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第19話:泥中に咲く誠、あるいは屯所鍋

第19話をお読みいただきありがとうございます!

ありもしない罪で闇ブローカーに拉致された猫耳の少女ミア。

スラムの司法権を預かる特務隊局長アレンは、悪党どもの杜撰な嘘を冷徹に暴き、現行犯での処断を宣言します。異世界の魔法を相手に、前世の修羅場をくぐり抜けた天然理心流の白刃が縦横無尽に吹き荒れます――!

1. 「法」の執行人

スラムの端、悪徳ブローカーたちが根城にする、古びた石造りの倉庫。


中では、数人の武装した男たちが、縄で縛られたミアを囲んで下卑た笑みを浮かべていた。


「へへ、見ろよこの上質な毛並み。猫耳の獣人なんざ、領都の裏オークションに流せば、貴族の旦那方が金貨の山を積んで買い取るぜ」


「隣の商業区のパン屋からパンを盗みやがったってことにしときゃ、スラムの連中も文句は言えねえ。お上の騎士団だって、この街を見捨てて逃げ出したんだ。誰もこのガキを助けにゃ来ねえよ」


ミアは床に転がされながらも、鋭い目で男たちを睨みつけていた。


(……やっぱり、大人はみんな汚い。お上の犬も、こいつらも、みんな同じだ……!)


絶望と怒りで奥歯を噛み締めた、その時だった。


――ドンッ!!!


凄まじい衝撃音と共に、倉庫の頑丈な木扉が、内側へ向かって派手に吹き飛んだ。

爆風と木片が舞う中、男たちが武器を手に取ってうろたえる。


「な、なんだぁっ!?」


土煙の向こうから現れたのは、夜の闇に溶け込むような黒い外套を纏った男たち――アレン率いる特務隊の面々だった。

アレンは腰の和泉守兼定の柄に手をかけたまま、冷徹な足取りで倉庫へと足を踏み入れる。


「何者だてめえら! ここを誰のアジトだと思って――」


ボスの男が怒鳴り散らすが、アレンはそれを冷たく見下ろし、懐から一枚の書状を取り出して突きつけた。


「特務隊局長、アレンだ。このスラムの警備権、および臨時の司法権は、ガラルド領主代行より我が隊が正式に預かっている。……そこな少女を『パンの窃盗罪』で拘束したというのは、本当だな?」


アレンの理路整然とした、あまりに堂々たる態度に、ボスの男は一瞬気圧されながらも、ふんぞり返って鼻で笑った。


「ああ、そうだ! その獣人のガキが隣の町の大きなパン屋からパンをぶち盗みやがったんだよ! スラムにまともな店がねえのをいいことに、遠征しやがったのさ。だから俺たちが『市民に代わって』捕まえてやったんだ。文句はねえだろ、お役人さんよぉ?」


「なるほど、文句はない。事実であればな」


アレンは淡々と言った。

だが、その切れ長の目が、獲物を捉えた狼のように細められる。


「だがな――我が隊の調べによれば、お前たちが指す隣の町のパン屋は、今日の昼過ぎ、仕入れの不手際で早々に店を閉めている。さらに言えば、市場の商業ギルドに確認したが、今日スラムの子供による窃盗の報告は一件も上がっていない」


わざわざ他区の店を持ち出して嘘の口実にしたようだが――。


「裏を取るのが甘いんだよ」


アレンは和泉守兼定をゆっくりと引き抜いた。

抜き付けられた白刃が、倉庫の僅かな灯りを反射して冷たく光る。


「お前たちが主張する『窃盗の罪』は虚偽。その実態は、ありもしない罪をでっち上げた『不法な拉致、および人身売買未遂』だ。……我らが特務隊の『法』に基づき、現行犯で処断する」


「チッ、ハメやがったな! やっちまえ、数ならこっちが上だ!」


ボスの号令と共に、十数人の悪党たちが一斉に抜刀し、アレンへと襲いかかった。


2. 天然理心流、異世界に吠える

「フッ――」


襲いかかる悪党たちの動きが、アレンの目には酷く緩慢に映った。


前世の京の都で、命を賭けた極限の殺し合いを生き抜いてきた土方歳三だ。魔法の身体強化すら受けていないゴロツキの剣など、止まっているも同然だった。


最前線の男が大きく剣を振り下ろした瞬間、アレンは一歩前へ踏み込み、紙一重でその刃をかわす。すれ違いざま、アレンの左拳が男の顎へと正確に叩き込まれ、脳を揺らされた男が白目を剥いて倒れ込んだ。


「このガキぃッ!」


左右から同時に二人の男が斬りかかってくる。

アレンは和泉守兼定を逆手に持ち替えると、流れるような円の動きで二人の剣をまとめて受け流し、そのまま目にも留まらぬ速さで刀の『さや』を突き出した。みぞおちを正確に穿たれた男たちが、呼吸を奪われてその場に崩れ落ちる。


アレンの足運びは、前世で培った「天然理心流」そのもの。

実戦のために無駄を極限まで削ぎ落とした、泥臭くも最強の殺人剣。だが、ここは公の法を執行する場。無駄な殺生はせず、全て刀の峰、あるいは鞘のこじりによる一撃で、確実に相手の戦闘能力だけを奪っていく。


その圧倒的な無双劇の最中、追い詰められた一人の悪党が、パニックを起こして叫んだ。


「う、うわああ! 来るな、来るなぁぁッ!」


男はアレンではなく、床に転がっているミアに向けて短杖スタッフを突き出した。

自暴自棄になった暴発気味の魔法――赤黒く燃え盛る火弾が、縛られたまま動けないミアの至近距離へと放たれる。


「あ――」


ミアが恐怖に目を見開いた、その一瞬。


ミアの視界を遮るように、漆黒の外套がバサァッと激しく翻った。

アレンが肉眼では捉えきれない速度で地を蹴り、ミアの目の前に割り込んだのだ。


「――法を破る上に、我が隊の目の前で身内に手を出すか。外道め」


アレンは一切の動揺なく、上段に構えた和泉守兼定を――。

ただ一閃、凄まじい速さで振り下ろした。


キィィィンッ!!!


大気を引き裂くような鋭い金属音が響く。

魔力の塊であるはずの火弾が――アレンの常軌を逸した「純粋な剣速と鉄の鋭さ」によって、文字通り真っ二つに両断された。


左右に裂けた炎が、倉庫の壁にぶつかって激しく爆ぜ、火の粉となって虚空に消えていく。バルカスの打った極上の鋼は、魔力の奔流すら易々と切り裂いてみせたのだ。


「ま、魔法を、刀で斬った……!?」


杖を持った男が腰を抜かしてへたり込む。アレンはその男の脳天を、兼定の峰で容赦なく叩き割った。


ものの数十秒で、立ち上がっているのはボスの一人だけとなった。


「あ、あ、ありえねえ……騎士団の奴らだって、こんな……」


ガタガタと震えるボスの首筋に、アレンは冷たい刃をピタリと突きつけた。


「我が隊の初仕事を汚した罪、牢の中でたっぷり償ってもらう。……連れて行け」


後ろに控えていた隊士たちが「へい!」と威勢よく答え、悪党たちを紐で縛り上げていく。かつてのゴロツキだった彼らも、アレンの圧倒的な強さに完全にシビれていた。


アレンは刀を鮮やかに鞘へ収めると、ミアの元へ歩み寄り、腰を落として和泉守兼定の刃で彼女の縄をスッと切り離した。


「怪我はねえか、泥棒猫」


ミアは自由になった手首をさすりながら、呆然とアレンを見上げていた。

魔法を刀で切り裂いてまで自分を守った、黒い外套の少年。


「あ……あんた、なんなのよ……。なんで、私なんか助けたの……?」


まだ完全にツンツンとした、しかしどこか怯えと畏怖の混じった声で呟くミア。

アレンは不骨に告げた。


「ガキを助けるのに、大層な理由は要らねえよ。……行くぞ、お前の大事な身内どもが待ってる」


3. 屯所鍋と、鬼局長の大爆笑

「ミアお姉ちゃん!!!」


特務隊の駐屯地(屯所)の扉を開けた瞬間、飛び出してきた子供たちが、ミアの体に次々と飛びついた。


「みんな……! よかった、無事だったんだね……!」


ミアは子供たちをきつく抱きしめ、その大きな瞳からポロポロと涙をこぼした。

子供たちの無事を確認し、ホッと胸をなでおろしたミアだったが、ふと鼻をくすぐる、たまらなく美味しそうな「匂い」に気づく。


クツクツと音を立てて煮える、肉と野菜の濃厚なスープの香りだ。


匂いの元である厨房の方へ視線を向けたミアは、その瞬間、涙も止まるほど呆気にとられて硬直した。


「お、おい局長! 戻ったか! ミアのガキも無事なんだな!?」


そこに立っていたのは、身長190センチ近い、筋肉の塊のような大男――ボルドだった。

その凶悪な強面の顔に、ゴツい身体。しかし……あろうことか彼は、自身の巨体には明らかにサイズが小さすぎる、フリルのついた『家庭用のお下がりエプロン』を、パツパツの状態で身につけていたのだ。


手には大きな木ベラを持ち、スープの鍋を一生懸命かき混ぜている。


「ぶっ……ははははは!」


それを見たアレンが、普段の冷徹な仮面をかなぐり捨てて、お腹を抱えて吹き出した。

いつも「鬼の局長」として隙を見せないアレンが、これほど大声を上げて笑うのは初めてのことだった。


「おいボルド……! ククッ、なんだその格好は! 似合わねえにも程があるだろ!」


「なっ、笑うなよ局長! 屯所にこれ一枚しかエプロンがなかったんだよ! ガキどもが腹を空かせて泣くから、俺が特製の『屯所鍋』を急いで作ってやってたんだ! ほら、お前らも大人しく座って食え!」


ボルドは真っ赤になりながら、子供たちの器に、不器用に、しかし肉がたっぷり入ったスープを大盛りでよそっていく。


「わあ、美味しそう……! ボルドおじちゃん、ありがとう!」


「おじちゃんじゃねえ、アニキと呼べ!」


そんな二人のやり取りを見て、ミアはポカンとした後、ふっと口元を緩めた。


(なんなの、この人たち……。すっごく強いのに、すっごく変……)


すると、スープを美味しそうに口に運んでいた子供たちが、スプーンを置いてアレンの前にちょこちょこと歩み寄ってきた。そして、小さな体を丁寧に折って、声を揃えて頭を下げた。


「アレンのお兄ちゃん、ミアお姉ちゃんを助けてくれて、本当にありがとうございました!」


「お兄ちゃんたちが来てくれて、すっごくカッコよかった!」


真っ直ぐで純粋な子供たちの感謝の言葉。

アレンは一瞬だけ驚いたように目を丸くしたが、すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべ、子供たちの頭を順番に優しく小突いた。


「礼なら俺じゃなく、留守番中に美味い飯を作って待ってたボルドに言いな。……ほら、冷めねえうちに全部食っちまえ」


「ほら、お前も食え」


ボルドがミアの前に、湯気の立つ特大のスープ皿をドン、と置いた。

じっとスープを見つめるミア。お腹の虫がグウ、と小さく鳴る。


アレンはそんなミアに、静かに語りかけた。


「言っただろ。俺たちの組織に入れば、飯だけは不自由させねえってな。……よく味わって食え、我が隊の『未来の密偵』さんよ」


ミアは耳をパタパタと震わせ、スープを一口、口に運んだ。


(……ずるいよ。あんなに強いのに、こんなに温かいなんて、反則じゃん……)


口いっぱいに広がる美味さと温かさが、冷え切っていた彼女の心を、少しずつ溶かしていくのだった。


こうして特務隊は、スラムの「民の心」を完全に掌握した。

だが、それは同時に、これまでスラムを裏で牛耳ってきた闇ギルドの利権を、正面から叩き潰したことを意味していた。日陰の狼たちの前に、さらなる激動の嵐が迫りつつあった。

第19話をお読みいただきありがとうございました!

人身売買の悪党どもを一蹴し、ミアを救い出した特務隊。アレンが魔法を刀で一刀両断するシーンは、まさに前世の執念とバルカスの鋼が成せる業ですね!

そしてラストのボルドのエプロン姿と、みんなで囲む温かい「屯所鍋」。これぞ新選組の日常という雰囲気で、ミアが少しずつ心を開いていく姿に胸が熱くなります。


スラムの平民を味方につけ、着実に外堀を埋めていくアレン。

しかし、これで闇ギルドとの全面抗争は避けられないものに――!

次回の展開も気になる!面白い!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや、広告下の【☆☆☆☆☆】評価での応援をよろしくお願いいたします!

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