第十話
意外にも隣に座った少年が話しかけてくることはなかった。
レントはなぜ少年が隣に座ったのかと考えながらも、食事をかき込んだ。一日中何も食べてなかったので、最高の味だったことは間違いない。
どれだけ腹が減っていたのか、食事はおよそ五分程度で終わってしまった。
そして隣に座った少年はレントが食事を終えるのを待っていたかのように話しかけてきた。もしかすると見るからに空腹なレントに気を使っていたのかもしれない。
「冒険者?」
「そうですね。一応冒険者です。といっても今日登録したばかりで、まだ一度も依頼を受けたことすらないですけどね。」
「なるほど、それなら本格始動は明日からってことかい?」
「その通りです。」
なんというか、人懐っこい感じのする少年だった。
「そうなんだ。それなら僕たちは仲間だね。」
レントに手を伸ばし、握手を求めてくる。正直まだ少し幼く見える少年が同じ冒険者だったとは考えていなかったが、レントは素直に握手に応じだ。
少しだけ童顔だが、同年代だと思えばそこまで違和感はない。レントと同じく若くして冒険者を志しているのだろう。
「君はもう依頼を?」
レントは同年代に思える少年に一度敬語を使うのをやめた。というのも先ほどの握手が友情の始まりに思えたからだ。
「うん?まぁある程度はやったかな。」
「凄いな。君だって最近ギルドに入ったばかりだろ?」
「いや、そんなことはないけど。」
彼は少しだけ笑って答えた。少しその様子に違和感があったが、レントの中では先に依頼を受けている同年代という情報が優先され、その違和感に気付けなかった。
「す、凄いな本当に。最初に受けるのにおすすめな依頼とかある?」
「う~ん、やっぱり最初は討伐依頼は受けないで、採取依頼を受けるのがおすすめかな。例えばイヤシ草の回収なんかは結構おすすめかな。人界には生えてないから未界に行くことになるけど、未界の中でも探索がある程度完了して安全だと考えられているエリアだから。」
「なるほど、明日はそれを受けてみるよ、ありがとう。」
「参考になったならよかった。それじゃ僕はもう行くよ。」
少年は立ち上がってしまった。レントとしてはもう少し話したいところだったが、引き留めるのは申し訳なく、最後にある質問だけすることにした。
「そうだ、君の名前は?」
「僕はサルバ・アルトラス。ギルド長だ。」
「え?」
「ははは。ま、君のしていた勘違いはよくあるから気にしないでくれ。僕も鏡を見るたびに自分が童顔だなと思うよ。」
それだけ言うとサルバは手を振って去ってしまった。
いろいろと整理が追い付かず、レントをなんとも言えない感情が包み込んだ。完全に失敗してしまったと悔やむが、いつまでもここにいては仕方ないとい一度自室に戻った。
なんとなく疲労感の大きい一日だった為(人間方面で)、その日レントはすぐに眠りについた。
●
翌朝、レントはある苦手意識と共にギルドに足を運んでいた。
というのも依頼を受けるには例の美人受付嬢に話しかけなければならない。
「あの、イヤシ草採取の依頼を受けたいんですけど。」
「あぁ、十五歳・ドマゾの。ということは今回が初依頼ですね?」
「その情報を一新することは可能ですか?」
「それではギルドカードを。」
どうもレントの提案は聞き入れてもらえないらしい。それでもとりあえず指示の通り彼女にギルドカードを渡した。
「そういえばあなたの名前は?」
レントは今後も長い付き合いになるであろう彼女への苦手意識を払拭するために、まずは自分から歩み寄ることにしてみた。
「わお。十五歳・ドマゾにナンパされる日が来るとは。私はアイシャ・トリシアル。見ての通り誇り高き純粋なエルフよ。」
「そ、そうですかアイシャさん。改めて俺はレント。十五歳・ドマゾ呼びは遠慮したいですね。」
「わかりました。レントと呼んで差し上げましょう。」
いきなりの呼び捨て。それでも最初よりはなんとなく苦手意識が減少した気がした。
「レント、テレポータルの使い方は分りますか?」
アイシャがギルドカードを返してくる。
「一応わかります。依頼の登録されたギルドカードを持ってテレポータルに乗るだけですよね?」
テレポータルという特殊な魔導装置があり、この装置は未界にある各地のポータルに接続されていて、冒険者が該当地域へと転移するのに利用することができる。
各地のポータルは先駆者が設置したもので、意外にも破壊されたことはまだない。このように、後から設置した装置が破壊されることも、妨害されることもないので、未界の地に知的生命体は存在しないと考えられている。
「その通りです。それではお気をつけて。あなたの初の冒険が、より良いものになることを祈っています。」
最後に向けられたアイシャの笑顔は、やはり美しかった。




