第十一話 迎撃用意
三人は門の妖精の目を避ける為、上空からは見え辛い小道を選びながら世闇の中を駆け抜ける。気まぐれすぎる街灯だけが、彼らの足下に味方してくれていた。
「あの妖精の狙いは、私達杜人だ。彼らはどうも、私達を排除したいらしい……王都から追い出す、という以上の意味で」
妖精の言動からして、杜人である彼らが王都に存在することを良しとしていないことは確かだった。肌で感じる殺気と危機感は、彼らに次の行動を急がせる。
「――防護結界、構築」
頭上に手をかざしたマルクが、素早く結界を構築する。彼の手のひらから生まれた光が、三人の身体に薄く広がりながら張り付いていく。膜はすぐに色と光を失ったが、そこには確かに不可視の結界が張られていた。
「ありがとう、マルクさん」
「フォリンは人間だから大丈夫とは思うが……念の為だ。それから、これはあくまで即席の結界だから無理はしないでくれ。すぐに穴が開いてしまうから」
「うん、気をつけるよ」
「ん、りょーかい」
マルクが施したこの防護結界は、無敵の結界ではない。完全に外敵からの干渉を拒絶するには、膨大な法力とそれに見合った術式を展開する為の時間が必要となるからだ。いかに優秀な法術師であれど、事前の準備も無しに構築できる術式には限界がある。
「元より王都からは出る予定だったが……あの結界があっては外には出られない。隙を突く、ということもできないだろう」
「私でも無理……なんだっけ?」
「ああ。都市防衛の為の結界は、結界という面で仕切った空間同士の干渉を無条件に拒絶するんだ。何者をも通さない」
この防護結界の仕組みは、その堅牢さから王都防衛の為に導入されてから一度も変更されたことの無い代物だった。その絶大な信頼を置かれていた防衛機構は、今、彼らの前に高い壁としてそびえ立っていた。
「じゃあ……やっぱり。言うことを聞いてもらうか……力ずくで停止させるしか無いんだね」
「……ああ。そういうことになる」
フォリンは移動しながら、何度も何度も妖精に呼びかけていた。しかし、つい先頃まで彼女に応えてくれていたはずの妖精達は、誰一人として返事をしてはくれなかったのだ。扉は開かず、電信会話機も起動しない。明かりを灯している街灯のシステムも、沈黙を守ったままだった。つまり、選択肢は一つしか無いのだ。
「さて……私はそろそろ一発かまして良いかしら?」
ミリアは、フォリンとマルクの会話から、次に動くべきは自分であると確信していた。妖精の停止は、本来、人間からの停止命令をもって行われるものだ。しかし、暴走状態に陥ってしまっている現在、それは叶わない。
だからこそ、ここで。ミリアの出番がやってくる。
ミリアは壁を上手く使い、妖精に姿を悟られないようにしながら上空の様子を窺う。妖精達は彼らの姿を見失ってから一定の高度を保って旋回を続けており、地上に降りる様子はまだ見られなかった。彼女はそれを確認しながら、後ろに立つフォリンに前を見たまま語りかける。
「いい? フォリンちゃん。私が飛び出したら、八秒待ってからバリッとお願い」
「う、うん」
ミリアの言葉に”もう少し詳しく”と言いたくてたまらなかったマルクだが、そんな時間は無く。彼女は髪を靡かせながら、小道の先にある広場へと向かって走って行った。広場と言ってもこの王都の中では小規模なのだが、そこには三人を覆い隠してくれる障害物は何も無い。上空の妖精は、そこに現れたミリアを数瞬の内に発見した。
「ミ、ミミミミミツケケケケケ」
「発見、ハッケン!」
人間を模して造られた骨格からするとありえない方向に首を曲げながら、急降下してくる妖精。遙か上空から降ってくるそれらを、ミリアは杖を構えて迎え撃つ。
「さぁさ、来なさいな!」
余裕の笑みを浮かべるミリア。彼女が持つ杖の先には、既に大きな光球が生まれている。ミリアは凶悪な大きさになった光球ごと、杖先を天に掲げた。それは一気に輝きを増し、夜闇に溶けていくはずの王都の一部をまるで日の照っている頃のように照らした。
だが、これしきのことで妖精は止まらない。彼らは人間と異なり、”視覚”というものに頼る必要が無いからだ。故に、この光には意味が無い。必要だったのは、”誘蛾灯”と”目標”の二つだけ。
――そう。この時、丁度。フォリンは”八秒”を数え終えていたのだ。




