹底的にやれ。いい工夫だ、リナ」
アレンに真っ向から努力を認められ、リナの顔にパッと嬉しそうな色が浮かぶ。 それを見たセレナの胸中で、嫉妬にも似た激しい対抗心が燃え上がった。
「リナさん……貴方のその戦い方、とても興味深いですわ。……アレン、私に、リナさんと手合わせをさせていただけないでしょうか」
セレナの一歩も引かない申し出に、リナもまた木刀を強く構え直した。
「望むところよ、お嬢様。アレンの隣がどれだけ厳しい場所か、教えてあげるわ」
二人の少女の間に、パチパチと目に見えるような火花が散る。 アレンは二人の覚悟に満ちた目を見据え、力強く頷いた。
「いいだろう。互いに木刀、魔法の使用も制限なしだ。ただし――死なせるなよ。始め!」
アレンの号令と同時に、二人の影が爆発的に交錯した。
「はあああああっ!」
セレナが鋭い踏み込みから、アレン直伝の無駄のない天然理心流の平突きを放つ。魔力がないとは思えないほどの、恐るべき速度と鋭さだ。
「くっ……! 『閃光』!」
リナは間一髪で目潰しの魔法を放ちながら、身を翻してその一撃をかわす。視界を奪われたはずのセレナだったが、昨日の不整地ランニングで培った「足の感覚」だけでリナの気配を察知し、即座に木刀を横一文字に払った。
ガキィィィィィン!!!
硬質な衝撃音が広場に響き渡る。 リナの「魔法を纏わせた泥臭い一撃」と、セレナの「純粋な剣才による苛烈な一撃」。 お互いの「アレンの隣に立ちたい」という執念とプライドが、真っ向から激突していた。攻防は数十手に及び、互いの服が汗と土で汚れ、息が絶え絶えになってもなお、二人の刃は止まらない。
互いに限界を迎えたその瞬間、二人は全ての力を込めて同時に木刀を振り下ろした。
ドガァァァァァン!!!
リナの爆発魔法と、セレナの決死の踏み込みが真っ向からぶつかり合い、凄まじい衝撃波が走る。 耐えきれなくなった二人の木刀が、中央から同時にバキィィンと派手に弾け飛んだ。
「はっ、はぁ……っ、……っ!」 「う, ぅ……っ、……っ!」
武器を失い、地面にへたり込む二人。決着はつかなかった。 そこへ、アレンが悠然と歩み寄り、二人の頭を「ゴン、ゴン」と軽い拳骨で優しく小突いた。
「てめぇら、息が上がりすぎて最後は刃がブレぶれだ。……だが、本当にすごい勝負だったぜ。お前ら二人とも、大したもんだ」
アレンはそう言うと、いつもの鬼の仮面を外し、心からの賞賛を込めて穏やかに微笑んだ。
その時、アレンの脳裏には、前世の光景が鮮烈に呼び覚まされていた。 かつて多摩の試衛館の狭い道場で、汗まみれになりながら泥臭く木刀を振るい合っていた、あの頃の仲間たちの姿。豪快に笑う近藤、天才と謳われながらも無邪気に刃を交えていた沖田、そして共に激動の時代を駆け抜け、戦場に散っていった新選組の隊士たち。
(……あいつらも、今のてめぇらみたいに、バカみたいに真っ直ぐで、死に物狂いだったなぁ……)
胸に去来する切ない郷愁と、異世界で出会った二人の少女への愛おしさ。アレンは落ちていた木刀の破片を拾い上げながら、静かに目を細めるのだった。
◇
その日の夜、アレンの実家の裏庭。 激しい修行の疲れを癒やすように、アレンは夜風に当たりながら、一人静かに腰をかけていた。
「……ふぅ。お嬢たちのしごきは骨が折れるぜ。少しは手加減してやりてぇが、それじゃあいつらのためにならねぇからな……」
領都では特務隊の「完璧な頭領」として、決して隙を見せないアレンが、ふと肩の力を抜いて、誰に言うでもなく本音の愚痴をこぼした。
「だったら、少しは私に甘えればいいじゃない」
背後から、クスクスと笑う懐かしい声がした。振り返ると、そこには温かいお茶と、アレンの好物である自家製のたくあんを持ったリナが立っていた。
「リナ……。てめぇ、まだ起きてやがったのか」
「アレンが無理して鬼の顔をしてるのなんて、見ればすぐに分かるわよ。幼馴染を舐めないで」
リナはアレンの隣に自然な動作で腰を下ろすと、お茶を差し出した。アレンは「ちっ、お前には敵わねえな」と苦笑しながらそれを受け取り、一気に飲み干す。
領都での張り詰めた戦いの日々。その緊張の糸が、リナの隣にいるこの瞬間だけは、驚くほど自然に緩んでいくのをアレンは感じていた。これこそが、公爵令嬢であるセレナには決して真似できない、リナだけの「特権階級」の空気感だった。
リナはそっと、自分の懐から小さな、少し不器用な縫い目のお守りを取り出した。
「これ……アレンがいない間に、私が独学で防御の付与魔法を限界まで込めて作ったの。不格好だけど……持ってて」
ずたぼろになったリナの手のひらから、アレンの大きな手へと渡される手作りのお守り。 アレンはその不器用な温かさを愛おしそうに見つめ、腰の兼定の下げ緒の横に、しっかりとそれを結びつけた。
「……おう。大事にさせてもらうわ」
アレンの言葉に、リナの顔が夜闇のなかで真っ赤に染まる。 二人の間に流れる、実家のような、静かで温かい安心感。しかし、その甘やかな空気を切り裂くように、村の境界の森から、不気味で狂暴な『魔獣の咆咆』が深夜の静寂へと響き渡るのだった――。
第27話をお読みいただきありがとうございます! セレナの天才的な剣の筋と、アレンの思想に染まったリナの「魔法近接スタイル」の激突、いかがだったでしょうか? 二人の必死な姿に、前世の新選組の仲間たちを思い返して目を細めるアレン。彼の内に秘められた不骨な優しさと郷愁が垣間見える回となりました。
そして、夜の裏庭でのリナの手作りお守り!これにはアレン(土方)も鬼の仮面を外さざるを得ませんでしたね。 しかし、のどかな村に不穏な魔獣の影が迫ります。次回、第28話は修行編クライマックス!アレンの留守中に村が襲撃され、二人のヒロインが特訓の成果を証明する実戦共闘回です!
「手作りお守りで大勝利!リナ派」の方も、「負けずに次回大活躍してほしい!セレナ派」の方も、ぜひ感想欄や【☆☆☆☆☆】の評価で応援をよろしくお願いいたします!




