第5話 『クリスマスのすれ違い――誰より近くて、誰より遠い』
12月24日。
街にはイルミネーションが灯り、赤や緑の飾りで彩られたショーウィンドウが、誰かの幸せを映し出すように輝いていた。
けれど、神谷陽翔にとってのこの日――クリスマスイブは、特別でも、華やかでもなかった。
駅前の大通り、幸せそうに腕を組むカップルの姿。
クラスの男子たちは、誰とどこで過ごすかを浮かれた様子で話し、
女の子たちはそれを笑いながら聞いている。
陽翔は、誰にも言わず、図書室に向かった。
そこなら、人はいないはずだと思ったから。
しかし、そこには先客がいた。
窓際の席で、英文を読む彼女。
水城梓。
クリスマスイブの放課後に、ひとりで学校に残っている教師――
それだけで、どこか彼女が“自分に似ている”気がした。
「……先生」
陽翔が声をかけると、彼女は少し驚いたように顔を上げた。
「陽翔くん……こんな日に、学校に?」
「……あまり、騒がしいところは好きじゃなくて。
静かな場所に、来たかったんです」
「ふふ、同じね。……私も、同じ理由よ」
言葉を交わすたびに、胸の奥がじんわりと温かくなっていく。
それなのに――彼女との距離は、やはり“教師と生徒”のままだ。
陽翔は机に教科書を広げながら、ふと尋ねた。
「先生は……今日、誰かと予定とか……ないんですか?」
「……あると思う?」
「正直、いてほしくないです」
「……正直ね」
梓はかすかに笑いながら、窓の外に視線を移した。
イルミネーションが街の遠くで瞬いていた。
「教師って、寂しい仕事よ。
生徒が卒業しても、私は同じ校舎で、同じ時間を繰り返してる」
「でも、俺は……来年のクリスマスも、ここに来ると思う。
先生が、同じ時間を過ごしてるって、知ってるから」
言葉にした瞬間、胸が痛くなった。
(それ以上のことは、言えない)
(誰にも見つからないように、心だけを近づけてきたのに――)
梓は、そっと立ち上がった。
「陽翔くん。……ありがとう。
私を探しに来てくれて。……でも、もう帰った方がいいわ。
イルミネーション、見ないの?」
「俺は、今日一番綺麗だったのは、先生のその手元だったと思うから。
イルミネーションなんて、必要ないです」
彼女の指先が、教科書を閉じた瞬間――
ほんの一瞬だけ、陽翔の手に重なった。
ふたりは、言葉を交わさなかった。
でも、確かにあの数秒に、**“クリスマスの贈り物”**は存在していた。
•
帰り道。
陽翔は、ひとりで歩く街の中、誰にも気づかれないように小さく呟いた。
(俺は、誰より近くて、誰より遠い。
でも――今夜、先生と過ごしたこの時間だけは、忘れたくない)
教室では話せない。
放課後も一緒には帰れない。
けれど、心だけは、確かに寄り添っていた。
それが、ふたりだけのクリスマスイブだった。
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