第13話:静かなる変革
第13話をお読みいただきありがとうございます!
王都から領地へ戻ったアレン(土方)は、ド・グランヴェル家の練兵場を訪れます。
そこで目にしたのは、魔法に頼りきった、あまりにも実戦からかけ離れた騎士たちの「おままごと」でした。元・新選組副長の容赦ない戦術論が、異世界の常識を根底から覆します――!
王都からの帰路、揺れる馬車の中で土方は、窓の外を流れる長閑な景色を眺めながらルシアンに切り出した。
「ルシアン。領地に戻ったら、騎士団の訓練に俺も混ぜろ」
対等な友人としての、しかし有無を言わせぬ確かな響きを含んだ申し出に、ルシアンは読書していた目を上げた。
「アレンが……? 君の実力なら、もうあの騎士たちから学ぶことなど何もないように見えますが」
「学ぶためじゃない。この世界の連中が、実際にどう戦うのかをこの目で確かめたいだけだ。……少々、興味があってな」
土方は不敵に薄く笑った。
その瞳には、武人としての純粋な知的好奇心と、決して拭いきれない実戦の嗅覚が同居していた。
■ 魔法至上主義の死角
領地へ戻った翌朝、土方はルシアンに連れられ、ド・グランヴェル家の広大な練兵場を訪れた。
そこで土方が目にしたのは、彼が知る「訓練」とは程遠い、あまりにも奇妙でヌルい光景だった。
騎士たちは互いに大きな距離を取り、派手な魔法を撃ち合っている。
炎の球や雷の矢が派手に飛び交うが、当の騎士たちはその場に足を止め、防護障壁の展開に終始していた。
剣を抜いている者は誰一人としておらず、果ては足並みを揃えて進退する集団行動の概念すら存在しない。
「……これが、この世界の『戦い』なのか」
土方の呆れ果てたような呟きに、隣にいたルシアンが静かに頷く。
「左様です。この世界は魔法の出力こそがすべて。大抵の戦争は、互いに頑強な障壁を張って魔法を撃ち合い、味方に被害を出さないよう双方が守りに徹するのです。そして、先に魔力が底を突いた方が降伏する。それが騎士の、エレガントな戦い方なのですよ」
土方は鼻で笑った。
魔法至上主義が産み落とした、剣技の致命的な退化と、集団戦術の圧倒的な欠如。
「……障壁に籠もってのんびり弾の撃ち合いか。まるでガキの陣取り遊びだな。ルシアン、俺なら『散兵式』を提案する。兵をあえてバラバラに散らし、敵に的を絞らせず、最小限の被害で一気に懐へ潜り込んで首を獲る戦い方だ」
「散兵……? 魔法騎士がバラバラに動けば、防御の陣形が薄くなるのではなくて?」
「逆だ。組織としての綿密な連携こそが、最大の防御になる」
土方は親指で練兵場の一角を鋭く指差した。
「攻撃や防御には、個人の限界がある以上、必ずどこかに『ほころび』が出る。そこを集中的に攻め立てられれば、どんな堅牢な陣も一瞬で崩れるものだ。そして、そのほころびの原因は、決まって連携の欠如にある」
土方の低い声が、芯の通った重さで練兵場に響く。
「例えば、障壁を展開している者が想定外の負傷をしたとき、誰が即座にその位置を交代するのか。負傷した者をどうやって即座に安全圏へ退避させるのか。それをあらかじめ仕組みとして決めておかなければ、そいつが担当していた障壁の一部だけがぽっかりと穴になり、そこから軍は全滅する。……組織として動くとは、その予期せぬ穴を全員で埋め続ける仕組みのことだ」
ルシアンは、はっと息を呑んだ。
土方の冷徹な指摘は、過去に彼が経験した小規模な国境紛争での苦い記憶――一人の有力な魔法騎士の魔力切れから、防衛陣形が一気に瓦解した光景――と見事に合致していたのだ。
「……フン、心当たりがあるようだな。エレガントな戦いも結構だが、泥を啜ってでも、どんな手段を使ってでも生き残る術を、お前のところの温室の騎士たちに叩き込んでやる必要があるな」
土方の切れ長の瞳に、かつて京都の街で最強の剣客集団「新選組」をゼロから練り上げ、恐れられた鬼の副長の光が妖しく宿る。
その恐ろしくも頼もしい視線を受け、ルシアンは「……頼むよ、アレン」と、未来の最強騎士団の誕生を確信して深く微笑むのだった。
魔法至上主義の死角を鋭く見抜いたアレン(土方)!
個人の魔力に頼る騎士たちに、新選組流の徹底した「集団戦術」と「組織論」が叩き込まれようとしています。これは地獄の特訓が始まりそうですね(笑)。
次回の「鬼の副長による地獄のしごき編」、騎士たちの反応が気になる!面白い!と思ってくださった方は、ぜひブックマークや、広告下の【☆☆☆☆☆】の評価(カクヨムなら★)での応援をよろしくお願いいたします!皆さんの評価が何よりの執筆の励みです!




