第十一話
アイシャに見送られ、レントは一度外出し必要最低限の物資を購入した。購入した道具はそれぞれ革製のウエストポーチに弓矢と矢筒。矢筒には十数本程度の矢が入っている。
購入した革製のウエストポーチを正面にたすき掛けし、小型の弓矢を背中に担いだ。
それとベンからもらったお下がりの皮鎧を着ている。背丈がベンに追いつきそうだったレントは、ベンのおさがりが丁度良かった。それになんとなく彼に守られている感じがしてこの皮鎧が気に入っていた。装着しているのは手と胴だけだ。
昼食を一度食べ終えてからすぐに、レントは道具を持ってテレポータルへと足を運んでいた。
これが…テレポータルか。想像よりも大きいな。
レントは初めて見るテレポータルに少しだけ感動していた。
テレポータルの床は石のタイルで円状に作られていて、円周上にそれぞれ六つの柱が設置されている。柱中心部には何か脈動するエネルギー体が行き来しておりガラスのようなもので覆われていてそのエネルギー体は観察できるようになっている。エネルギー体は緑色に脈動しており、どこか魅力的だった。
テレポータルには管理人がいるも、受付のような物はない。管理人にギルドカードを見せれば、そのままテレポータルの元へと行くことができ、テレポータルに乗れば自動でギルドカードを認識して該当するポータルへと転移する。
レントはすでに管理人にギルドカードを見せ終わり、テレポータルの目の前にいた。
ここで感動していると後から来るものの邪魔になるのですぐにポータルに乗った。
レントが乗ると同時に床のタイルの隙間から緑色の光が漏れ出し始め、一瞬だけ目も開けられないほどに輝きが増した。
次の瞬間には光が収まり、レントは自分が転移したことを知った。
テレポータルの周囲は別段何か建物に囲まれているわけではなく、そのまま森にむき出しというある種自然にとけ込んだ作りになっていた。
テレポータルから降りれば森、周囲を見れば森。
レントはこの世界で初めて自然の中に放り出された。
「…空気が美味しい。」
彼自身は暢気なことを考えていたが。
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イヤシ草採集の途中、フロックファングに襲われたレントは何とか魔物たちを退けた。
そして無力化した何体かの魔物から魔物資源として換金できる箇所、換金部位を回収していた。かなりの強敵である彼らは数が多く、それなりに有名だった為、レントも換金部位がどこか知っていた。
「確か…爪と牙だったよな。」
爆発しても無事だった矢じりを使って器用に換金部位を取り外し、持ってきたウエストポーチにそれをしまった。
レントは換金部位の取り外しを終え、少し木陰で休んだ。今日来たのは間違いなくイヤシ草の回収だったが、フロックファングに追い回されたせいで森の奥まで来てしまっていた。
「はぁ…最悪だな。まさか初回の依頼でこんなことになるなんてな。俺もついてない。」
皮肉にも見上げた空はどこまでも青い。
彼の現状を端的にまとめるなら森で迷子。
ただしレントには帰る手段があった。スキル鑑定では見ることのできない、彼が生来から発動し続けていた特殊能力を利用すれば、この事態も打開することが可能だった。
レントは木に背中を預けて座りつつ、ある特殊能力を発動した。
先ほどまで行動していた足跡をたどるように、レントのシルエットが逆再生されていく。動き続けるシルエットは、レントの帰るべき道を示していた。
「せっかくある能力なんだ。使わないと損だよな。」
生まれた当時、この能力を対象の未来を見る能力だと考えていたが、それは違った。十五年の歳月をかけ、少しずつ使いこなしていくと、この能力は対象の過去の行動までたどれることが発覚した。
レントは動き続ける自分のシルエットについて行こうと立ち上がるも、丁度そのタイミングでどこから叫び声が聞こえた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
聞こえる声の大きさから叫び声がそこまで遠くないことが分かる。
「…おいおい、それは良くない。」
レントは初心者もいいところだった。このまま叫び声の方へと向かい、道も知らない森を歩くのは危険そのものであり、また叫び声をあげている人を助けられるとも限らない。
ただ立ち止まった足は、思考とは裏腹に叫び声の方へと舵を切っていた。
別に正義感が強い方じゃない。今の状況に余裕を感じているわけでもない。
ただ少なくともその時は、無償で子供たちを助けるベンの顔が脳裏に浮かんでいた。
レントは森を凄まじい勢いでかけ、直ぐに叫び声の発信地へとたどり着いた。
やはり叫び声まではそこまで距離はなく、直ぐに状況を確認することができた。
襲われているのは太った少年。レントより少しは年上に見えるが、同時にたるんだそのお腹で未界という危険な土地を単独行動しているという違和感もあった。
だがそれを気にしていると彼は死んでしまう。
彼は魔物に襲われており、敵はホブゴブリン。通常ホブゴブリンの大きさは150センチ程度だが、このホブゴブリンは二メートルはあった。細長い体躯をしており、力が強そうには見えない。レントは即座に戦力を分析して自分が有利だと判断した。
敵は一体だけ、レントは落ちている石を拾ってホブゴブリンの方へと投げた。
彼を巻き込まないように威力を最小限に調節し、干渉爆破で爆破させる。
「ギギャッ!?」
狙いはドンピシャ、こめかみ辺りに石がクリーンヒットしそこで爆発する。
ただし威力を落としすぎたようで一撃で無力化することはできなかった。
こめかみという急所に直撃したことで、ホブゴブリンは脳震盪をおこしその場に片膝をついた。レントはその隙を見逃すことなく全速力でホブゴブリンへと接近、そのままこめかみに膝蹴りを当てる。
ホブゴブリンを襲う脳震盪は加速し、そのまま横向きに倒れた。
レントはすぐに落ちていた石をホブゴブリンの口に放り込んで、距離を取る。同時に太った青年に飛びついて姿勢を低くした。
その瞬間ホブゴブリンの頭部が爆発した。
レントは七歳の頃からベンに武術を学んでいた。ベンが元戦士で、自分の目指す先が決まっていたため頼るのは当然のことだった。
完成度はまだ低いが、それなりに近接戦闘もこなせる。剣、拳、弓、槍、斧、それ以外の武器も多少使えるが、ベンが総合的になんでもできる戦士だった為その技術の多くを仕込まれた。
彼が冒険者を志す以上、そうした技術が彼の人生の助けになるのは明らかで、ベンは頼まれて以来積極的に戦闘技術をレントに仕込んでいた。




