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第二十九話


「彼女がスキルについて…嘘を?」


 レントは万里雄のその発言を思わずそのまま聞き返す。彼女がレントの前世の恋人であるなら、やはりレントとしても生きていて欲しいと思っていた。だからこそその発言を聞き流すことはできなかった。


「うん、彼女のスキル:崩壊は自分を殺すスキルなんかじゃない。」


 万里雄は知っている事実をレントに並べ始める。


「つまり?」


「詳しく言うと、彼女のスキルはあくまで周囲を破壊・崩壊させるスキルで、自身には影響が出ないんだ。彼女のスキルは体内に巡る魔力に、スキル崩壊が混ざり、その影響で周囲の物質を壊してしまうというものだから。自分の体に影響が出るようなスキルじゃない。体に巡る魔力が崩壊を引き起こすから、もしも彼女の言った通りならとっくに死んでるはずさ」


「じゃぁ彼女は死なないのか?」


「うん、死なないね。でも…他の人が危ないから…治したいとかなんじゃ?あと…これはとっても失礼なことだけど、怒らずに聞いてよ?」


「まぁ内容によるな。」


「はぁ…。いっちゃえば彼女は魔界の姫だ。つまり世継ぎを生まないといけない立場でしょ?でもあのまま崩壊が体に巡り続けてしまうと…つまり子供は作れない。」


「…なるほど。確かにその通りだ。」


 つまりシオリとの行為は常に相手を崩壊させる可能性をはらんでいるってことか。


「無差別に崩壊させるならどうして食べ物とかは大丈夫なんだ?」


「実際はある程度コントロールできるから、普通に食事はできるんだと思う。ただ完全にコントロールできないのは事実で、何回かに一階は口の中で食べ物が崩壊しているだろうね。それか胃の中とか。」


「待ってくれ。体内のものまで?」


「うん、要は彼女の魔力にふれれば速ドボンで、彼女は魔力を制御できない。」


 レントはさらに首を傾げる。


「魔力が制御できない?」


「彼女は病気なんだ。」


「ど、どんな病気なんだ!?」


 突然の万里雄のその発言に、レントは思わず大きな声を出してしまった。


「文字通り、魔力暴走症っていうらしい。魔力暴走症は生まれながらに何らかの原因で魔力を制御する力が人よりも弱いっていう症状らしい。」


「待て待て待て…つまり?」


「うん、彼女にとってもっとも必要な事はスキルを取り除くことじゃない。魔力制御を妨げる原因を取り除くことだ。」


 レントは万里雄を思いっきり抱きしめた。太った人特有の心地よさがある。


「お前ってやつは…やっぱり天才だ。この世界に来ていてくれていてありがとう。」


「ははは、ありがとう。でも多分、状況はそんな良くないよ。」


「え?」


「だって君、まだ彼女のこと好きだろ?」


「い、いや…それは…そうかもしれないが…いや…待て。」


 レントはその感情を明確に表現することはできない。二人は前世で仲たがいして別れたわけじゃない。ある日突然死が二人を別れさせただけだった。当然レント自身が命を落とすその瞬間まで、彼はずっと彼女を愛し続けていた。


「世継ぎ問題で焦って治そうとしているなら、彼女の病気を治すだけで全て解決しちゃう。でもそれをすれば彼女は世継ぎを生む、魔皇国の貴族とかと結婚してね。そうしたら彼女はもはや永遠に君の手には届かない。それに…ただでさえ彼女は魔界の姫で、君とは身分も何もかも違う。」


 唐突に並べられるすさまじい現実にレントは静かにうつむいた。


 ただ抵抗するように小さな声で反抗した。


「いや、それでも彼女が幸せになるならそれでいい。前世では…。」


 きっと俺の不運のせいで彼女は死んだから。


 レントはその言葉を何とか飲み込んだ。そう、彼女は自分のせいで死んだ、ずっと彼はそう考えている。両親もその例外に洩れない。


「僕だったら、なおさら幸せにしたいと思うけどね。」


「…?」


 レントは万里雄の方を見上げた。


「君と彼女がどんな人生を歩んだのか知らないけど、来世でまた会うなんて…それは運命以外の何物でもないんだ。」


「万里…雄。」


 レントは万里雄のその目を見つめる。


「お前…太ってるのにロマンチストだな。」


 万里雄はガクリッと姿勢を崩した。


「ただまぁ…一理、いや、百理あるな。どんな形になるかは分からないが、全力を尽くして見せる!」


 顔上げたレントの視線には力がこもっていた。


「そう、その勢いさ!」


 二人はなんとなくその場の勢いで、おもいきりハイタッチした。

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