第十九話 オルガ
「――ミリアよ。オルガ、ちょっといいかしら」
ミリアが光に声をかけてからすぐ、光が淡く明滅した。柔らかい光の中にぼんやりとした人影が浮かんだかと思うと、光は影の中へと吸い込まれ、人の形を映し出す。その人物は心配そうな表情を浮かべ、ミリアを真っ直ぐ見つめていた。
『はい、こちらオルガ。……ミリア。今、どちらにいらっしゃいます?』
オルガ、と声をかけられて現れた人物の耳は、ミリアやマルクと同じ形をしていた。オルガもまた、長い時を生きる杜人の一人なのだ。そんな彼ら杜人の特徴とも言うべき整った顔立ちは、訝しげに、そして少し恐ろしく歪んでいた。
『本来ならば、既に帰還されている時間かと思いますが』
「こ、これには訳があるのよ。聞いて、話をさせて」
『下手な言い訳はせず、私を納得させて下さいね』
オルガは怒っていた。じっとりとした視線は批難の色を帯びていて、オルガがこれまで幾度となくミリアに困らされてきたことを周囲に察せさせるには十分だった。とはいえ、この場にいるフォリンも、そしてグリムも、そんなことは既に知っていたりする。
「オルガさん、あんまりミリアさんを怒らないであげて。マルクさんが怪我したりして、昨日から大変だったの」
ひょい、と。ミリアの肩に手をのせ、フォリンは嘆願した。訝しげに細められていたオルガの目が、少しだけ普段の形を取り戻す。フォリンもよく知っている、切れ長で涼しげな瞳だった。
『フォリンがいるということは、現在地はディアデムですか』
「うん。私の家だよ」
オルガはフォリンの顔をじっと見つめると、また信用ならないものを見る目をミリアへ向けた。
『……ミリア。貴方ではなくフォリンに話を伺います。構いませんね?』
「構うって言ってもフォリンちゃんに聞くんでしょ」
『よくわかってらっしゃいますことで』
不服そうに口を尖らせるミリアとは対照的に、オルガの口元は笑っていた。オルガはその表情をさらに柔らかくし、フォリンへと向き直る。
『では、フォリン。我らの王の代わりに、説明を願えるかな』
オルガの言葉に、フォリンは黙って頷いた。




