第14話:新星の胎動
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バルディア帝国の脅威が迫る中、アレン(土方)は既存の騎士団を捨て、全く新しい「実戦特化」の独立部隊を創設することをルシアンに提案します。
集まったのは、魔法至上主義の底辺に沈む落ちこぼれたち。そんな彼らの前に立ったアレンの懐から取り出されたのは、かつて京の都を震撼させた【あの忌々しくも絶対的な鉄の規律】でした――!
「――アレン。君の言う通り、我が家の騎士団には戦術の構造的な『ほころび』がある。これほどの弱点を放置するわけにはいきません。領地に戻り次第、君に騎士団の指導権、あるいは指揮権のすべてを委ねたいと考えているのですが」
王都から帰還したド・グランヴェル家の執務室。
ルシアンは机の上の地図を見つめながら、かつてないほど真剣な面持ちで切り出した。バルディア帝国の足音が近づく今、軍の改革は一刻を争う。
しかし、土方は和泉守兼定の柄に手を置いたまま、静かに首を振った。
「ありがたい話だが、それは断る」
「何故です? 君の頭の中にある『軍としての連携』があれば、我が家の騎士団はより強固なものになります」
ルシアンの純粋な疑問に対し、土方は前世の記憶を反芻していた。
徳川幕府という巨大で古い組織、そしてそれを壊して新たな時代を作ろうとした新政府軍。双方がどれほど長い時間を費やし、無駄な血を流し合ってきたかという、歴史の重みと教訓。
「古い組織というものは、壊すにしても立て直すにしても、とにかく無駄な時間がかかる。短期間でどうにかなるわけがねぇ。あの大部屋の騎士どもを根底から叩き直そうとすれば、頭の固い上層部や伝統とやらが必ず足を引っ張る。……戦火が近づいている今、そんな悠長な真似をしている暇はねぇんだよ」
土方はルシアンを真っ向から見据え、自らの不敵な意思を告げた。
「ルシアン、既存の騎士どもは後回しだ。あれはあれで、数の力として防壁にでも使えばいい。俺が欲しいのは、既存の枠組みに囚われない、全く新しい『実戦特化型』の組織だ。身分も、魔力の有無も関係ねぇ。どんな泥を啜ってでも、お前の命令を完璧に遂行する独立部隊を、俺に作らせろ」
ルシアンは驚きに目を見張った。
代々続く騎士団を「ただの防壁」と言い切る冷徹さ。しかし同時に、その切れ長の瞳に宿る絶対的な確信に、若き主はゾクゾクとした武者震いを覚えた。
「……古い組織の再生ではなく、新組織の設立ですか。面白いですね、アレン。いいでしょう、あなたにド・グランヴェル家の名において、一切の制約を受けない独立部隊の結成と、その全権を認めます。君の理想とする『軍』を、私に見せてください」
■ 狼の召集
数日後、領内の各所に「ルシアン直属特務隊」の募集の触れ書きが張り出された。
『身分不問。魔力の有無も問わない。求むは、死線を潜り抜ける覚悟のある者のみ』
というあまりにも異例な条件に、領内は騒然となった。
選考の当日、広大な練兵場に集まったのは約五十名。
うだつの上がらない下級戦士や、魔力が低すぎて魔法学校を退学になった落ちこぼれ、その日暮らしの平民の若者。いわば、この魔法至上主義の世界から溢れ落とされ、絶望の底にいた有象無象の集まりだ。
「おい、本当にここに入れば飯が食えるのか?」
「魔力ゼロのガキが隊長だって噂だぞ、おい……」
集まった彼らが口々に不満や不安をこぼし、騒然とする中――。
黒い革鎧を身に纏い、腰に和泉守兼定を差した土方が、静かに彼らの前に立った。
ただそこに立ち、一同を冷徹な眼光で一瞥する。
その瞬間、練兵場の空気が一瞬で、まるで冬の函館の凍土のように凍りついた。
数多の修羅場で数千、数万の命を奪い、そして導いてきた本物の「鬼」の気魄。言葉を交わす前だというのに、荒くれ者たちの背筋に冷たい戦慄が走り、場は冷水を浴びせられたように静まり返った。
土方はゆっくりと口を開いた。
その声は低く、しかし全員の鼓膜へ驚くほど明瞭に突き刺さる。
「ここへ来たからには、ただの平民も、落ちこぼれも関係ねぇ。貴様らが今までどんな泥水を啜って生きようが、俺の知ったことではない。……だが、ここで何者かになるチャンスを与える代わりに、この部隊には絶対の鉄則を設ける」
土方は懐から、一枚の古びた羊皮紙を取り出した。
そこに書かれた文字は、冷徹な漆黒のインクで刻まれている。
「今から読み上げる規律は絶対だ。破った者は、言い訳無用で処罰する。よく耳の穴をかっ穿いて聞いておけ」
土方の大人びた、しかし背筋が凍るような冷徹な声が響く。
それはかつて京の都を震撼させ、最強の剣客集団を造り上げた、新選組『局中法度』の異世界版であった。
「一、騎士道に背くまじき事。――ただし、ここで言う騎士道とは、俺とルシアンの命令のことだ。既存の生ぬるい騎士の常識は捨てろ。主命こそが貴様らの唯一の正義だ」
「一、隊を脱するを許さず。――一度でもこの門をくぐったなら、逃亡は一切許さん。足を踏み入れたなら、死ぬまでこの旗の下で戦え。背を見せた者は、俺が後ろから斬る」
「一、私に闘争するを許さず。――身内でのいざこざ、私怨での殺し合いは絶対に許さん。敵に放つべき牙を身内に向けた瞬間、俺がその首を刎ねる」
冷酷極まるその規律が提示された瞬間、若者たちの間に、ビリビリとした恐怖の戦慄が走った。
「な、なんだこの決まりは……」
「冗談じゃねえ、これじゃあまるで、死ねと言っているような……!」
一人の体格の良い大男が、恐怖を誤魔化すように一歩前へ出て叫んだ。
「おい、いくら領主様の命令だからって、そんな横暴が――」
男の言葉が、唐突に途切れた。
気がつけば、土方が男の鼻先一寸の距離に立っていた。
いつ動いたのか、誰もその足捌きを視認すらできなかった。土方の右手が兼定の柄にかけられ、鯉口がわずかに切られている。剥き出しになった数センチの刃が、太陽の光を反射して怪しく煌めいた。
「不満がある奴は、今すぐ去れ」
土方の氷のような声が、大男の耳元で囁かれる。
「だが、一度でもこの規律に血判を押したなら、神に祈ろうが仏にすがろうが逃がさねぇ。……俺が求めるのは、泥を啜り、理を覆し、死線を潜り抜ける『覚悟』のある者だけだ」
大男は、土方の瞳の奥にある「本物の死の深淵」を見て、完全に気圧された。カタカタと膝を震わせ、そのまま一歩も動けなくなる。
文句を言う者は、もう一人もいなかった。
集まった落ちこぼれたちの瞳に灯ったのは、圧倒的な恐怖。
そして――この「鬼」についていき、地獄の規律を生き抜いた先には、世界の底辺から世界の理をひっくり返せるかもしれないという、狂信的なまでの期待と熱量だった。
土方は満足げに薄く唇を吊り上げた。
華美な魔法騎士団の影で、異世界の歴史を根本から塗り替える「新たな狼の群れ」が、今、完全に産声を上げた。
ついに異世界版の『局中法度』が宣言されました!
アレン(土方)の圧倒的な威圧感と、逃げ場のない鉄の規律。集まった落ちこぼれたちが、この鬼の副長のもとでどう変貌していくのか、想像するだけで鳥肌が止まりませんね!
いよいよ本格始動する特務隊。
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