表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/71

第15話:地獄の局中法度、始動

第15話をお読みいただきありがとうございます!

ついに始動したルシアン直属特務隊。しかし集まったのは、魔力なし、素行不良の落ちこぼれたちでした。彼らを値踏みする荒くれ者に対し、アレン(土方)は木刀一本で「本物の戦」を教え込みます。

地獄の特訓の果てに、アレンが彼らに与えたのは――あの【鮮烈な水色の羽織】でした。そして、狼たちの遠吠えが響く中、最悪のタイミングで初陣の報せが届きます!

グランヴェル領の片隅にある、普段は使われていない古い練兵場。

そこに集められた五十人の男たちは、一様に不満と困惑が入り混じった表情を浮かべていた。


彼らは、お世辞にも「精鋭」とは呼べない有象無象だった。

魔力が基準に達せず騎士団をクビになった落第騎士、食い詰めて傭兵崩れになった平民、血気盛んなだけで行き場のない街のゴロツキ。


「おいおい、ルシアン様の直属部隊だって聞いて来てみりゃあ……」


不機嫌そうに声を荒らげたのは、大柄な元騎士の男、ボルドだった。

彼は、特務隊の隊長として目の前に立つ小柄な黒髪の少年――アレンを、値踏みするように睨みつける。


「おい、ガキ。ルシアン様の気まぐれに付き合わされるのは御免だ。お前、魔力を持ってねえんだろ? そんなひ弱な坊ちゃんが、俺たちの隊長だってか?」


周囲の男たちから、下品な嘲笑が漏れる。

異世界において「魔力がない」ということは、それだけで無能の烙印を押されるに等しいからだ。


だが、アレン――その肉体に宿る「鬼の副長」土方歳三は、眉一つ動かさなかった。

ただ冷徹に、男たちの骨身の品性を測るように見据えている。


「能書きはいい」


アレンは足元に転がっていた、重く頑丈な木の素振り棒をボルドの足元へ容赦なく蹴り飛ばした。

そして、自分も同じ木の棒を一本、片手でひょいと持ち上げる。


「かかってきな。口を動かす前に、まずはその鈍った体を動かせ」


「――あぁん? ナメやがって、ガキがッ!」


ボルドの顔が怒りで真っ赤に染まる。

彼は木の棒をひったくるように拾い上げると、体内にわずかに残る魔力を循環させ、身体強化の魔法を発動した。

ドッとボルドの体が膨れ上がったように見え、凄まじい突進力でアレンへと肉薄する。


大振りな一撃が、アレンの脳頭がけて容赦なく振り下ろされた。

男たち全員が「あいつ、死んだな」と確信した、その瞬間――。


アレンの姿が、かき消えるようにブレた。


「なっ――!?」


ボルドの視界から、完全にアレンの姿が消える。

天然理心流の極意――最短最速の踏み込み。アレンはボルドの懐、魔法の身体強化が最も手薄な「死角」へと、わずか一歩で深く潜り込んでいた。


アレンの木の棒が、ボルドの突き出したあごを下から激しく跳ね上げる。


ガツンッ!


肉と木が衝突する凄絶な音が響き、ボルドの巨体が無様に宙に浮いた。

間髪入れず、アレンは流れるような美しい動作で、木の棒をボルドの鳩尾みぞおちへと深く突き刺した。


「が、はっ……!?」


魔力の防御壁を張る暇すら与えない、純粋な『武』の衝撃。

ボルドは白目を剥き、練兵場の泥の中へと派手に転がって悶絶した。


静まり返る練兵場。さっきまで嘲笑っていた男たちの顔から、一瞬で血の気が引いていく。


アレンは木の棒を肩に担ぎ、泥まみれの男たちを見下ろして、鈴の鳴るような低い声で言い放った。


「お前らの大好きな『魔法』とやらは、随分と隙だらけなんだな。……いいか、お前らが今までやってきたのは、綺麗な服を着て、遠くから魔法を撃ち合うおままごとだ。だが、俺が教えるのは、泥を啜ってでも敵の首を獲る『人殺し』の技だ。死にたくねえ奴だけ、俺の後についてきな」


それが、特務隊にとっての「地獄」の幕開けだった。



そこからの訓練は、異世界の住人である彼らにとって、常軌を逸したものだった。


「走れ! 魔力が切れたらただの案山子かかしになるような奴は、戦場じゃ真っ先に死ぬんだよ!」


アレンの怒号が響く中、男たちは魔力による身体強化を一切禁じられ、純粋な脚力だけで練兵場を何十周も走り込まされた。

息が切れ、足がもつれ、泥に塗れても、アレンは容赦なく木刀で彼らの尻を叩く。

何より絶望的だったのは、そのアレン自身が、誰よりも重い荷を背負い、誰よりも涼しい顔で先頭を走っていることだった。


さらに、対魔法使いを想定した「アンチ魔法」の徹底的な対人訓練。


「おい、詠唱を始めるな! 呪文の最初の一文字を聴いた瞬間、考える前に間合いを詰めて喉を突け!」


二人一組になり、魔法を発動しようとする相方の懐へ、泥を蹴って突撃する。

美しい魔法の詠唱や、華麗な杖の振り方など、アレンの前では何の意味も持たなかった。

アレンが教えるのは、敵の隙を徹底的に突き、泥臭く、確実に息の根を止める戦術のみ。


「一人で勝てねえなら、三人でハメ殺せ! 一人が盾で視界と射線を遮り、残りの二人が死角から同時に心臓を突き刺す!」


プライドなんて犬にでも食わせろ。


「勝てば官軍だッ!」


最初は激しく反発していたゴロツキたちも、数日が経つ頃には、文句を言う気力すら失っていた。

だが、彼らの肉体には確実に、魔力に頼らない強靭な芯が作られつつあった。

何より、泥まみれになりながらも、アレンを見る彼らの目は、かつての「諦め」から、野生の「狼」のような鋭い輝きへと変わっていった。



訓練開始から二週間。

夕暮れ時の練兵場に、生き残った四十数名の男たちが一糸乱れぬ姿勢で整列していた。

数名は途中で音を上げて逃げ出したが、残った者たちの面構えは、二週間前とは見違えるほど精悍になっていた。


彼らの前には、いくつか大きな木箱が置かれている。

アレンが合図をすると、その木箱が開けられた。


「……これは?」


ボルドが目を見張る。

中に入っていたのは、ルシアンを通じて職人バルカスたちに急ぎで作らせた、特務隊の隊服だった。


それは、この世界のどこの騎士団の鎧とも、魔術師のローブとも違う衣服だった。


鮮やかな、目の覚めるような水色――「浅葱色あさぎいろ」の羽織。

その袖口には、白い山型の「ダンダラ模様」が鮮烈に染め抜かれている。


「一人ずつ受け取りな」


アレンの言葉に、男たちは緊張した面持ちで羽織を手に取り、袖を通していく。

頑固者のドワーフ職人バルカスが「おいおい、アレンの坊主。注文通り『刃が通りにくく、それでいて限界まで動きやすい』ように仕立ててやったが……一体これで何をする気だ?」と呆れ果てた、実戦特化の特異な外套。


ひんやりとした夕方の空気の中、鮮烈な水色の羽織を纏った男たちが並ぶ。

先頭のボルドは、その胸の内に奇妙な熱い高揚感を覚えていた。


かつて魔力不足でエリート騎士団を追われたプライドは、すでにない。あるのは、この底知れない少年隊長の下でなら、もう一度「本物の武人」として世界の頂点に噛み付くことができるかもしれないという、飢えた野心だった。


落ちこぼれだった俺たちが、今、一つの強固な「塊」になった。


アレンは満足そうに小さく頷くと、最後に、氷のように冷たい視線で全員を見据えた。


「今日からお前たちは『特務隊』……いや、グランヴェル領の『狼』だ。その羽織を着た以上、お前たちを縛るのはただ一つ。前に読み上げた『局中法度』だけだ」


アレンは腰の和泉守兼定の柄に手をかけ、厳かに告げる。


「――背中を見せた奴は、俺が直々にブチ殺す。覚悟はいいな?」


死の宣告に等しい言葉。

しかし、男たちの胸に宿ったのは恐怖だけではなかった。彼らはニヤリと獣のような不敵な笑みを浮かべると、地を震わせるような咆哮で応えた。


「「「おおおおおおおおおッ!!!」」」


異世界の理をひっくり返す、水色の狼たちが、ついに産声を上げた。


――だが、その産声が響き渡る中、練兵場の門が激しく叩き開けられた。


「アレン! 特務隊を動かせるか!?」


息を切らせて飛び込んできたのは、冷汗を流したルシアンだった。

その手には、領内の闇組織が「今夜、大規模な密輸と誘拐を決行する」という緊急の報せが握られていた。


「……チッ、初陣が随分と早まりやがったな」


アレンは不敵に唇を歪めると、兼定をサヤごと親指で小さく弾いた。

ギラリと、夕日に刀身が冷たく輝く。


「野郎ども、着替える暇はねえ。――行くぞ」

ついに、ついに異世界に【浅葱色の羽織】が降臨しました!

魔力なしの落ちこぼれたちが、アレン(土方)の地獄のしごきによって「狼」へと生まれ変わり、あのダンダラ模様を纏うシーンは執筆していて胸が熱くなりました!


しかし、余韻に浸る間もなく、領内の闇組織による大規模犯罪の報せが。

次回、新選組の戦術を叩き込まれた特務隊の【初陣・夜襲編】が始まります!

水色の羽織が闇夜にどう舞うのか、気になる!面白い!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】の評価(カクヨムなら★)で応援をよろしくお願いします!皆さんの応援が何よりの執筆の原動力です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ