第十二話
ホブゴブリンが完全に動かなくなったことを確認したレントは先ほどの青年の方を見る。
するとレントの奥にある違和感は大きくなるばかりだった。問題は彼の服装にあった。彼は黒いポロシャツに黒い半ズボンという非常にラフな格好で、皮鎧すら付けていない。
やはり太っていて、いわゆるデブだ。多少ぽっちゃりだとかそういうレベルではない。それに全身黒い服装で統一しているが髪は驚くほど白かった。人間が年を取れば生える白髪特有の透明感は一切なく、後から白で着彩されたかのようだった。動物の毛の白さ、美しさに近い。瞳まで白く、普通ではない。
座っていてわかり辛いがおそらく背はそこまで高くない。百六十センチを少し超えたくらいだろう。
「怪我は?」
「…ない…けど。」
「…けど?」
「ここは…一体どこなんだ?それにそいつはいったい?」
「は?」
青年が指さすのは先ほどレントが無力化したホブゴブリンだった。レントは考えを巡らすも、ホブゴブリンはどこまで行ってもホブゴブリンで、それ以上でもそれ以下でもない。
「あれはホブゴブリンだけど。結構メジャーな魔物だし…知らなかったのか?」
「知ってるよ…小説で読んだことがあるから。ということはここは…やっぱり異世界なのか?」
…異世界。偶然出会った少年からまさかそんなワードが出てくるとは思わなかったが、今の発言で彼の素性がなんとなく理解できたレントは、一瞬頭を抱えたい気分だった。
「まさか君は…地球から?」
太った青年はその体でダイナミックにレントに迫ってくる。迫力と勢いに押されてレントは数歩下がる。
「そ、そうなんだよ!地球を知っているってことは君ももしかして!?」
「そうだよ。といっても俺はたぶん君とはちょっと事情が違う。この世界には転生してきたんだ。君はその感じを見ると…おそらく転移してきたんだろ?」
「た、たぶんね。気付いたらここにいて。でもよかった。突然のことで困ったし、死にかけたけど似た境遇の人がいて助かったよ。この世界について何も分からない。よければ教えてくれないか?」
「あぁ…それは構わないけど、一度落ち着いて。」
かなり焦っていたのか彼はそれなりの大きさでしゃべっていた。このままでは他の魔物までここにおびき出してしまう。
青年は周囲を見渡すと、一度深呼吸した。
「そ、そうだよね。ごめん。正直まだ落ち着けないけど…安全な場所に行きたいな」
「気持ちは分かるけど…少し待って欲しい。色々やらなきゃいけないことがある。…そうだ、遅れちゃったけど俺はレント。前の世界でも蓮人だったんだ。」
「な、なるほど、転生者だからこの世界にも名前があるのか。僕は佐藤 万里雄っていうんだ。」
「万里雄…か。わかった。それと…鏡って見た?」
「む?あぁ…安心して、デブはデフォルトだから。」
失礼なこというなよという顔で万里雄はレントの方を見る。もちろんそんな意図で言ったわけではない。
「そ、そこじゃないんだ。問題は君の目と髪の毛にあって…。」
「え?普通だろ?髪は元々黒だよ。日本人だし、目だってそうさ。そういえばこの世界…言語が日本語なの?」
「そうだよ。日本語だ。君のことは万里雄って呼んでもいいか?」
万里雄はおもむろに自分の頭に手を伸ばすと、髪の毛を一本だけ抜いた。
「もちろんそれはいいけど…痛た………………なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
自分の髪を見てめちゃくちゃ驚いている。やはり転移後におきた謎の変化らしい。日本語を話しているからそうではないかと思っていた。転生してきたレントには事情がよく分からないが、転移するとまた少し違うのだろう。
「あぁ…パニックにはならないで欲しかった。」
「ゴゴゴゴゴごめん。でも…これはその…少し予想外だった。朝目が覚めたらここにいて…それで…ダメだやっぱり整理ができない。」
「わかった。万里雄、今から君を落ち着ける場所に案内するから少し落ち着いて。この場所は結構危険でね。この世界には君のような人が来た形跡がいくつもある。だから快く受けて居れてくれるはずだ。」
冷静に考えればやはり万里雄以外もレント含めてこの世界には地球人が来ている。明らかに日本人の形跡が点在している。恐らく万里雄のようなレントとは少し違った事情を持った人間が他にもいるはずだ。
レントは万里雄の手を引きつつ、安全をできるだけ確保しながら移動を開始した。
すでに能力をオンにしている。もちろんレントが隠し持つもう一つの方だ。
周囲の景色が逆再生されていく中、一瞬で万里雄のシルエットだけがその場から消えた。確認するまでもなく信じていたが、彼の言っていることは本当だったようだ。
すぐに自分のシルエットを辿り、レントは無事にテレポータルまで戻った。
「ギルドカードを持っていないとこの先へはいけない。すぐに助けを呼んでくるから君はここで待っていてくれないか?」
「ひ、一人にはして欲しくないけど…それしかないんだよね?」
「大丈夫、直ぐに戻ってこれるから。」
「よかった。それなら早く行って、早く戻ってきて。」
万里雄に後押しされてレントはテレポータルに乗る。
まだ日が出ているのでそこまで危険ではないはずだ。
依頼初日からかなりの高カロリーな一日だとレントはため息をつく、もちろん万里雄が太っていたからではない。




