第三十話
といっても二人がやることはそこまで変わらない。
まずは準備を整えることが必要だった。魔力暴走症その者の仕組みを見た万里雄は、あの病気が現在治療法の見つかっていない非常に珍しい病気であることをレントに説明していた。
つまり、どちらにせよアルテマの存在を頼りにすることになる。
そもそも未知の治療方法を未知の生命体だよりに治そうとするのはひどい話だが、現状医療の知識などがない以上、やはりアルテマへと全てはつながっていく。
果たしてその道が英知なのか、今のところである可能性が高いため、二人はアルテマを第一歩にすることに決めた。
そしてアルテマと出会う為にやらないといけないことは非常に単純だった。
そう、それは…いつも通り未界の探索だ。
今日も今日とて二人は未界へと踏み出した。
そして今回向かう場所は以前から二人が依頼をこなしてきた森のさらに奥。樹林によって太陽光がある程度遮られ、森は若干くらい。
その鬱蒼とした雰囲気だけで二人は警戒心を強めずにはいられない。
今回この危険な探索に踏み入った理由は万里雄の制作したクロスガンによるところが大きい。要は戦力だけでいえばかなり整ったので、それを早速探索に使おうとしていた。
特に依頼は受けておらず、魔物が現れ次第その魔物の換金部位を回収するという形だ。二人がやっていることは他の冒険者もよくやることで、俗に自由探索と言われている。
「森じゃ油断は速命取りだからな、お互いに注意しいこう。」
そういうレントは未来を可視化しつつ動いていた。
レントが持つ特殊能力は発動範囲を特定すれば無差別に発動することができる。現状の限界範囲は周辺二十メートル、そこまで広範囲という訳ではない。
本当に油断しないようにしなくてはすぐに魔物相手に足元を救われることになるだろう。
万里雄が周囲をキョロキョロとしながら進む中、突然レントが動きだした。
その場でしゃがんでクロスガンを構える。しっかりとスコープを覗き込んだ。
すぐにパシュンッという小さな音がなった。クロスガンの速度は音速に達し、並みの生物では回避できない。
レントが発射した数秒後、ドサリッ、という音が森の奥から鳴った。
「や…やったの?」
「あぁ。それにしても凄いな。弓よりも遥かに真っ直ぐ飛ぶし、速度もめちゃくちゃだ。これならかなり通用しそうだな。」
「それはよかったよ。」
二人は討伐した魔物の元へと向かった。そしてすぐに魔物の換金部位をはがす。
レントが一発で打ち抜いたのはガルッグという鹿に似た魔物で、大きな角が特徴だ。その角と皮は換金部位として非常に優秀であり、また肉も可食であり、非常に美味だ。体長は日本の鹿よりも小さく、およそ一メートル弱といったところだ。
ただし今回二人には肉まで持ち帰れるほどの用意はない。
皮と角を回収し、二人はガルッグの元を後にした。
それらかも二人はある程度の魔物を討伐し、その魔物の換金部位を回収し続けた。
クロスガンの性能もしっかりと実感でき、二人はその日の自由探索を終えた。
ギルドに戻ると、いつも通りアイシャに換金部位を渡す。
「なるほど、今日は自由探索だったのですね。わかりました、こちらをお預かりいたします。」
アイシャは二人が持っていた大きな袋の中を見た。
「…ほう…十五歳でドマゾなのに…なかなかやりますね。」
アイシャはそれだけ言い残すと、換金部位を持って奥の扉へと入っていった。
「…見直されたってことじゃない?」
「だといいけどな…。」
レントが扉の奥を見守っていると、直ぐにアイシャが戻ってきた。その手元にはいつも通り今回の料金が握られている。
「二人とも、朗報ととるべきか、それとも悲報ととるべきか、今回の換金で熱帯林エリアへの探索許可が下りました。無論依頼も受けることが可能です。」
「熱帯林?」
万里雄が首を傾げる。
「ほ、本当ですか?随分と早いですね…。」
万里雄は横に立つレントの嬉しそうな顔に首を傾げる。
このリーンズという世界には、わかりやすいギルドランクといった格付けはなく、立ち入れるエリアによってその者が持つ力量が分かる。ただし未界は未だ探索途中の地であり、ほとんどが解明されていない。いわゆる最高ランクに値するエリアは…現状はない。
ギルドカードには立ち入りが許可されている土地が刻まれていくのだが、最高ランクに達するとその全ての記載がなくなり、カードそのものが黒色に、さらに右下にALLというアルファベットが刻まれる。これはどこでも自由に行けるという意味だ。
余談だがギルドカード自体の色はそこまで決まっていない。立ち入れるエリアによって、そのエリアの特質にあった色に変えることを選択することができるだけだ。変えなくともよい。
例えば灼熱エリアであれば赤、凍土エリアであれば白…に変えることができる。
「ま、これだけ稼げれば無難でしょうね。」
アイシャから手渡された袋の中身には、前回よりも多いい三十万円が入っていた。
「レント。」
二人はそれを見て向かい合う。
「万里雄。」
そしてレントは右手、万里雄は左手を上げた。
「エアボードを買おう!」
「新しい物資を買おう!」
二人は全く噛み合っていなかったが、そのまま強引にハイタッチした。




