第二十二話
「あぁ…視線を集めちゃったみたいだな。」
「視線は愚か、敵意を集めていると思うんだ、僕は。」
万里雄がそうつぶやいた瞬間、ドギルスの群れが一斉に二人に飛び掛かってきた。
ただその速度はフロッグファングに比べると、かなり見劣りするものだった。万里雄が木の陰に隠れる中、レントだけがその陰から出る。手にはナイフを持っている。
その場所にドギルスはいないというのに、レントが歩いていくと的確にその場所にドギルスが飛び込んでくる。まるで最初から何もかも決まっている演舞のようだった。
レントは飛び込んできたドギルスの首にナイフをあてがう。レントがナイフを振るわずとも、ドギルスの動く勢いだけで頸動脈が切断される。
一匹が一瞬で戦闘不能にされたことに動揺し、全てのドギルスがレントから遠のいた。
レントはポケットから石を取り出すと、それをドギルスの後方へと投げた。後方に着弾した石が爆発し、ドギルスたちは驚いてレントに飛び掛かった。
それをすでに知っていたレントは、次々にドギルスの頸動脈を切断していく。そこまで生命力があるわけでもないドギルスたちは、その場に崩れ落ちていった。
万里雄はその光景に素直に感心した。全てのドギルスが戦闘不能になったことを確認し、レントの元へと駆け寄った。
「す、凄いよレント!ホブゴブリンの時からうすうす思っていたけど、まるで最初から相手の動きを知っていたみたいだよね!」
「ハハハ…そうかな?そんなことはないんだけどね。」
レントは図星を突かれてついつい動揺しながら答えてしまった。ただ万里雄は察しが悪いため、そこに疑問をいだくことはなかった。
レントはそんな万里雄の様子にホッとしながら、倒したドギルスから換金部位をとる。
「うげっ!?そうか…皮をはがないといけないのか…。」
「気持ちは分かるが、四匹を一人でさばくのは流石に面倒だ。簡単だから手伝ってくれ。」
「うぅ…わかった。仕方がないよね。」
万里雄もレントの隣にしゃがむと、ドギルスから皮を取り始めた。解体方法はシカや、イノシシとさほどかわらない。その生物の体の形に添ってナイフを通し、丁寧にはぐだけだ。
「よし…大体終わったな。」
四匹をさばくのに二時間程度かかった。他の捕食者が現れることなく、無事に換金部位の回収を終えた。レントは皮に触れて気付いたことを口にした。
「油をまとっていたんだな。だから万里雄の魔法であんなに燃えたみたいだ。」
「そうだね。この力にまだ慣れてなくて、ついつい構造理解を発動するのが遅れちゃうな。今後はもっと精進することにするよ。」
確かに万里雄が事前に構造理解を発動していれば避けれた事態でもあった。
はぎ取った皮はそれなりの重量があり、万里雄の鞄に入れておいた大き目の布袋にそれを移す。もしかしての事態を想定して、それなりの物資をお互いに持ち歩くようしている。
万里雄の場合はそれをリュックサックに、レントの場合はたすき掛けの鞄に。
「よし、手荷物も増えたし、今日はここまでにしておこう。」
「りょうかーい。」
帰り道、少しだけ気になったことを万里雄はレントに聞いた。
「そういえば、鰐皮みたいなものって、言っていたけど、そんなに高価値なの?」
「あぁ、かなりコスパがいいんだ。もっとも目撃数も少ないから、今回は運がいい方だな。わかりやすく言えば、この皮だけで寮費二か月分は賄えるな。」
「や、やった!凄いことじゃないか!」
「喜ぶ気持ちもわかるが、この金は必要物資を買い足すのに使うぞ。とりあえず俺たちは依頼をこなすための物資面がひどすぎる。より多くの資金を得るためにはそれ相応の下準備が必要だ。」
「た、確かにそうだよね。はぁ…まだまだ先は長そうだ。」
「人生なんてそんなもんさ。」
二人は無事にギルドまで帰還した。
受付嬢のアイシャに取ってきたものをそれぞれ渡す。
「…なるほど、よい収穫ですね。十五歳・ドマゾ・ゲイだとは思えない収穫です。」
アイシャは満足そうに二人が持ち帰った物資を見ている。新しく増えたゲイという肩書は万里雄と依頼をこなすようになってから増えたものだ。
「アイシャさん、あんまり大きな声でそういうことを言うと、ギルド内での俺たちの印象が悪くなっちゃうんで、勘弁してくださいよ。」
「あら?気付いていないのですか?すでにギルド内であなた達の立ち位置は微妙なものですよ。」
「え?」
二人の言ったその一文字が、偶然にも一致した。
「それはそうです。異世界人の発見、連日にわたるサルバギルド長の独占、新生物の発見、冒険者になって一週間程度のペーペーがやっていいことじゃありませんからね。」
「ま、まさか…最近感じる不気味な視線って?」
「それが誰からのどういう視線かは知りませんが、おそらく疎まれているのでしょう。十五歳・ドマゾ・ゲイならむしろご褒美かもしれませんが。」
「ご褒美じゃありませんよ!…はぁ、最悪だ。」
「まぁまぁ仕方ないよレント。それに優秀な人間が疎まれることは仕方のないことさ(キラーン)」
万里雄がなぜか格好つけながらレントの方を見つめる。芳しくないこの状況でも、万里雄は何も変わらない。レントはため息をつくも、仕方がないかと受け流すことにした。




