第二十四話 ハッピー・バースデー
まだまだ陽の高い時間ではあるが、もたもたしていると夜になってしまうだろうことはフォリンも勿論知っていた。彼女はなるべく早急に、獲物を仕留めて帰路に着かなければならないのだ。森の中に入ってしまえば、いかに日中であろうと薄暗い。加えて、陽が落ち始めればあっという間に真っ暗になってしまう。
「先ずは……確実に採れる物からにしようかな」
肉や魚を獲りたいのはやまやまであるし、彼女の第一目標も無論それだ。しかし、それらは絶対に獲得できるとは限らない。生き物であるからには、必死に逃げ隠れをする。広大な森の中を探しても、見つけられるとも限らない。対して、木の実や果物の類には逃げられることもない。フォリンは、残念ながら美味しそうには見えなくなってしまったグプレのことを思い出していた。
「まずはグプレを採りに行こうっと」
安定した食料を得る為、食べられる実を付ける樹々の在り処をフォリンは把握している。グプレやアプルだけでなく、お茶にする為のペルアやシュカも彼女はきちんと記憶しているのだ。
最短距離で向かう為、フォリンは自身が駆け回る高度を上げた。森の木々よりも高い場所に浮かび上がると、その景色がよく見渡せた。王都の周りには、森が広がるばかり。かつてあったであろう街道の類は、すっかり緑に侵されてしまっている。一見して見分けのつかない光景だが、フォリンという少女はこの荒廃した王都で育ってきた。何がどこにあるかは、彼女には判るのだ。
方角を確認し、グプレの生る樹を目掛けてフォリンが駆け出そうとしたその時のことだった。突然、フォリンの足元で破裂音が響く。森の中に似つかわしく無い、不自然な音。何事かと振り返ると、そこにもまた不自然な光景があった。
「何……あれ」
森の中で、光が明滅する。目を凝らすと、そこには妖精が浮かんでいた。
それは、フォリンが見たことのない妖精だった。王都の型では無いであろうそれ。手を叩きながら浮遊するその顔は、恐ろしいほどに妖精"らしい"ものだった。感情がなく、形だけ人間を真似たそれは、まさしく妖精であった。
そしてそれは、温度の無い笑みを浮かべながら、歌っていた。
「ハッピー・バースデー、トゥーユー」
妖精が歌う。
「ハッピー・バースデー、トゥーユー」
妖精が、歌う。
「ハッピー・バースデー、ディーア」
そして、何故か。
「フォリン」
少女の名を呼んだ。
「ハッピー・バースデー、トゥーユー」
妖精の拍手が、より一層激しくなる。パチパチパチパチパチ、という音は、人間の手首の動きでは再現できない程に速かった。昨日のこともあってフォリンが身構えていると、妖精はぱたりと拍手する手を止め、告げた。
「貴女の十六歳の誕生日。素敵な贈り物をお渡しします」
その言葉と同時に、妖精が光を放ち始める。その不気味な光景に、フォリンは背筋に冷や汗が流れたのを感じた。




