第12話:玉座の残響
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公式の謁見を終え、今度は王の私室へと個別に呼び出されたアレンとルシアン。
王からの直々の問いに対し、アレン(土方)は一介の執事の枠を超えた「乱世の真理」を突きつけます。そして語られる、隣国・バルディア帝国の不穏な影とは――。
公の謁見が終わった後、ルシアンとアレンは王の私室へと個別に呼び出された。
王はゆったりと豪華な椅子に身を預け、目の前に立つ黒髪の少年――アレンを面白そうに見据えた。
「……アレンと言ったか。先ほどの謁見の間での貴殿の言葉、いたく気に入った。そこで重ねて聞きたい。この国の情勢について、貴殿はどう見る」
土方はすっと居住まいを正し、王の鋭い視線を真っ向から受け止めた。
その堂々たる立ち居振る舞いは、一介の年若い執事というよりは、百戦錬磨の軍師や、一国の主君に仕える宿将のそれであった。
「……はっきりと申し上げられるほど、私はこの国の内情に通じているわけではございません。一介の居候執事として、お答えできる立場にはないのです」
王は意外そうに眉を上げ、やがて腹の底から声を立てて笑った。
「ははは! あれほどの殺気と啖呵を切っておきながら、内情を知らぬと言うか。なかなかに食えぬ男だな、貴殿は」
「……ですが、一つだけ確かなことがございます」
土方の低い声に、静かな、しかし有無を言わせぬ熱が宿る。
「どんな国であれ、平和というものは脆く崩れやすいものです。一時の平安に甘んじて牙を抜かれれば、時代は必ずや乱世へと逆行いたします。時代という奔流を見誤り、変化の波に乗り遅れた組織は、内側から腐り、やがて無様に衰退する……。それは、歴史が証明している理でございます」
かつて徳川の世が終わり、近代化の波に取り残されて瓦解していった幕府や武士の姿を、誰よりも特等席で見届けてきた男の言葉だ。
王はその言葉を喉の奥で咀嚼するように黙り込み、やがて深く頷いた。
「……確かに。貴殿の言う通りだ」
王は視線を、アレンの隣で静かに控えていたルシアンへと移した。
「ルシアンよ。では、次代を担う貴殿の目には何が見えている」
ルシアンは一言一言、自らの言葉を噛み砕くようにして答えた。
「……申し上げにくいことではありますが。最近、隣国であるバルディア帝国が軍備を急速に増強しているとの噂が絶えません。国境付近での物流の停滞、魔石の不自然な買い占め……。それらはすべて、一線を越えてこちらへ攻め込んでくるための、明白な前兆に見えます」
王はニッコリと、しかし瞳の奥に冷徹で鋭い光を湛えて微笑んだ。
「……正解だ」
王はそこから、淀みなく現在の世界情勢を語り始めた。
帝国の肥大化する野心、そしてそれに呼応するように国内に潜む腐敗の影。一通りの説明を終えると、王は二人に向き直り、満足げに告げた。
「このような昏い情勢の中、我が国に貴殿らのような若き傑物がいることを嬉しく思う。……これからの活躍、大いに期待しているぞ」
「……過分なお言葉、痛み入ります」
土方はルシアンと共に深く一礼し、静かに王の私室を辞した。
■ 悲しき連鎖
王城を後にし、帰りの夜道を往く馬車の中。
揺られるシートに身を預けながら、ルシアンがふとアレンに問いかけた。
「……ねぇ、アレン。君はずいぶんと戦争の本質に詳しいんだね。まるで、戦いの始まりから終わりまでを、この目で見てきたような言い方だった」
土方は窓の外、遠ざかっていく王都の煌びやかな街並みを眺めながら、独り言ちるように低く答えた。
「……それほどでもねぇさ。ただ、戦争というものは、一度始まれば誰にも止められなくなる悲しい連鎖のようなものだ。互いに正義を掲げるほどに血は流れ、勝っても負けても、最後に残るものは焼け野原と虚しさだけだ……」
その冷めた横顔には、かつて函館の五稜郭で、最後まで誠の旗を掲げて散っていった同志たちの面影を追うような、深い哀愁が滲んでいた。
ルシアンはその圧倒的な孤独の気配に呑まれ、それ以上言葉を重ねることはできなかった。
馬車は静かに、どこまでも深い夜の闇を進む。
だが、この時、二人はまだ知る由もなかった。
ルシアンの語った隣国の不審な動きが、単なる領土争いなどではなく――この世界の根底、そして魔力の概念をも根こそぎ覆すような、巨大な破滅の渦へと繋がっていることを。
王の私室で、世界の危機とも言える「バルディア帝国」の不穏な動きが明かされた第12話でした。
アレンの語る「戦争の虚しさ」は、前世で全てを失うまで戦い抜いた土方歳三だからこそ、言葉の重みが違いますね……。
ついに世界規模の動乱の足音が聞こえ始めました。
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