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絶滅俯瞰  作者: 遒�。�
第一章 亡国王都ディアデム
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第二十五話 素敵な贈り物

 目の前の妖精に対して危機感を覚えたフォリンは、半ば無意識に右手を前に伸ばしていた。見様見真似の所作で、彼女は妖精に結界――鳥籠――を張った。追われてはたまらないという焦燥と恐れが、フォリンに力を与えていたと考えて間違いないだろう。

 バチン、バチン、と。結界と妖精が不気味な音を立てている。フォリンは全速力で王都へ向かって空を駆け抜けた。

 逃げながら思い返すのは、妖精の言葉だ。"ハッピー・バースデー"。誕生日のお祝い。その言葉をフォリンは知っているし、贈られたことも贈ったこともある。だが、フォリンははたと気が付いた。誕生日とは、本来この世に生を受けたその日を指している。しかし、フォリンの誕生日は恐らく"違う"。以前、ゼクト翁が言っていたのだ。「お前のホントの誕生日はいつだったんだろうな」、と。

 そう。フォリンの誕生日は、ある日ぽん、と王都に現れたその日があてられていたのだ。本当の彼女の誕生日は、誰にもわからない。正しい誕生日を、フォリンという少女は知らないまま育ったのだ。


 全速力で王都に帰還したフォリンが空を見上げると、天は怪しく輝いていた。それは昨夜の光景を彷彿とさせたが、浮かび上がる文様は全く違うものだった。そもそも、何の障害もなく王都の中へと入れた点から見ても、状況は昨日とは異なっているのだろう。

 フォリンが自分の家が見える街路まで来ると、ミリアが二階から顔を出している様子が視界に飛び込んできた。

「フォリンちゃん! 無事ね!?」

「うん! 大丈夫!」

 ミリアが窓から手を伸ばしている。フォリンは彼女の手目掛けて跳び上がると、その手を取った。そして、窓から"帰宅"する。この騒ぎに、マルクも寝てはいられず、ベッドから半身を起こすだけでなく、床に足をつけていた。

 少女の足が、すとんと床に着く。ミリアはフォリンの手を握ったまま、その美しい顔を近付けた。


「何があったか、話せる?」


 ミリアの優しい問いに、フォリンは黙って頷く。森で出逢った奇妙な妖精のことを、フォリンは順を追って話した。奇妙な破裂音、明滅する光、見たこともない妖精。ハッピー・バースデーという歌と、素敵な贈り物という言葉。

 ひとしきり話を聞いたミリアとマルクだったが、両名共眉間に皺を寄せている。


「妖精王を呼び戻せないかしら……こういう時こそ、話のわかる妖精がいたら助かるんだけど」

 仮にも妖精王と呼ばれる存在に対し、使いっ走りにするような言い方をするミリア。しかし、それに対して誰も指摘する間も無く、事態は動く。


 空気を震わせる、轟音。とてつもなく不気味な音が響く。窓の外、音のする方向には、何があるか。王都の中心、かつて絢爛豪華なことで知られた王城だ。だが、音源は城ではない。城の裏手の、門だった。フォリンが死者を送り出す、あの門だ。

 門は禍々しい空気を纏い、鈍く光っていた。こんな光景を、今までフォリンは見たことがなかった。彼女の知る門は、もっと優しげな光を湛えていたのだから。

 形容し難い音がしたと同時に、門が開き始めた。それと同時に、フォリンの身体が浮き上がる。

「きゃ……!」

「フォリンちゃん!!」

 王都の中央――門の方へと、身体が引っ張られる。彼女の身体に働いているべき重力が失われる。マルクも自身の身体を叱咤しつつ手を伸ばすが、フォリンの身体を吸い寄せる力は強まるばかりだった。


「何よこれ……何なのよ、これ!」


 フォリンの手をしっかりと掴みながら、ミリアが怒鳴り声を上げる。すると、意外なことにそれに対する回答が得られた。


「贈り物です、素敵な、素敵な、贈り物です」


 その声に、フォリンは聞き覚えがあった。つい先程、森で遭遇したあの妖精だ。ミリアとマルクはぎょっとした表情で、フォリンの傍らに浮かぶ妖精を凝視していた。しかしその妖精は、そんな彼らの視線やフォリンの身に起きている異常を意にも介さない。

「ハッピー・バースデー、トゥーユー、ハッピー・バースデー、トゥーユー、ハッピー・バースデー、ディーア、フォリン」

 手を叩き始め、その上歌まで歌い始める妖精。その様に、ミリアがギリ、と歯軋りをする。能天気としか思えない妖精の歌は、不愉快極まりなかった。

「ハッピー・バースデー、トゥーユー」

 妖精が、笑っている。体温の無い表情で、笑っている。残酷で冷酷なそれは、笑顔であるべくして造られた人形そのものだった。耐え切れず、ミリアが叫ぶ。

「バッカじゃないの!? アンタ妖精でしょ!? 今、この子……人間が! 危ない目に遭ってること、わかんないの!!?」

 窓枠から身を乗り出しながら、という苦しい体勢でミリアが声を上げる。妖精ならば、人間の安全を考えろ。当たり前のことをしてみせろ。ミリアはそう言っているのだ。しかし、その妖精はただただフォリンの傍らに浮かんでいるだけだった。そして、首を横に振り、告げる。


「これは、贈り物です。私は使命を全うしただけのこと」

「は……っ?」


 理解が遅れた。そして、そんな一瞬の隙を突いて、フォリンを引き寄せる力が強くなった。繋いでいた手が、離れる。兄妹の、悲鳴にも似た声が響く。


「フォリンちゃん!」

「フォリン!!」


 自分の名を呼ぶ二人の杜人。伸ばされた手、驚愕と焦燥が綯い交ぜになった表情。そんな二人の姿こそ、フォリンが意識を失う前にその目に焼き付けた、最後の景色だった。


絶滅俯瞰

第一章 亡国王都ディアデム・終

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