夢を諦めし者
翌日
会社に来た伊野部に伊川は普段と変わらない様子で挨拶をしてきた。
「あっ、先輩昨日はすみません」
昨日から事を気にしているようで挨拶の後に謝ってきた。
「あー気にせんでええよ」
「ほんまですか?」
「だから気にすんな」
仕事するで、と肩を叩いてやると安心した様子で伊川は少し笑みを浮かべた。
その時のこと
部長がお客さんだぞ!!と伊野部に向かって叫ぶ
こんな時に誰だと思い、部長が指差す方を見てみるとそこにはなぜか村井がいた。
よく見たら村井の後ろに不機嫌そうに佇む後藤と苦笑いを浮かべる糸田の姿も
「何しに来たんや?お前らこんなとこ来てええんか?」
「来てもええんかも何も」
この人が行くと聞かなかったものでと後藤が村井を指差しながら答えると村井は満更でもない様子で話を始める
「どうしても話しておきたい事がありまして」
「……ちょっと待ってくれ」
伊野部は、部長に会議室を借りて良いか尋ねると大丈夫と返ってきて、とりあえず三人を一番近くの会議室まで案内した。
会議室に入り、鍵を掛けて椅子に腰を掛けると村井は、口を開いた。
「それでは早速ですが」
「伊川に関する何かか?」
「まぁ関係しているといえば間違ってはいないですかね」
曖昧な返答に伊野部は、おもわず表情を強ばらせると糸田が村井さん!と指摘するとはいはいっと糸田をあしらってから話を続ける
「そんなことよりも伊野部さんは何か夢とは持ってました?」
「なんやねんいきなり」
「良いですから」
「学生の時とかは夢の一つ二つあったけどな」
伊野部の答えに村井は、そうですか。と笑みを浮かべて後藤くんと話し掛けると後藤は、怪訝な表情を一瞬浮かべてから溜め息をついてゆっくり口を開く
「伊川さんにはこの会社に入る前まで付き合いのあった友人が一人いることが分かりました。今は連絡しても喧嘩ばかりらしいんですがね」
後藤の言葉に伊野部は、この間目撃した光景を思い出した。
あの電話の相手が伊川の友人だったという事になる
「伊川さん、突然夢を諦めてこの会社に入ったらしいですよ。理由一つ言わないで」
村井の言葉に伊野部は、おもわず表情を歪ませる
伊野部の表情を見ながら村井は、僅かに笑みを浮かべたのを横目に後藤は話を続ける
「それが原因でずっと仲良かった友人と喧嘩して、それ以来二人の仲は険悪状態」
それはそちらもご存じだと思いますが、と後藤は言うと今度は村井が口を開く
「夢を諦めし者」
「夢を諦めし者?」
そうです。村井は頷いて笑みを深めると伊野部はそうか、とだけ呟くと村井がそれでは僕らはこれで失礼します。と立ち上がる
「伊野部さんのお仕事を邪魔するわけにはいきませんから」
また失礼します。と頭を下げると後藤も頭を下げて村井と共に会議室を後にした。
二人が会議室を出ていき、一人になった伊野部は溜め息をつきながら厳しい表情で頭を抱えた。




