第24話:氷華の檻と鬼の逆襲
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ついに始まったオズワルド邸への突入作戦。しかし、高位貴族たるオズワルドの放つ『氷華結界』と『絶対零度の床』が、特務隊の行く手を阻みます。
近づくことすら不可能な死の白銀世界。魔法至上主義の圧倒的な絶望を前に、魔力を持たぬ少年の皮を被った鬼局長・アレンが、前世の凍土で培った不骨なる戦術で牙を剥きます――!
「無知な平民どもが。魔導の神髄、広大な空間でこそ活きるわ!」
至近距離での壁際ハメを狙った特務隊の奇襲。それを室内不利と瞬時に見抜いたオズワルド伯爵は、一瞬の無詠唱で部屋の窓ガラス全体を極低温で結晶化させ、粉々に砕きながら夜の庭園へと鮮やかに飛び降りた。
追うのは、夜風に浅葱色の羽織を激しくなびかせるアレン。
だが、外の広大な空間はオズワルドの独壇場だった。
「ひれ伏せ、家畜ども! 『氷華結界』!」
オズワルドが杖を突き立てると、庭園の水分が総動員され、彼を中心に滑らかな鏡面を持つ氷のドームが展開された。ミアの放った短刀は鏡面に滑って虚しく弾かれ、ドームに乱反射するオズワルドの残像が特務隊の視界を惑わせる。
これこそが、この世界の人間が魔法使いに絶対服従する理由――魔法至上主義の圧倒的な力。
「さらに凍れ! 我が領域に足を踏み入れる愚者どもに、絶対の静寂を! 『絶対零度の床』!」
オズワルドの冷酷な声と共に、庭園の芝生が一瞬にして白銀の氷床へと変貌した。
摩擦係数ゼロ。どれほど優れた剣士であっても、足場がなければ踏み込むことすらできない。さらに時間差で、氷床の底から鋭利な氷の棘が次々と突き上げてくる。
近づくことすら不可能な、死の氷のフィールド。
オズワルドは勝局を確信し、冷酷に微笑んだ。
だが――アレンの瞳から、光は消えていなかった。
(なるほどな。綺麗に整えられた氷の上じゃ、まともに地を蹴ることもできねぇか)
アレンは迫り来る氷の棘を最小限の体捌きでかわしながら、不敵に口元を歪める。
前世の戊辰戦争、雪深い会津や箱館の凍土を幾度となく這いずり回った土方歳三にとって、凍った地面など見慣れた戦場の一つに過ぎない。
(滑って踏み込めねぇなら――踏み込める足場を、その場で作ればいいだけだ)
アレンは和泉守兼定を逆手に構え直すと、極限まで姿勢を低くした。
次の瞬間、オズワルドの目が驚愕に見開かれる。
「……なぁっ!?」
アレンは凄まじい脚力で地を滑るように前進しながら、手にした兼定の刀身を、容赦なく足元の氷床へと突き立てたのだ。
キィィィィィン!!!
凍てつく庭園に、耳を裂くような硬質な破壊音が響き渡る。
アレンは刀を氷に突き刺したまま、己の凄まじい腕力と前進の慣性だけで、氷の床を力任せに「割り裂きながら」爆進した。
名刀・兼定が氷床を両断し、左右へと白い氷の結晶が派手に吹き飛ぶ。
夜闇の白銀の世界、飛び散る氷飛沫のただ中を、鮮烈な浅葱色の羽織が弾丸のごとき速度で突き抜けていく。
アレンはその破壊の衝撃によって無理やり「摩擦」を生み出し、滑るはずの氷の上で、絶対に不可能と言われた爆発的な推進力を得たのだ。一瞬にして氷床をズタズタに引き裂き、氷の棘が突き上げるよりも早く、オズワルドの結界へと肉薄する。
まさに、魔法の理屈を力業でねじ伏せる剣鬼の離れ業。
「化け物め……! だが、この結界は破れん!」
狂乱するオズワルド。だが、アレンはすでに次の手を打っていた。
氷を裂き、結界の直前で刀を執念で引き抜いたアレンは、即座に刀を順手に持ち直す。狙うは鏡面の結界、その一点。
(面で叩けば滑る。なら、点で穿つ!)
全身の体重、独立した推進力のすべてを、刀の「切っ先」一点へと集中させる。
天然理心流――平突き。
ドガァァァァァン!!!
凄絶な一撃が結界の芯を捉えた。一点から蜘蛛の巣状の亀裂が走り、オズワルドが絶対の自信を持っていた氷のドームが、ガラス細工のように派手に粉砕されて夜空に散った。
「ひっ、あ、あり得ん! 魔力も持たぬ家畜がぁ!」
結界を破られ、初めて「死の恐怖」に顔を歪めるオズワルド。彼は最後の悪あがきとして、至近距離からアレンを凍らせようと、必死に両手をかざして魔力を練ろうとする。
だが、戦場のプロが、その詠唱の一瞬を見逃すはずがなかった。
「凍れぇぇぇ!」
「見栄えが良いだけの魔法は、本物の戦場じゃ命取りだ」
冷徹な声と共に、アレンの左手が電光石火の速さでオズワルドの手首を掴み、その軌道を上空へと強引に逸らした。直後、オズワルドの頭上の夜空だけが虚しく白銀に凍りつく。
アレンは間髪入れず、右手の兼定を「峰返し」にした。
「捕縛が条件だ。死なさねぇように手加減してやるよ」
――ゴンッ! バキキッ!!
「ぎゃあああああああああああっ!!!」
庭園に、オズワルドの無惨な絶叫が響き渡った。
アレンは和泉守兼定の硬い「峰」で、オズワルドの魔法の発動起点である「手の甲」と「指の関節」を精密に叩き潰したのだ。骨を砕かれ、もはや魔力を正確に構成することは不可能な状態。
それだけでは終わらない。アレンは激痛に悶絶するオズワルドの軸足を容赦なく蹴り抜き、完全に床へと組み伏せた。そのまま、ルシアンから受け取ったバルカス特製の魔力を霧散させる手枷を両手にはめ込み、声を上げさせないための猿轡を口に叩き込む。
「……ふぅ。大物貴族様が、随分と無様な格好だな」
両手の手指を潰され、簀巻きのように拘束されたオズワルドは、涙と鼻水で顔を濡らしながら、芋虫のように地面をのたうち回ることしかできなかった。
静寂が戻った庭園。ズタズタに裂かれた氷のフィールドの真ん中で、アレンは刀に付着した冷気と脂を軽く振り払い、静かに鞘へと収めた。
その背を覆う浅葱色の羽織には、一切の氷の結晶すら寄せ付けない圧倒的な風格が漂っていた。
後方から、ボルドとミアが、畏怖と感嘆の入り混じった目で駆け寄ってくる。
「総員、予定通り撤収する。この『荷物』を、ガラルド様の元へ届けるぞ」
浅葱色の羽織を翻し、アレンは冷酷に言い放った。
領都の夜に、新選組の容赦なき逆襲が、いま完璧に完遂された瞬間だった。
第24話をお読みいただきありがとうございました!
オズワルド伯爵の誇る氷結魔法を、文字通り「物理」と「戦術」で粉砕したアレン!
名刀・兼定を氷に突き立てて爆進するシーンや、天然理心流の平突きでの結界破壊など、魔力を持たないアレンだからこその圧倒的な強さが爆発する回となりました。潰された手指にバルカス特製の手枷をハメられたオズワルドは、もう二度と這い上がれません。
見事、最高難易度の「生け捕り」の密命を果たした特務隊。
これを受けた領主ガラルド、そして相棒ルシアンはどう動くのか……!? スラム編、いよいよ激動の結末へ!
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