第十話 狂った妖精
チカチカと。明滅する光の輝きが大きくなる。その光が起点に、あっという間に幾何学模様が天へと伸びていく。それはすぐさまマルク達の頭上を覆い、夕焼けのその先へ変わっていこうとした星空を奇妙な模様で彩ってしまった。
「……久々に見たな、これは」
マルクは、この模様に見覚えがあった。複雑怪奇なそれは決して禍々しくはなく、一種の神々しさを孕んでいた。それもそのはず、これはかつてここで暮らしていた人々の生活を護る為のモノだった。つまり、この幾何学模様の意味する所は外界からの干渉を途絶する防護結界なのだ。
「キャハハハハ……」
「ふふ、ふふふふふ」
「クスクスクスクスクス」
空中に留まっていたマルクに、妖精の笑い声が近づいてくる。飛来する光は段々と人型を成しながら彼との距離を詰めていた。光で造られた手が伸び、金属糸を撚り合わせたような”髪”が見えた。そして、ついにその顔が現れる。
「……キャはっ」
「アヒャ、ひひひっ」
その相貌はかつて見知った妖精とは似ても似つかない異形へと成り果てていた。眼球は膨れ、瞳はあらぬ方向を向いている。ヒトで言う所の歯は口の中に収まらず、妖精自身の頬肉を貫きながら出鱈目に配置されていた。
「ここは、人間のスミカ!」
「人間の人間ノノノノノノ」
「カエサナイカエサナイカエサナナナナイイイイイイ」
奇声をを挙げながら突進してくる妖精を、マルクは身を翻して避けた。しかし避けきれず、彼の服の袖は鋭利な爪で切り裂かれてしまった。肉を裂かれなかったのは、不幸中の幸いだろう。
狂った妖精を前にして、マルクは自身の頭を下にする程の速度で急降下し、ミリアとフォリンを残してきた地上へ向かう。ミリアならばいざ知らず、ここまでの猛スピードをマルクが出すことは珍しかった。地上に降り立った彼に、フォリンが駆け寄る。
「マルクさんっ!」
「フォリン! ミリアも一緒だな」
彼女達の姿を見て、マルクは安心したといった様子で息を吐く。だが、のんびりしてもいられないとマルクは口を開いた。
「二人共、よく聞いてくれ。察しているかもしれんが、これはただのエラーじゃない」
「エラーじゃないって……」
あまりピンと来ていないらしいミリアに、マルクは切り裂かれた自身の衣服を見せる。
「妖精にやられた。なんとか避けたが……笑って許せる悪戯では済まされない」
ミリアの眉間に皺が寄る。人間が減り始めた頃から我が儘放題の子供のような妖精は確かに増えたが、それらがヒトに危害を加えるかと問えばそうではなかった。あくまで、”子供の悪戯”程度のものであり、文字通り笑って済ますことができる程度のものがほとんどなのだ。




