いい暮らしを始めよう
「エミリアのおかげで、宿代と食事代がタダになってしまった……!」
街道沿いの食堂兼宿屋『飛ぶ蛙亭』の主人は、枯れてしまった琥珀桃の木がエミリアの祈りで蘇って大喜びだった。
結果として、エミリアの食事代も今晩の宿代も無料だと言い張られてしまったのだ。
いまは宿泊する2人部屋の一室である。
シャワーを浴びて、宿屋の名前の大きく刺繍してあるパジャマに着替える。
エミリアは、ベッドの上で飛び跳ねた。
「わぁ、すごいです! ふっかふか……ふっかふかですっ!」
「いや、ただの安宿のベッドだろう?」
「え? ベッドというのは、木の板に古い毛布が1枚のってるアレじゃないんですか?」
「いや待て! どれだけ劣悪なベッドで寝てたんだ!?」
アビゲイルは目を丸くするので、エミリアは「え?」と首を傾げる。
「劣悪ですか?」
「あぁ。聞く限りはな」
「し、知らなかったです……!」
「食事の貧しさと言い、悲惨なベッドといい、極悪環境としか言いようがない!?」
「ご、極悪……!」
ちなみにセレネイド女子修道院ではシャワーから温かい水が出てきたことはない。
真冬でも冷たい水で身体を清めている。
それを聞いて、アビゲイルは大きな大きなため息をついた。
「まったく……将来の『聖女』候補たちにそんな扱いを……」
「なんでも経費削減だってことで」
「……おい、さっきから気になっているが。エミリアはどうしてそんなにケロっとしているんだ?」
「え?」
アビゲイルがちょっと怒っているような表情をしているので、エミリアは驚く。
「そんな酷い生活を強いられて、外の世界も知らない君を平気で追放する……天歌教のことを憎くはないのか?」
「そ、そんなこと考えたこともなかったです」
「……エミリア。君は少し、自分のことを大事にした方がいい」
「自分を、大事に」
アビゲイルの真剣な表情に、思わずうなずく。
天歌教の教えや、修道院の掟が一番。
『聖女見習い』はそれに従うのが当たり前。
そう思ってきたエミリアは、アビゲイルの言葉に戸惑いながらも、少し嬉しく思う。
「まぁ、安心しなさい。エミリア、君の身柄はこの大魔女アビゲイルがあずかった。必ずや君を健康にして、その強大な魔力を研究したいと思う!」
「は、はぁ……」
「なんだ、何か言いたそうだが」
「あのぅ……いっぱい食べてよく寝たら、私もアビゲイルさんみたいになれますか?」
「私のように?」
「アビゲイルさん、すごくスタイルがよくて、その、胸もぱんってしてて、足も長くてかっこいいので……!」
見るからに大人びた、すらりとしたアビゲイルは本当にかっこいい!
自分もいつかこうなれるのだろうか。
「だっ! だから、褒めてもなにもでないぞ、エミリアっ……!」
「はわっ、すみません。つい正直に!」
「まぁ、エミリアの発育が悪いのは、ほぼ確実に劣悪な生活のせいだろうからな」
「じゃあ、いっぱい食べていっぱい寝たら、私もアビゲイルさんみたいにかっこよくなれるんですね!?」
「すぐではないが、可能性はある」
「やったー!」
エミリアは決意した。
この人についていこう、と。
「見たところ、痩せすぎで顔色が悪いがもとはよさそうだからな」
「ほっ、褒めても何もでないですよっ!」
「ところで、修道院の外に出るのは初めてだろう?」
「そう……ですね……むにゃ……」
「だったら、健康的な生活を送りつつ、エミリアが1人で生きていけるまでをサポートさせてもらう。それでWIN-WINだろう」
「……ふわーあ」
「そうと決まれば、健康的な生活はよい睡眠から。さっそく就寝を……」
「すぅ……すぅ……」
「――……って、もう寝ている」
エミリアは、ものすごく寝つきがよかった。
というか、いつでもお腹が空いていて、いつでも眠かった。お祈りの時間も、目を閉じると立ったまま熟睡してしまうくらいだ。
万年空腹、万年寝不足。
お腹いっぱいになって、生まれて初めてのふかふかベッドに寝転がれば、即寝落ちしない方がおかしい。
この状況は、アビゲイルの推察どおりエミリアが持つ『規格外の魔力の器』が原因だ。
その実態をまだエミリア自身は気づいていない。
下段に【評価欄:☆☆☆☆☆】がありますので、
★★★★★評価 →超面白いじゃん!
★★★★☆評価 →普通に続き読みたい~♪
★★★☆☆評価 →まぁまぁかなぁ~?
★★☆☆☆評価 →今後に期待かな?
★☆☆☆☆評価 →うーん、微妙……。
みたいな感じで、ぽちっとお願いします!
【ブックマーク】や【お気に入りユーザー登録】もぜひ!!




