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絶滅俯瞰  作者: 遒�。�
第二章 絢爛王都ディアデム
32/42

第三十一話 矛盾無き不整合

 永樹暦は、東の杜の民が取り決めた暦だ。およそ一万年もの長きに渡り使われてきたその暦は、杜人の文明がいかに古くから続いてきたかを物語っている。杜人に遅れて発展し、当時暦を持たなかった他の種族も杜人との交流の中で永樹暦を用いるようになった。故に、独自の暦が作られるまでの間、他の種族でも広く永樹暦は使われた。現代においても永樹暦は種族を跨いで使われるのには、こうした背景があるからに他ならない。


「ざっと六百と五十年。君と俺達の間には認識している時間に差がある訳か」


 自分が耳にした数字を冷静に引き算していたボルス。人間にとっては非常に大きな数字だ。


「これなら、俺が視た光景にも説明がつく。矛盾もない」

「矛盾もない? あるじゃないか! この娘の言う今日があまりにもかけ離れている!」


 確かにもっともだ、とボルス。キーロフの意見も正しいのだ。だが、彼は続ける。


「君の言うこともわかる。だが、俺がこの子を"視た"んだぞ」


 視た、と。ボルスはそう言ってキーロフを見つめていた。その一言で、キーロフは押し黙ってしまった。どうやらボルスのあの能力には、信憑性があるようだ。


「少なくとも、この子は怪しい者じゃない。……だから、そんな目をするなって」

「……わかっているさ。お前が言うからには、そうなんだろう。それは私だってよくわかっている……」


 ボルスが先程見せたこの力のことは、このキーロフという女性もきちんと把握しているらしい。フォリンもボルスの口から伝えられた訳ではないが、彼は人の心を視る能力を持っているようだ。考えを視覚化し、読み取る。自身の考えを見せることもできる。法術についての手解きは受けてきたはずのフォリンだが、このような法術は聞いたことがない。老人達からも伝えられていないことを考えると、彼固有の能力なのかもしれない。


「だが、それをどう説明する気だ? 遠い未来から来たなどと言ってみろ。狂人扱い確実だぞ」


 キーロフの口ぶりからして、先程のボルスの能力はやはり一般的なものではないようだ。更に、どう説明するのかと訊ねているところからして、無闇矢鱈に使えるものでもないらしい。


「王都への出入りは厳しい。身元の証明ができない者をどうやって連れて行くつもりだ?」

「そうは言ったって、頼れる相手もいない女の子をほっぽり出せないだろう」

「それは、そうだが。下手をすれば、お前の立場が今より厳しくなるんだぞ」


 不安げな声音。どうやら、キーロフが先程からこうして牽制しているのはボルスの今後を危惧してのことらしい。厳しかった目元が、少し悲しげに歪んでいる。それを察しているのだろう、ボルスも眉間に皺を寄せ、顎に手を当て少し思案顔になった。

 しかし、少しして彼が顔を上げた時。その表情に憂いは無くなっていた。


「そこは伏せればいい。何処から来たかとは聞いても、"いつ"から来たかなんて誰も聞かないさ」

「……はっ?」


 あまりにも迷い無く言い切るボルスに、キーロフは面食らってしまったようだ。フォリンも目を丸くしてボルスを見つめるが、対する彼は笑みを浮かべている。


「ディアデムから来たとは言えないが……出来る限り正直に答えよう。杜人に育てられた人間の女の子、って所とかな」

「杜人に育てられたと言ったら、その方が追求されそうじゃないか?」

「いや、ここは寧ろ正直に言うべきだ。この子の知識は杜人に寄っているみたいだしな」


 フォリンは約十六年もの間、人間が殆ど死に絶えた世界で暮らして来た。彼女を育んだのは人間ではなく、杜人ありきの文化。これは確かな事実なのだ。フォリンは人間の姿をしているが、文化的背景は杜人であると言えた。


「とにかく。フォリンちゃんもディアデムに連れて行く。……いいな?」

「……あぁ、了解だ」


 まだ不安そうなキーロフに対し、ボルスが念押しをする。彼は静かにキーロフとフォリンを見つめると、静かに微笑んで見せた。


「大丈夫。きっと何とかするからさ」


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