第三十八話 絢爛王都
駐屯地で一夜を明かしたボルス一行は、馬車で街道を進んでいた。かなり長い時間を馬車に揺られて過ごしたフォリンであったが、アルフから同僚――閃銀騎士団の構成員達――の紹介を受けるなどしていたからか、体感時間は然程ではなかった。自己紹介、と聞いて雨後のタケノコのようにひょこひょこと顔を覗かせた男達の様子は、少し面白かった。
「俺はグスタフ」「ルートヴィッヒだ」「カール」「ゲオルグという」「ヒューゴー!」……その光景に、無意識に顔がほころぶ。
だが、フォリンには気になることも二つあった。一つ目は、キーロフという女性の名を聞いていないこと。そして二つ目は、ボルス達が"閃銀騎士団"なのか、それとも"閃銀隊"なのか、だ。一行の長であるボルスや他の人々の様子を見る限り前者が正しそうではあるのだが、ついつい"口を滑らせる"者がいる点が気になったのである。
落ち着いたところで訊ねてみよう。そう思っていたフォリンだったが、残念ながら時間切れだった。
「そろそろ見えてきたぞ」
ボルスの声を耳にしたフォリンは、幌の外へと身を乗り出す。外の景色を見たフォリンは、目の前に広がる景色に大きく目を見開いた。
一言で言って、圧倒。目の前に聳え立つ城壁の大きさと整った石垣の美しさは、彼女が今まで目にしたことのないものであった。フォリンが知っているその城壁は時を経て朽ちた、遺跡そのものであったから。
「グランツヘイム王国、王都ディアデム。俺達人間の国だ」
次第に、馬車が城壁へと近付いていく。整備された道の先には、城壁と同じ雰囲気を纏う門があった。この門の形に、フォリンは見覚えがある。マルクやミリアを出迎え、送り出す、あの門だった。
フォリンが育った廃墟。それと同じ名を冠した真の王都が今、美しい姿で目の前にある。
「綺麗……」
思わず、フォリンが呟いた。すぐそこにいたボルスは、そんな少女の横顔を見つめながら、無言のまま微笑む。
門の前に辿り着くと、門扉の左右にいた男達が声をかけながら歩み寄って来る。彼らは親し気表情で、ボルスへと声をかけてきた。どうやら、彼らとは見知った仲らしい。
「ご苦労さん。大所帯になった理由も聞いてるよ」
「閃銀隊は……今回も全員揃ってるな?」
「ああ、何とかな。五体満足だ」
「練兵場にミテラの救命師が来てる。例のあの子だ。軽い怪我でも、戻ったら診てもらえよ」
ミテラ。聞いたことがある。マルクやミリアの住む、杜人の暮らす都。二人のことを考えて思い起こされるのは、時間を遡る前に見た、彼らの顔だった。二人はあれから、どうなったのだろう。考えても、すぐに答えは見つかりそうもない。
「しかし、閃銀隊も騎士団とは。出世を喜ぶべきなのか?」
「はは、そうしてくれ」
図らずも、フォリンが気になっていた疑問の答えがころりと転がってくる。どうやら、ボルス達は最近"出世"を果たしたらしい。彼らの中で名称がふわふわと固まっていなかったのも頷ける。
門番が馬車から離れ、暫くして。轟音と共に門が開いた。馬車が動き出し、門を潜ってゆく。門の先には、フォリンが見知った形をしながらも、全く異なる光景が広がっていた。
フォリンは、ディアデムを良く知っている。ディアデムは、紛れもなく彼女が育った土地だ。どこに何があるか、把握している。目を瞑ってでも、フォリンは迷うことなく目的地へとたどり着くだろう。しかし、目の前の王都は、自身の知らない顔をしていた。似た形をしているが、このディアデムは"違う"。ボルス達が暮らすこのディアデムは、確かに"生きて"いた。王都ディアデムはこんなに美しかったのか、と改めて思う。人類が衰退する前、確かに彼らは繁栄していたのだ。




