栄養満点
「こ、これは……!」
「わーん、壊しちゃった、ごごごごめんなさい~!」
「いや、そんなことは気にしなくていいが、これはやはり……」
アビゲイルは、難しい顔をして何かを考えている。
最悪だ。
あんなに美味しいご飯をおなかいっぱいご馳走してもらっておいて、アビゲイルの持ち物を壊してしまうなんて。もしかして、このまま奴隷として売り払ってやろうみたいなことを考えていたりして……すごく怖い顔しているし。
「ううう……」
「なぁ、エミリア」
「はっ、はいぃっ!」
「君は、逸材かもしれない」
「いっ、逸材ですか!?」
「あぁ、強い魔力を持っていることは間違いない。私の作った魔力測定器が容量不足となると、本格的な検査が必要だが」
「けっ、検査」
「エミリア、君は何か急ぐ旅の途中なのか?」
「急ぐ……わけじゃないです」
なんなら、目的もないです。
ただただ、修道院を追い出されて、とりあえず近くの街を目指していただけなので。
「なるほど」
アビゲイルは、うんうんと頷いた。
なんだろう、何が起きるんだろう。
「私はある仮説を立てているんだ。身体の成長と、魔力の関係についてを研究テーマのひとつにしている」
「研究……なんだかすごそう」
「すごくなんてないさ。簡単にいえば『栄養と休養が、魔力を増大させる』という理論だ」
アビゲイルの言うには、こうだった。
おそらくエミリアは膨大な魔力の器を持っている。魔力の器は、個人によってその大きさが異なる。魔力の器を正常に働かせるためには、健康な身体が必要なのだという。
エミリアはその魔力の器が大きすぎて、それを満たすのに必要な栄養や睡眠が人よりもうんと多い可能性がある――らしい。
「というか、栄養状態も健康状態も悪すぎる! せっかくの銀髪もパサパサだし、顔色も悪い」
「な、なるほど……?」
「つまりは、君の発育状態が悪そうなのは、劣悪な生活環境、巨大な魔力の器を持っているという2つの原因があるんだ」
「れ、劣悪……!」
修道院の生活以外を知らないエミリアは、「劣悪」という言葉に驚く。
もしかして、干からびたパンばかりの食事や、睡眠時間は4時間までと決められていることや、移動はすべて小走りで行うという決まりって、もしかして「劣悪」だったのか?
「――とにかく、エミリア。君に協力を頼みたい」
「きょ、協力」
「ああ、私に、君の生活を改善させてくれ!」
アビゲイルの言うには、そうすることで、エミリアの本来の魔力を計れるようにしたいというのだ。
「私の研究の参考にさせてもらいたいんだ。しばらく、私の家で寝泊まりしてもらうことになるが」
「えーっと、お役に立てるなら!」
「ありがとう。今日はここの宿に泊まろう。相部屋でいいか?」
「はい、大丈夫です」
『飛ぶ蛙亭』の宿は、食堂とは別の建物にあるらしい。
外に出ると、エミリアは1本の木を見つけた。
見上げるように立派な木だが、葉っぱの1枚もついていない。どうやら、立ち枯れしてしまっているようだ。
「いやあ、最近になって急に枯れてしまってねぇ。うまい琥珀桃のなるいい木だったんだが」
「桃の木だったんですね……」
「天歌教の聖女様がいらっしゃれば、この木を蘇生してもらうんだが」
「いや、ご店主。ここまで枯れてしまった木だ。さすがに蘇生は難しいだろう」
「そうですか。アビゲイルさんがそう言うんじゃあ無理か……」
「あの、私なんかじゃダメかもですが、やってみていいでしょうか……えいっ!」
エミリアが、蘇生の祈りを込めて木の幹に触れる。
その瞬間、幹には瑞々しさが戻り、青々と葉っぱは茂り、さらには桃の実がたわわに実った。あたりに、甘い匂いが立ち込める。
「こ、こいつぁすごい!」
「あんなに完全に枯れていた木を、一瞬でここまで!?」
「わ、わぁ……私、蘇生のお祈りが成功したのはじめてですっ!」
店主とアビゲイルの嬉しそうな、驚いたような顔を見て、エミリアは少し誇らしい気持ちになる。
うまくいって、喜んでもらってよかった。
「これは……やはり栄養満点の食事は魔力の増強に効果的ということだな……!」
エミリアも、アビゲイルの言葉に賛成だった。
どう考えても、さっき食べたごはんのおかげだ。
お腹がいっぱいで、幸せで、なんだか力がみなぎってくる気がする。
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