表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/72

第25話:鬼の休暇は修羅場の始まり? 幼馴染と公爵令嬢がバチバチな件

オズワルド編、ここまで熱い応援を本当にありがとうございました!特務隊の初陣、スカッとしていただけたでしょうか?

今回からはガラリと雰囲気が変わり、お待ちかねの新章に突入します!激闘を終えたアレン(土方)が、懐かしのあの場所へと戻ります。しかし、鬼の休息になるはずだったその場所には、最悪の(?)修羅場が待ち受けていました――!

深夜、ド・グランヴェル公爵邸の執務室。

静寂が支配するその部屋の床に、ドサリと、重苦しい肉の塊が投げ出された。


「ひっ……あ、ああ……」


涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにし、芋虫のように床でのたうち回っているのは、領内の経済を裏で牛耳っていた大物貴族オズワルド・フォン・ヴァイス伯爵だった。その両手には魔力を霧散させる不気味な鈍色の手枷が嵌められ、十本の指はすべて、アレンの峰打ちによって精密に叩き潰されている。


机を挟んで座っていた現領主、ガラルド・ド・グランヴェル公爵は、その無残な男の姿を見下ろし、完全に絶句していた。


(……本当に、一人も殺さずに、現行犯のまま連れてきおったか。騎士団すら動かせぬ盤面で、魔力を持たぬ平民の特務隊だけで、あのオズワルドの私兵を完璧に無力化するとは……)


ガラルドの背筋に、冷たい汗が伝う。

目の前に立つ黒髪の少年――アレン。その衣服には、返り血の一滴すら付着していない。ガラルドは確信した。この少年は、ただの便利な駒などではない。絶対に敵に回してはならない、本物の「化け物」だと。


その隣で、腕を組んだルシアンが、呆れたように苦笑を漏らした。


「手際が良すぎるとは思ったが……まさか本当に一人も漏らさず、これほど完璧に片付けるなんてね。アレン、君という男は、僕の合理的な予測をいつも軽々と超えていく。僕の冷や汗を返してほしいものだよ」


「褒め言葉として受け取っておく。だがなルシアン……あんたが完璧なお膳立てをしなきゃ、こうは上手くいかなかったさ。手回しの良さなら、あんたの右に出る奴はいねぇよ」


アレン――その肉体に宿る新選組副長・土方歳三は、不敵に口元を歪めると、腰の和泉守兼定いずみのかみかねさだの柄をポンと軽く叩いた。


「素晴らしい」


ガラルドが深く息を吐き、アレンを真っ向から見据える。


「見事というほかはない、アレン。これでオズワルドの謀略は完全に潰えた。我がド・グランヴェル家を救ったお前の功績だ。望むだけの褒賞――金貨でも地位でも、何でも言うが良い」


並の平民なら目を輝かせる誘い。だが、アレンはそれを手首を軽く振って遮った。


「ガラルド様、代わりに俺に数日間の『休暇』をいただきたい。久しぶりに、置いてきた未練――故郷の村へ戻らせてもらいます」


アレンの言葉に、ガラルドは拍子抜けしたように目を丸くした。

だが、アレンの胸中には土方歳三としての『身内への情』があった。前世では多摩の故郷を飛び出して以来、ついに生きて二度と踏むことが叶わなかった「故郷」という場所。あの村を出て以来、一度も顔を見せていない両親、そしてあの健気な幼馴染の顔が、ふと脳裏をよぎったのだ。


「……ふむ、死線を越えたばかりだ。鬼の休息というわけか。良かろう、認めよう」


ガラルドが頷いた、その時だった。

執務室の壁際でじっと話を聞いていた一人の少女が、意を決したように一歩前に踏み出した。ルシアンの妹であり、公爵令嬢のセレナだった。


「アレン……! 私も、その村へ連れて行ってはいただけないでしょうか」


突然の申し出に、ルシアンが「セレナ?」と驚き、アレンもまた怪訝そうに眉をひそめて振り返る。


魔法至上主義のこの公爵家において、魔力を持たないセレナは「落ちこぼれ」と蔑まれ、不当に扱われてきた。だが、そんな暗闇にいた彼女に、かつて「お前には剣の才能がある。並外れたものだ」と、世界で初めて光をくれたのがアレンだった。


アレンがまたしても、魔力なしで大物貴族を完璧にねじ伏せた。その圧倒的な背中への憧れが、彼女の胸を激しく突き動かしていた。


「貴方がまた、誰も成し遂げられないような大業を成したと聞きました。……魔力を持たない貴方が、そこまで強く在れるのなら、私も貴方の流儀を学び、もっと強くなりたいのです。強くなって、いつか父上や兄上のように、この家に必要とされる人間だと認められたい……。ですから、どうか……!」


公爵令嬢としての気品を保ちつつも、その瞳には、泥をすすってでも這い上がろうとする強固な意志が宿っていた。

アレンは、必死に自分を見つめる令嬢の目をじっと見つめ、やがてフッと呆れたように息を吐いた。


「お嬢、公爵家の令嬢が、田舎の肥溜め臭い村へ行くなんて、正気かい。……まぁ、あんたがそこまで言うなら止めはしねぇよ。俺の稽古は、スラムのゴロツキどもが泣いて逃げ出すくらいに厳しいが……ついてこれるんだな?」


「はい……っ! 喜んで!」


セレナの顔に、パッと見違えるような、凛とした美しい笑顔が咲いた。


◇ 鬼の帰郷と、二人の少女


数日後。ド・グランヴェル領の片隅にある、のどかな小さな村。


「ふん……はっ……!」


村の外れの広場で、一人の少女が汗まみれになりながら、必死に木刀を振るい、魔法の呪文を唱えていた。アレンの幼馴染、リナだった。


あの日、アレンが村を出る時、「もっと強くなって、いつか絶対にあなたの隣にいたい!」と泣きながら誓った言葉を、彼女は一瞬たりとも忘れていなかった。あのougアレンの瞳の奥にあった、底知れない「孤独な鬼」の背側に追いつくために、彼女は泥に塗れて特訓を重ねていた。


「リナ! 馬車が来たぞ! アレンが帰ってきたみたいだ!」


村人の呼ぶ声に、リナの顔が一気に華やいだ。


「アレン……!」


木刀を放り出し、駆け足で村の入り口へと向かう。

ガラガラと音を立てて止まった馬車から、一人の少年が降りてきた。引き締まった身体、冷徹ながらもどこか懐かしい佇まい。見違えるほど凛々しく、圧倒的な「頭領」の風格を纏ったアレンの姿に、リナは胸を熱くする。


「アレン! おかえりなさい、私――」


笑顔で駆け寄ろうとしたリナの足が、ピタリと止まった。


アレンの後ろから、もう一人、息をのむほど美しい金髪の少女が降りてきたからだ。仕立ての良い上質な衣服、一目で高貴な生まれと分かる洗練された佇まい。


その少女――セレナは、公爵令嬢としての気品を纏いながらも、その視線は確実にアレンの後ろ姿を、深い憧れと敬意を込めて追っていた。


「ここが、アレンの生まれ育った村なのですね。とても空気の澄んだ、良いところですわ」


親しげにアレンの横に並ぶセレナ。

リナの大きな瞳が、激しい動揺に揺れた。


(……嘘。何、あの綺麗な人。髪も服も、私なんかと全然違う……)


アレンが村を出てから、自分に宛てられたはずの「隣の席」に、見知らぬ美しい少女が収まっている。しかもそのお嬢様は、アレンへ熱い憧れの視線を隠そうともしていない。その事実に、リナの胸の奥で猛烈な危機感が火花を散らした。


「アレン……その人は、誰……?」


リナの一歩も引かない視線が、セレナを射抜く。

セレナもまた、公爵令嬢としての気品ある微笑みを浮かべながらも、その目を細めてリナを見据え返した。


魔法の才能に溢れ、アレンの昔を知る幼馴染、リナ。

魔法の才能はなくとも、アレンに憧れ、その流儀を学ぼうとする公爵令嬢、セレナ。


アレンという存在、そしてその「隣」を巡り、二人の少女の視線が、バチバチと静かな火花を散らした。


(なんだぁ? 出迎え早々睨み合って……。田舎の生ぬるい空気に当てられて、どいつもこいつもの気が立ってやがんのか?)


当のアレンは、そんな女心の機微などどこ吹く風で、ふぅとため息をつくと、和泉守兼定の鯉口こいぐちを小さく切った。


「ちっ、相変わらず田舎の空気はのどかすぎて、体がなまりそうだな。……お嬢、さっそく始めるぞ。まずは走る。肺が焼けるまで、俺の後ろを死に物狂いでついてきな」


「――っ、はい! アレン!」


こうして、鬼の休息となるはずだった休暇は、二人の少女の熱い視線が交錯する、新たな修羅場の幕開けとなった。

いよいよ始まった鬼の休暇(スパルタ合宿)!

アレンの隣の席を巡って、早くもバチバチな幼馴染・リナと、お嬢様・セレナ。異世界新選組にまさかの修羅場が到来です。


読者の皆さんは「健気な努力家・リナ派」ですか? それとも「覚悟の公爵令嬢・セレナ派」ですか? ぜひ感想欄や活動報告で教えてもらえると、今後の二人の関係性を書く大きな励みになります!


新章の幕開け、面白い!続きが気になる!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや広告下の【☆☆☆☆☆】での評価で応援をよろしくお願いします!皆さんの熱い一票をお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ