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第2話:鬼の再鍛(さいたん)

いじめっ子たちが涙を流して逃げ去った後、土方は激しい動悸に眉をひそめた。


「……はぁ、はぁ……ちっ、このザマか」


わずかに数歩踏み込み、木の棒を一振りしただけだ。

それだけで心臓が早鐘を打ち、視界がちかちかとする。掌を見れば、先ほど石を受け止めた場所が赤黒く腫れ上がっていた。


(……呆れたもんだ。これでは刀を振るうどころか、赤子の手を捻るのも一苦労だな)


函館の地で、銃弾を浴びてもなお前進しようとしたあの肉体は、もうここにはない。

あるのは、栄養が足りず、虐げられてひび割れた、あまりに脆い「器」だ。土方は奥歯を噛み締め、己の不甲斐なさに激しい苛立ちを覚えた。


「ア、アレン! 大丈夫!? その手、見せて……!」


心配そうに駆け寄ってきた少女が、土方の腫れた手を覗き込もうとする。

だが、土方はその手を無造作に引き、一瞥もせずに歩き出した。


「……触るな。かすり傷だ」


「えっ……でも、すごく腫れてるし、それに今の……」


戸惑う少女を置いて、土方はふと足を止める。

そこで、重大なことに気づいた。この少女が一体誰なのか、名前すら思い出せないのだ。


「……おい。お前、名は?」


「……え?」


少女の動きが、凍りついた。

大きな瞳に動揺が広がり、顔が引き攣る。


「な、何言ってるの……? 私だよ、リナだよ。幼なじみの……冗談、だよね?」


「リナ、か。悪いが、先ほど頭を打ったせいか……何も思い出せねぇ。お前のことも、自分の親の顔もな」


土方の突き放すような冷徹な物言いに、少女――リナは絶句し、その場にただ立ち尽くした。


     *


それからの土方の生活は、村の人間から見れば「憑き物」が落ちたのではなく、むしろ「恐ろしい何かが取り憑いた」ように見えた。


記憶を失った息子に戸惑う両親を余所に、土方は夜明けと共に這い出し、まずは走った。

足がもつれ、肺が焼けるような痛みに襲われても、絶対に歩みを止めない。


「……戦えぬ体など、ただの肉塊だ」


目標は明確だった。まずは「戦える体」を取り戻すこと。


基礎体力が戻り始めると、次は裏山から拾ってきた手頃な硬さの木を削り、無骨な「木刀」を作り上げた。


シュッ、シュッ――と、空気を切り裂く鋭い音が山に響く。


それは、異世界の誰も見たことがない剣技。

天然理心流の基本――そして、かつて実戦の修羅場で磨き上げた、泥臭くも寸分の無駄もない一振り。


雨の日も、傷口から膿が出ようとも、土方は一心不乱に木刀を振り抜いた。

その瞳には、平和な村の風景など一切映っていない。


ただ、かつて見たあの赤い戦場と、己の「誠」を貫くための、研ぎ澄まされた刃だけを追い求めていた。

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