第十三話
レントがギルドに直接働きかけ、何とか万里雄をグラン・サトウに招くことができた。
現在、万里雄とレントはギルド:人狼の牙にいた。
さらに言えばただギルドにいるわけではなく、ギルド人狼の牙にあるギルド長室に通されていた。やはり万里雄の存在は異質だったらしく、とりあえず話を聞きたいというサルバの意志だ。
「それで…君が万里雄君か。」
ギルド長室の席配置は、少し豪華な校長室に近い。奥に執務用の机と豪奢な椅子、その手前に向かい合うように二人掛けのソファが二つある。その真ん中にはガラス張りの机があり、飲み物が計三つ用意されている。
ただしこの部屋には飲み物の数より一人多く人がいる。
その女性は椅子には座っておらず、サルバの座る椅子の後ろに立っている。
彼女の名前はゾーイ・カトラス。サルバの秘書をしているらしい。冒険者としても世界中を飛び回らないといけない彼にとって、ギルド長としての執務は足かせでしかない。そうした時は彼女がギルド長代理として執務や、必要最低限のギルドの業務を進めているらしい。
レントと同じような黒髪を伸ばし、前髪をかきあげて8:2程度で分けている。真っ赤な眼鏡をかけており、右目の下に小さなほくろがある。身長は180以上あるように感じられ、女性にしては背が高い。肌は浅黒く、伸ばした髪からはみ出た尖った耳が彼女をエルフだと教えてくれる。アイシャと一緒だ。ただし浅黒い肌をしているのでエルフはエルフでもダークエルフだ。
女性用スーツのような服装で、上着はワイシャツ。それに大き目の手帳のような物を持っていて、おそらくあれでサルバの予定を管理しているのだろう。
アイシャとは対照的にスタイル抜群で、出るところは出て、引き締まるところはしっかりと引き締まっている。セクシーすぎてみる場所に困るほどだ。
少しだけスリットの入ったミニスカートがそれをさらに強調している。
「君の話は事前にレントから聞いた。まさか依頼初日からこんな大変なことになるなんて。君もあまりついていないね。」
サルバがレントの方を見て笑みをこぼす。だがすぐに万里雄へと視線を戻した。
「万里雄君、君がこれから選ぶことのできる道はそれなりに多い。というのも地球世界から転移してきたのは君だけじゃない。前例があるから対応できるわけだ。」
やはりレントの推測が正しかったらしい。
「君は今十八歳で間違いなないね?」
「そ、そうです。」
「ふむ…この世界で生きるための教育を受けるには少し歳をとりすぎだ。でも労働環境は比較的に整っているから、一番いい選択肢を二つ用意しよう。」
サルバが後ろに手を伸ばすと、秘書ゾーイが二枚用紙を渡す。
そして二枚の紙をガラス張りの机に並べた。何も書いていないほうを表にして。
「まず一つ目が…誰でもできる工場勤務。」
一枚の紙をぺらりとめくる。そこには色々な工場がリストになっている。
「次が…企業の事務だ。」
もう一枚の紙をめくる。今度は色々な企業がリストになっていた。
どちらも安全で、非常に安定した職場だ。
「働かざる者食うべからずってのはこの世界も共通していてね、でも君は選択した企業、または工場で自由に働ける。どちらも安定していて、この世界で普通に生きることができる。どうする?」
「えっと…。」
万里雄はリストを眺める。会社名の横には今後やることになる作業が書かれていた。どれも単純なもので、確かに地球の知識でも問題なく出来るものだった。
「冒険が…したいんですけど。」
万里雄が頭をポリポリとかきながら提案する。
それを聞いたサルバは一瞬だけ間を開けると、ため息をついた。
「うんうん、気持ちは分かるよ。転移者の数は少ないが、その多くが君と同じ提案をした。どうも地球という世界は冒険に憧れを持つ傾向が強いみたいだね。でも賛成するかどうかは別だ。」
サルバが見るのは万里雄のその腹だ。確かに未界でもレントが助けなければあのまま逃げることもできずに死んでいただろう。運動ができるようには見えない。
「おすすめはしない。」
サルバがはっきりと突き放した。ただ万里雄はその発言にある疑問を感じ、口を開いた。
「おすすめはしないってことは、選択はできるってことなんですか?」
「あぁ…僕らは転移者の選択に口を挟まない。最善で最高の道を提案するが、自由意志は君らにある。君自身の意志を無視してまで、何かをやらせることはないさ。」
どこまでも自由に、ただ同時に危険なことがあっても知りませんよ、という意味を持っているのだろう。命の責任はだれにもとることができない。死とはそういうものだ。
「…それでも冒険者になりたいです。どうせなら…魔法とか使ってモテたいし。」
想像以上の不純さにレントは思わず万里雄を二度見する。
「…アハハ、君は正直で面白いね。」
サルバも思わず苦笑いしている。
「きっと僕は転移してチート無双パターンだから…。」
さらにボソッと万里雄はつぶやいた。レントはもはやただ前を見て、知らぬ存ぜぬを貫こうとしていた。
「あぁ…それならわかった。ただし僕としても条件がある。多分君はこのままギルドに所属しても最初の依頼で重傷を負うし、死んでしまうと思うんだ。」
さりげなく容赦のないサルバはつらつらと万里雄が今依頼を受ければどうなるかを説明した。かなりグロテスクな内容だった為、流石に能天気な万里雄も少しだけ怯えた様子だ。
「だから単独行動はダメだ。…そこで一緒に行動する人を付けるべきだと思う。」
レントはサルバのその提案にうんうんと深く頷いている。同郷が犬死など目覚めが悪いため、その提案には大いに賛成だった。
「なぁレント君。そう思わないか?」
サルバの視線はいつの間にかレントの方を向いていた。
そしてその視線の意味をレントは素早く悟った。
「あぁ…なるほど…でもまぁ俺だったら初心者には任せない…かもしれませんね。」
さりげなくギルド長サルバに抵抗する。
「いや、僕だったら初心者にこそ任せるね。難しい依頼を受けること自体出来ないし、簡単な依頼を一緒にやることで、お互いに成長できるだろう?それに君は…ランク通りの実力じゃない。」
「え?」




