第二十一話 良い娘
「ふむ……成る程。よくわかりました。今回については、ミリアに非は無いことも」
頷き、納得している様子のオルガ。その姿に、フォリンはほっとした表情を隠さない。
「唯一気になるのはマルクの容態です。具合はどうなのです?」
「それは、ミリアさんに直接聞いてもらった方が良いかも。マルクさんを診ていたのはミリアさんだから」
フォリンの返答に、オルガはやれやれといった様子で口角をほんの少し上げる。
「そろそろミリアを許してやれ、と。本当、できたお嬢さんですね、フォリンは」
オルガはフォリンの気遣いをきちんと察していた。フォリンは褒め過ぎだと苦笑しつつ、半歩後ろに下がる。
「ミリアさんに代わるね」
「ええ。……そろそろ他所へ行っているでしょうから、ゆっくりでいいですよ」
事実、ミリアはフォリンが杖の前に立って暫くして姿を消してしまっていた。オルガは先んじてそう告げ、フォリンを送り出す。
「ミリアさん、ミリアさーん」
浮かぶ杖だけを残し、フォリンは庭先へと出る。そこにはミリアだけではなくグリムもおり、家から離れた所で何やら話している様子だった。二人はフォリンの声を聞き、ぱっと彼女の方へと振り返る。
「オルガさんが、マルクさんの様子を聞きたいって。代わって欲しいんだ」
「あら、ホント? 行く行く、すぐ行くわ!」
小走りで戻ってくるミリア。彼女はフォリンの横をすり抜け、すれ違いざまに手を振ると家の中へと戻って行く。
「ありがとね、フォリンちゃん!」
ミリアらしい、元気な声が響く。しかし、フォリンはほんの少しだけ違和感を覚えていた。最初振り返った時のミリアの雰囲気が、どこか厳しく寂しげだったことがひっかかっていたのだ。
フォリンは家の中へと戻らず、ただただ見えなくなった旅人の背中を見守るかのように誰もいない空間を見つめている。グリムはそんなフォリンの心中を察しており、黙って隣へ浮かんでいた。
死の淵にある、亡国の王都。彼女らが言葉を発さなければ、すぐに世界は静寂に支配されてしまう。こんな王都を、かつての人間達は想像することはできなかっただろう。
「……ねぇ、ばーちゃん」
「何じゃ?」
静寂を破ったのは、フォリンの方だった。フォリンは胸に当てた手を、ぎゅう、と握りしめている。フォリンのこの仕草の理由を、グリムは長年彼女を見守ってきていたが故に知っている。
心を痛めている時。悲しみに堪える時。悩みを抱えている時。フォリンがこの仕草をするのは、決まって彼女の小さな胸が苦しみに軋んでいる時なのだ。
グリムはフォリンの言葉を待っていたが、彼女は目が合った瞬間、ふいと視線を逸らしてしまった。その瞳は、迷いの色に支配されているようにグリムには見えた。だが、次にグリムが目にしたフォリンの表情は、グリム自身もよく知る儚げな微笑みだった。
「――私達も、中に戻ろう。私、帰ってきてからまだマルクさんと話もしてないんだ」
フォリンは一足先に、ミリアとよく似た足取りで家の中へと戻って行く。彼女の手は、既に胸から離れている。グリムは黙って、"人間"であるフォリンの言葉に従った。




