第三十七話 想像の範囲外
「ごめんな。簡単に閃銀隊に入って欲しいなんて言って」
ぐつぐつと煮える鍋の前に立つグスタフが、気落ちした様子を隠さずに言う。自分に向けられたらしきその言葉に、フォリンは最初気が付くことができなかった。慌ててグスタフの方を振り向くと、彼は申し訳なさそうな顔で俯く。
「隊長の言う通りだ。俺達の仕事は一言で言えば人を殺めることなんだから。……軽率だったよ」
うなだれ、反省するグスタフ。鍋の下にくべられた薪がぱちぱちと音を立てて爆ぜる。嵩の減ってきたそれに、フォリンが薪を加えた。少女は、グスタフと対照的にどこまでも冷静だった。
理由は簡単だ。フォリンはグスタフの言葉の意味を正確に汲めていないのだ。フォリンには、人を殺める――殺すということが理解できていない。人同士が殺しあうことを、彼女は知らなかった。少女の暮らしていた滅びかけの人間の社会において、他人の生命を奪うような行為はとうにその営みから失われていた。
「他に、私にできることは無いんでしょうか」
フォリンにボルスやグスタフの事情は分からない。だが、フランツの様子を見る限り、彼らと肩を並べることは必ずや価値のある行為であるはずだ。それに代わった何かをできないか。フォリンの頭の中は、それだけで支配されていた。フォリンという少女はあまりに無知であるが故に、ボルスの気持ちを推し量ることができなかったのだ。
「そうだなぁ」
どこか遠い目をしながら、グスタフが立ち上がる。そして、薄く小さな皿と、鍋の中身を掬う為のレードルを手に取りながら、言った。
「今は、美味しいご飯を作ってくれるだけで十分助かるかな」




