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絶滅俯瞰  作者: 遒�。�
第二章 絢爛王都ディアデム
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第三十話 不思議の理由

 奴隷商に攫われた人々の故郷は、見事なまでにばらばらだった。方々で値の付きそうな者を攫っては、監視の目が緩い地域で売り払っていたらしい。ボルス達が現れるのがあと少し遅ければ、彼らは皆金で買われていくところであった。

 攫われた人々は、ディアデムを王都とするこの"王国"の民だ。彼らを無事に送り届けることは、ボルス達――フォリンがボルスにせられた情報によれば彼らは"騎士"と呼ばれる者であるらしい――の役目だと言う。だが、今の彼等だけでは人手が心許ない。故に一度王都へ戻り、態勢を整えることとなった。

 しかし、この民を送り届けるという話において、問題が一つ。


「さて、困ったな。君は何処に送れば良いのやら」


 急拵えで建てられたテントの中で、ボルスとフォリンは向かい合って立っていた。ボルスは頭を掻き、言葉と違わない困り顔を浮かべている。問題というのは、彼の目の前にいる少女の処遇だった。出身を問われ、ディアデムと答えたフォリン。その名はフォリンだけでなく、ボルスにとっても特別な名だった。フォリンがボルスの名を知った時、ディアデムの名を視て驚いたのは、つい先程のことであり記憶に新しい。ボルスの傍らにいる副隊長こと、レナータ・キーロフの片眉がディアデムと聞いて跳ねていたことにもフォリンは気付いている。

 この"ディアデム出身である"というフォリンの発言こそが、問題の原因なのだ。


「君の言うディアデムと、我々の知るディアデム。名こそ同じだがどうやら別物……うん、悩ましい」


 フォリンがボルスを視たように、ボルスもまたフォリンを視ている。フォリンが伝えたいと思ったことの中に、自身がいた亡国の王都の存在があったのだ。彼らの眉間に皺を刻ませているのは、その互いが見た光景だ。


「君を視た時、俺も君の暮らしていた場所を見たよ。……既視感はあった。だが、俺の知るディアデムはあんな廃墟じゃあない」


 どこか、見覚えのある光景。だが、決定的に違うことがある。構造などの形は良く似ているし面影もある。しかし――


「いや……あれは。廃墟というよりも寧ろ、遺跡だ」


 遺跡。この表現に、フォリンは大いに聞き覚えがあった。自分を育ててくれた杜人達も、ディアデムをそう表現していたからだ。だが、この表現には違和感しか無い。それを、キーロフが思わず口にする。


「ディアデムが遺跡だと? 馬鹿な。そこまで朽ちているというのなら、相当な年月が経って……」


 ここまで述べて、キーロフの顔が強張った。何かに気が付いたらしい。ボルスも同様らしく、それを確かめるべくフォリンへと問いかける。


「フォリンちゃん。君の中で、今日という日はいつかな」


 名前や自身の出身は自分の意識の中にあったが、日付というものは伝えたいものの中からすっかり欠落していた。意識を失って目が覚めるまで、数時間から一日くらいはズレがあるかもしれない。そうは思ったものの、然程重大な情報では無いとフォリンは思っていたのだ。……先程までは、だが。

 フォリンはボルスの言葉を受けて、自分の中で今日だと思っていた月日と、"年"を告げた。


「戦王暦六九八年、霜楓の月、三日です」

「……杜人の暦か?」

「月の表現は、そうだな。しかし、東の杜の民のものとは違う」


 キーロフが首を横に振る。彼らの会話を聞いて、フォリンはようやく彼らが杜人と異なる文化の中で生きていることを思い出した。かつての暦は、種族によって異なるものだった。今は失われてしまったが、人はその種族によって異なる暦を使っていたとマルクが教えてくれたことを思い出す。


「センオウレキ以外の年の表現はできるかい?」

「えぇと、これ以外だと……」


 普段、フォリンは杜人の暦を使って生活していた。人間の暦は、意味をなさなくなってしまっていたからだ。普段使うものは先程述べた戦王暦だが、もう一つ、彼女が知っている暦があった。通じるか不安だったが、一か八か、それを答えてみる。


「永樹暦の9813年です」


 ボルスの目が見開かれる。それとほぼ同時に、少し離れた場所に立っていたキーロフがフォリンに詰め寄ってきた。


「おい、間違いないのか?」


 前のめりのキーロフの肩を、「こらこら」とボルスが抑える。しかし彼女はその手を払い、まっすぐフォリンの顔を見ていた。その表情は驚愕以外の色も含んでいるようだったが、今のフォリンにはそれが何かわからなかった。綺麗な色の唇が、震える声で言葉を紡ぐ。


「私達にとっての今日は、永樹暦9162年、春の月17日だぞ。……悪ふざけをするにしても、もう少し可愛げのあるものにするべきだ」


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